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遥かな高みへ「ヒカルの碁」主題歌「Get Over」が描くもの

日本に囲碁ブームを巻き起こした「ヒカルの碁」は、少年マンガの中で異彩を放っています。今回は、初代主題歌『Get Over』に焦点を当て、作品世界と見事にリンクした歌詞を、独自の視点で読み解きます。

等身大の歌詞が描き出す「ヒカルの碁」の世界観

『Get Over』は、女性ダンス&ボーカルグループ・Dreamが手がけました。突きつける様な高音が特徴的で、主題歌を務めたアニメ「ヒカルの碁」の世界観にもぴったりとハマっていました。

では、具体的にどのように作品とリンクしているのか、一つ一つみていきましょう。
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君が今僕を支えて 僕が今君を支える
だから迷いながらも共に生きていこうよ 未来へと
≪Get Over 歌詞より抜粋≫
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歌い出しの歌詞はまさに、神の一手を求めて高みを目指す、主人公・ヒカルと天才棋士の亡霊・佐為を彷彿させるものです。

一気に駆け上がるようなサビのメロディーと相まって、作品の持つスピード感やヒカルの秘められた可能性と上手くマッチしています。


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仲間と戯れ それなりで居ても
もの足りなさを感じてしまう
冷めた目で見られて
乾いた時代の風に吹かれている
≪Get Over 歌詞より抜粋≫
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ヒカルは佐為を失った悲しみと、佐為の気持ちに気づけなかった後ろめたさから、一度囲碁から離れますが、その時に初めて、世間と自分が生きる世界との違いを突きつけられました。同じ時代を生きていても、見る世界が違えば、人は孤立してしまうのです。

そしてそれは、佐為についてもいえることでした。ヒカルにしか見えない佐為を追う、塔矢アキラや、囲碁界の重鎮達。物語の中で、ヒカル=佐為だと勘違いされる場面がしばしば描かれます。

佐為が見えない人たちからは、佐為だと思われ、でも自分では、佐為には遠く及ばないことが分かっている辛さ。ごまかさなくてはならない面倒くささは、やがて佐為と打たせてやれない後ろめたさに変わっていきます。

佐為は確かにいるのに、誰にも見えない。そんな葛藤はまさに、この歌詞で歌われている心情と重なるのです。

いつの間にかヒカルにとって当たり前で、生活の一部になっていた囲碁は、少し離れてしまえば、誰にも理解されない世界なのです。

ヒカルの葛藤

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諦めきれるモノならば 最初から興味もたない
忘れられるモノなら 必要さも感じないから
不安な心と勇気が背中合わせになっている
だけど今なら夢をこの手で叶えてみせるよ
≪Get Over 歌詞より抜粋≫
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突き詰めることは、時に苦しく、壁にぶつかり、進むべき道を見失うこともあります。それでも諦められないのは、それだけ大切なモノだから。

周囲からは「諦めろ」「忘れろ」といわれても、頭に、胸に焼き付いて離れないものならば、それはきっと、手放してはいけないものです。

心の葛藤と戦いながらも、自分の目指した道を信じて一歩ずつ着実に前に進んでいく。決して格好をつけず、いつでも等身大。悩んだり苦しんだりしながら、傷だらけになって夢を勝ち取る姿はまさに、進藤ヒカルと重なります。

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傷ついて壊れそうな日も 涙して困らせる日もあるけれど
僕達はそれを越えていくんだ 誰より上を目指して
≪Get Over 歌詞より抜粋≫
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無知であるが故に、無邪気に囲碁の世界を突き進んでいたヒカル。しかし、力を付ければ付けるほど、塔矢アキラという目標がいかに遠いか、いつも側にいる佐為がいかに高い壁であるかを思い知ります。

ただかわいいだけではない、圧倒的な強さを誇る佐為は、ヒカルを時に怯えさせながらも、遥かなる高見へと引っ張り上げました。

画像引用元 (Amazon)

