彼の人生に裏付けられた深みのある歌詞を『SUN』に見つけた。
「SUN」に込められた光と影
アーティストだけでなく作家や俳優としての功績もあり、現在マルチな方向で活躍している星野源。
作詞も自身で行なっているため、楽曲の歌詞にも唯一無二である星野源の世界観が色濃く感じられるのが、彼の楽曲の特徴だ。
キャッチーでポップなメロディに乗せられた歌詞に耳をすませてみると、一聴しただけでは咀嚼しきれないメッセージが込められている。
星野源が2015年にリリースした8枚目のシングル『SUN』は、テレビドラマ『心がポキッとね』の主題歌としても話題になった。
またNHK紅白歌合戦でも歌唱し、『SUN』の明るいメロディと可愛らしいダンスが印象的だった。
『恋』や『ドラえもん』など、『SUN』以降に発表された楽曲からも、星野源の楽曲に“明るいポップなイメージ”を強く感じている方も多いだろう。
しかし、その心地よいポジティブさの裏にある“影”の部分に触れてみるとより、星野源の人間的な魅力を深堀りする事ができる。
ここでは『SUN』という楽曲の歌詞に込められた、“光と影”を考察していく。
雪解けのような幸せが訪れるように
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Baby 壊れそうな夜が明けて
空は晴れたよう
Ready 頬には小川流れ
鳥は歌い
何か楽しいことが起きるような
幻想が弾ける
≪SUN 歌詞より抜粋≫
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夜が明ければ朝が来る、雨が止めば空は晴れる、冬が終われば春になる。そんな当然の理のようにはいかないのが、人の心だ。
古より“人生は糾える縄の如し”と言われるように、辛い事の後には幸せな何かが待っているのだと思いたい。
『SUN』の歌詞にも、苦しみや悲しみで固まった心を解きほぐすような暖かさが込められている。
それは、冬に積もった雪が春になると溶けて、豊かな小川に注ぐことと似ている。
『頬には小川流れ 鳥は歌い』というフレーズは、苦しみや悲しみで凍った心を解きほぐす春の訪れを感じさせる。
万人を照らす太陽に秘められた思い
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Baby その色を変えていけ
星に近づいて
Hey J いつでもただ一人で
歌い踊り
何か 悲しいことが起きるたび
あのスネアが弾ける
君の声を聞かせて
雲をよけ世界照らすような
君の声を聞かせて
遠い所も 雨の中も
すべて同じ陽が
≪SUN 歌詞より抜粋≫
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辛い事の後には幸せが待っている、という考え方はある意味で正しいだろうが、辛い事が幸せな事に変わる、というよりも実際には、辛いことを含包したまま幸せに向かっていく、という事の方が多いかもしれない。
悲しくても前を向く、辛くても前を向く。そのスタンスは、もしかしたらこの詩を書いた星野源自身の体験に基づく思いが込められているのかもしれない。
星野源は2012年にくも膜下出血により活動休止を余儀なくされ、翌年に活動を再開した。
しかし同年の6月にくも膜下出血が再発し、再び活動を休止した。その年に行われる予定だった武道館公演は延期となった。
その後、星野は無事退院したのちに、現在の活躍に繋がっている。
おそらく人一倍、辛さや苦しさと相対してきた彼だからこそ書ける歌詞が存在していて、『SUN』もそのうちの一つだろう。
リスナーである私たちが度々音楽に救われた経験があるように、きっとプレイヤーである星野源も音楽に救われた瞬間があるのだろう。
その意味で“音楽”は、彼にとっても私たちにとってもかけがえのないものだ。
音楽を通して、悲しみや孤独を昇華し、共に前を向こうというメッセージが『SUN』には込められている。
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祈り届くなら
安らかな場所にいてよ
僕たちはいつか終わるから
踊る いま
いま
君の声を聞かせて
雲をよけ世界照らすような
君の声を聞かせて
遠い所も 雨だって
君の歌を聴かせて
澄み渡り世界救うような
君の歌を聴かせて
深い闇でも 月の上も
すべては思い通り
≪SUN 歌詞より抜粋≫
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大切な人が、出来るだけ悲しまないでいられるように、という尊い願いを、きっと愛と呼ぶ。
それは大切な人が、直接言葉を交わす事が出来ないほど遠くにいても変わらない願いだろう。
時間や距離を超えて私たちを繋いでくれる言葉が、平和で柔らかなメロディにのせて奏でられる。
側にいられない時でも同じ時を生きる私たちを音楽が繋いでくれる、万人を共通に照らす『SUN(=太陽)』が音楽なのだと、星野源は『SUN』を通じて伝えている。
一見、太陽のように明るくポジティブに聴こえる星野源の音楽は、“光”と同時に“影”を持っているからこそ、説得力を持って多くの人々の心に響くのだ。
TEXT DĀ