ミュージシャンとしての及川光博
「ミッチー」の愛称で知られる及川光博。近年は俳優としての活躍も目立つが、まもなく50歳を迎えようとしている今でも毎年ライブを欠かさない、ゴリゴリのミュージシャンである。ミッチーのライブは、生半可なものではない。魔物が棲んでいるといっていい。音楽を通し、あの日私はたしかにミッチーを愛したし、ミッチーに愛された。そう思わせるライブが出来るミュージシャンを、本物と呼ぶのだと私は思う。
愛称であるミッチーを「職業」でもあるという及川光博。ライブにおいては、コンセプトの立案から構成、演出、その他細部に至るまですべてセルフプロデュースで行っているという。
彼の楽曲は実に幅が広い。ポップス、ロック、ジャズとさまざまなテイストを持ちながら、身体の芯まで響くドラム&ベース、骨太なホーンの音色が非常にファンキーでもある。
それでいて、歌謡曲を思わせるようなキャッチーなメロディラインがクセになる。バラードをのぞくほぼすべての楽曲には振りが付けられ、ファンも一緒に踊るのがライブのお決まりだ。
指先まで表情をもつしなやかなダンスと甘い歌声は、まるで年齢を感じさせない。プリンスを敬愛し、幼少のころから宝塚歌劇団のショーに触れていたというミッチーの生きざますべてが、ライブにつまっている。
強烈な世界観。ミッチーのライブはスゴイ
ミッチーのライブは世界観にまったくブレがない。ファンにうかがいをたてるようなライブではない。「これが自分だ」と、ライブで表現し尽くす。それがミッチーであり、そんなミッチーを全力で愛するのがベイベー&男子諸君だ。
私自身、初めてのミッチーライブということで多少の予習はしていたし、きっと楽しいだろうとは思っていた。しかしまさか汗だくになるほど踊り狂い、声が枯れるまでミッチーの名を呼ぶなどとは想像もしていなかった。
まわりの目など気にならない。気にする必要がない。自己解放の時間がそこにあった。
知らない曲ですら、身体が勝手に動く。ダンサーやコーラス、バンドメンバー、ミッチーのパワーに乗せられるまま、自然と身体が踊り出す。
ミッチーのライブは、コール&レスポンスもスゴイ。もちろん、誰かが統制をとるわけでも、強制されるわけでもない。
「この声は必ずミッチーに届いている」。ミッチーはそう思わせてくれるのだ。ファンひとりひとりを愛し、見つめてくれているのが分かる。だからこそ全身でミッチーに「愛」を送りたくなる。
「愛してる」と、簡単に言ってしまわないのがミッチーだ。
それでも、彼から放たれる言葉やふるまいはポジティブなものばかりで、ベイベー&男子を常に褒め、認めてくれる。心を寄せてくれる。
ベイベー&男子の笑顔のために今、ミッチーが全力を尽くしているのが分かる。ミッチーがくれるのはそういう愛だ。
ライブはまさに愛の時間であり、愛の交換。ミッチーのくれた愛が自己肯定力を高め、ライブ終わりの帰り道にはいつもより自分を好きになれる。
ミッチーがあの日かけた魔法は、いまも解けない。
ある曲が始まる直前、会場中がそそくさと準備を始める。ベイベー&男子の両手にはポンポン。
「今の気分は!?」
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「死んでも・・・」
「いい!」
楽しく 楽しく
Yeah Yeah Yeah Yeah
(Come On!)
≪死んでもいい '98 歌詞より抜粋≫
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ライブの定番曲『死んでもいい’98』。会場のボルテージは最高潮だ。
「死んでもいい」くらいの愛
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ありふれた日々と
それなりの将来・・・
憧れの男性に
なれそうもないです・・・
逃げだす勇気も
いすわる努力も・・・
持ちあわせがない
≪死んでもいい '98 歌詞より抜粋≫
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当時“王子様”のキャラクターで注目を集めたミッチーにしては、どこか自信なさげな男が主人公だ。
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それならばボクは
命! 命がけで
キミの人生に
花を咲かせよう
"死んでもいい"なんて
思えちゃうくらいの
トキメキをボクに下さい
明日とひきかえに
≪死んでもいい '98 歌詞より抜粋≫
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いや、ちがう。命がけで愛を誓う。これぞミッチー流の愛だ。
好きな女性に対して情けない男になれる、それほど惚れ込まれてみたいという女ごころをもくすぐる。
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時間を超えて
瞬く星は照らすよ
退廃ムードじゃいられない
生涯絶好調 まだまだ・・・
「いくよー!」
≪死んでもいい '98 歌詞より抜粋≫
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『死んでもいい’98』の発表はタイトル通りの98年。歌詞にもあるように、どこか退廃ムードが漂っていた時代でもあった。
それすら飛び越えて、突き抜けるポジティブ。ミッチーがミッチーたる所以だ。
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人間の気も知らずに
くり返す流行・・・
辿るべき道は
何度も来た道・・・
シアワセにできるか
どうかわからない・・・
だがボクはボクの
シアワセの為に
命! 命がけで
愛と真実の 謎に答えよう
≪死んでもいい '98 歌詞より抜粋≫
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歌詞は思いがけず深い。人間の真理をも突いてくる。
愛すること、生きること、死ぬこと…聡明なミッチーだからこそ、客観的に捉えた上で、主観的に表現することができるのかもしれない。
オリジナルの世界を構築する人は、誰もが哲学者だ。
あなたもバラ色のミッチーワールドへ
ミッチーのライブは、初心者ベイベーのためにいつでも門戸を広げている。最後列の座席は「サイコー!シート」として破格の3000円で、最後列から5列以内の座席は「ゴーゴー!シート」として5500円で販売されている。
「噂のミッチーを見てみたい」という一般層に優しい値段設定。こんなところにもミッチーの愛を感じずにはいられない。ベイベー&男子諸君もたいへん優しく親切で、さすがはミッチーを愛する人たちだと感激した。
だが、一度ミッチーに出会ってしまったらもう戻れない。「1回だけ見てみたい」は通用しない。必ずまた、あの空間に行きたくなる。
それだけは、一足先にミッチーワールドへ入り込んでしまった者として忠告しておきたい。
だがしかし、ミッチーはイイぞ。
TEXT シンアキコ