プライドが傷ついたり、ライバルに負けたり、アキラに見下されたり、佐為を失ったり。ヒカルは多くの挫折と悲しみを抱えて強くなります。

誰にも見えない、ヒカルしか知らない佐為という存在。ヒカルが何に涙し、なぜ大好きな囲碁を投げ出すのか分からず、周囲を困らせた時期もありました。

見えない壁も、大きな挫折も失望感も、それらすべてを越えて、ヒカルをはじめとする若き棋士達は高みを目指すのです。

誰よりも上を目指すこと。それはまさに、誰もなし得ない、神の一手を極めることを指しています。すべての棋士が目指す、その一点を見事に言い得た歌詞が素晴らしい。

夢の道は険しく…

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傷ついて壊れそうな日も 涙して困らせる日もあるけれど
僕達はそれを越えていくんだ 誰より上を目指して
≪Get Over 歌詞より抜粋≫
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夢に向かって突き進む中で、順調にいくことばかりではありません。挫折したり、仲間とぶつかったり、大きな壁の前に立ち尽くしてしまうこともあります。それでも、夢を叶えたいなら、目を背けてはいけません。

夢を叶えることは痛みを伴い、時に大切な人を傷つけることもあるのだと、この歌が教えてくれます。夢を目指す中で傷つけたり失ったりしたことも、道が間違っていなければいつかは自信にできます。

きれいごとだけでなく、リアルな葛藤や痛みがあるからこそ、この歌詞が刺さるのです。

悔し涙を力に変えて


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孤独だと感じる日でも 惨めだと感じる日さえあるけれど
僕達はきっと一人じゃないと思うよ 君がいる
≪Get Over 歌詞より抜粋≫
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作品の中でヒカルは、本因坊秀作(=佐為)を馬鹿にした、韓国の棋士に負けて涙します。誰も知らないけれど、ヒカルにとって佐為は特別な存在で、それを否定されることや馬鹿にされる悔しさは計り知れません。

佐為が消えてしまった今、ヒカルの周りに苦しみを理解してくれる人はいませんが、ヒカルの中には佐為が生きていて、それがヒカルの、誰にも負けない武器になっていることは確かです。

「君」は佐為であり、ライバル達

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なぜ人は時に過ちを…
後悔をしてもしきれず…
なぜ人はいつも それでもと越えていこうとする?
君が今僕を支えて 僕が今君を支える
だから迷いながらも共に生きていこうよ 未来へと
時に傷ついて壊れそうな日も 涙して困らせる日もあるけれど
僕達はそれを越えていくんだ 誰より上を目指して
≪Get Over 歌詞より抜粋≫
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佐為が導いてくれたからこそ、ヒカルはどんな困難を目の前にしても、囲碁の道から逃げません。もう二度と会えない佐為に、唯一会える場所が、碁盤の上だからです。

ここで歌われている過ちは、佐為の心の声に気づけなかった、ヒカルの後悔を彷彿させます。また、囲碁の勝負での惜敗や惨敗もあるでしょう。生きていく上で、失敗を避けることはできないのです。

それでも「僕」は一人ではなく、いつも「君」がいて、心強い支えになってくれています。歌の中で印象的に繰り返される「君」と「僕」の対比。ここで歌われている「君」とは、一体誰なのでしょうか。

まず、ヒカルを囲碁の道へと導き、神の一手に迫る棋士たる才能を開花させた藤原佐為。彼がいなければ、ヒカルが囲碁の才能を見いだすことはありませんでした。ヒカルにとって、佐為という存在は、切っても切り離せない存在なのです。

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一方で、ヒカルの著しい成長は、佐為だけではなし得ませんでした。何を置いても外せないのは、塔矢アキラ。彼がヒカルと、そして佐為と出会ったことで、アキラはヒカルの中の佐為を追いかけ、同時にヒカルを囲碁の世界へと、自分のもとへと強く引き付けていくのです。

アキラに追いかけられることで、振りほどかれることで、罵倒されることで初めて、ヒカルの中に眠る才能が目覚め、プライドが刺激され、かつてない碁打ちを誕生させます。

そして、ヒカルを追い詰める数々のライバル達。目標は塔矢アキラ、その先にいる佐為までも見据えながら、しかしヒカルの周りには、常に彼を磨き上げる、力強いライバルの存在がありました。

「一人じゃない」というメッセージが強く込められたこの楽曲には、決して一人では囲碁の道を上り詰められない、ヒカルの姿を映してもいるのです。


TEXT 岡野ケイ

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