「ブリキノダンス」とは・・・
『ブリキノダンス』は、2013年3月10日に公開された、日向電工作詞作曲のボカロ曲。ニコニコ動画でも、YouTubeでも、何度となく再生されている、大ヒット曲です!その難解で中毒性の高い歌詞が話題をよび、伝説入り達成!現在進行形で大人気の『ブリキノダンス』!今回は、そんな『ブリキノダンス』の歌詞を、私なりに解釈してみました。
おススメの、歌ってみたなどの動画を織り交ぜながら、歌詞の内容を紹介していきますね!
「ブリキノダンス」のもとは叙事詩?
『ブリキノダンス』には、「アヴァターラ」「サンスクリット」など、古代インドの神話と深く結びついた言葉が、たくさん登場します。どうやら『ブリキノダンス』は、世界3大叙事詩のひとつ、『マハーバーラタ』をもとに作られたようですね。
『マハーバーラタ』とは、古代インドの宗教的、哲学的、神話的叙事詩。
神々が人間界をつくり出すところから始まり、バラタ族(王族)のなかのカウラヴァ族(クル家)とパンダヴァ族(パーンドゥ家)の対立を、中心とする物語です。
「マハーバーラタ」のざっくりとした内容
カウラヴァ族とパンダヴァ族の対立をざっくりと紹介しますね。神の呪いを受けたパーンドゥ王は、盲目の兄・ドリタラーシュトラに王位を譲ります。
退位後パーンドゥ王は、王妃に「私の代わりに神様との間に子を産んでくれ」と頼み、そうして5人の息子が生まれました。
パーンドゥ王の5人の息子(パンダヴァ族)と、ドリタラーシュトラ王の100人の息子(カウラヴァ族)はともに育ちます。
学問でも武術でも、神様の息子・パンダヴァの5王子は、カウラヴァの100王子より勝っていました。
もともと性格が邪悪な100王子は5王子を妬み、5兄弟を殺して代わりに王位につこうと画策し、王国をだまし取ります。
そして13年後、5兄弟は王国を取り戻すべく100兄弟に戦いを挑み、クルクシェートラで戦いの火ぶたが切って落とされました。
パンダヴァ族5王子の1人・アルジュナは、親族と戦うことの虚しさを嘆きます。
アルジャナの嘆きを聴き、神へ通じる道として執着を捨て、もろもろの行為をせよと、神は説きます。
クルクシェートラの戦いでカウラヴァ王家は全滅。5王子が亡くなるまでのおよそ30年間、平和が訪れました。
「ブリキノダンス」の歌詞を見てみよう!
まずは「ブリキノダンス」という言葉を無視して見ていきます。----------------
さあ、憐れんで、血統書 持ち寄って反教典
沈んだ唱導 腹這い幻聴
謁見 席巻 妄信症
≪ブリキノダンス 歌詞より抜粋≫
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「憐れんで血統書」とは、今まで血統書とみなされた人がそうでなくなったということ。
「反教典」は、経典に反していること、つまり今までの教え・道理に反する思想を意味していますね。
【私なりに訳してみました!】
さあ、憐れみなさい あなたに流れる特別な血筋は過去のもの
今までの価値観を壊すクーデターの始まりだ
もはや神への祈りは沈んで届かず
腹ばい横たわった体には幻聴のように聞こえるだけ
身分の高いものとして遇するわれらの信者はどこだ
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踊れ酔え孕め アヴァターラ新大系
斜めの幻聴 錻力と宗教
ラル・ラリ・唱えろ 生
≪ブリキノダンス 歌詞より抜粋≫
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「アヴァターラ」は、ヒンドゥー教において不死・究極に至上な存在の化身。
また、「ヒンドゥー教」に置いて歌と踊りは祈りに通じます。
【私なりに訳してみました!】
今宵は無礼講だ みんな酔って踊れ
旧来の社会を打ち破る新たな神の体系
新しいものに合わせた新しい祈りだ
命を讃えろ
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まあ、逆らって新王都 くぐもった脳系統
墓掘れ説法 釈迦釈迦善行
六感・吶喊・竜胆・錠
≪ブリキノダンス 歌詞より抜粋≫
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「吶喊」は、士気を上げるための叫び声。
「竜胆」の花言葉は、「正義」「誠実」。
【私なりに訳してみました!】
新たに権力を持った体制・新王都に逆らうものの
参謀などが機能するはずもなく
もう諦めて自分の墓を掘れと諭され
釈迦を崇め善行をし、
六感を研ぎ澄まし、ただただ叫び声をあげ、正義にも悲しみ、心に蓋をする
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どれどれ、震え 蔑んで新体系
欺瞞の延長 詭弁の劣等
ドグ・ラグ・叶えろ
≪ブリキノダンス 歌詞より抜粋≫
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「欺瞞」は人の目をごまかすこと。
「詭弁」はもっともらしく見せかけた虚偽の弁論を意味します。
【私なりに訳してみました!】
恐ろしさに震え、新たな権力を蔑んだところで、世界をうまく回せるはずもなく
人びとの目をごまかし だまくらかすばかり
いいのは威勢だけ
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不気味な手、此処に在り
理性の目、咽び泣き
踵返せ遠くに
偲ぶ君の瞳を
≪ブリキノダンス 歌詞より抜粋≫
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どうやら旧体制は、じりじりと追い詰められているのでしょう
【私なりに訳してみました!】
追い詰める不気味な手は近づきつつある
道理を見据える目は泣いている
それは 今では遠くなってしまった 愛した人の面影を映しているのか
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さあ、皆舞いな、空洞で
サンスクリット求道系 抉り抜いた鼓動
咲かせ咲かせ
≪ブリキノダンス 歌詞より抜粋≫
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「サンスクリット」は、ヒンドゥー教・仏教などで宗教行為のみで使用される礼拝用言語。
【私なりに訳してみました!】
さぁ、みんなで舞い踊れ、
空虚な心で、悟りに救いを求めよう
抉り抜いた心臓が鼓動するかのように 舞の花を咲かせよう
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さあ、剽悍な双眸を エーカム、そうさ。先頭に
≪ブリキノダンス 歌詞より抜粋≫
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「剽悍」は動作がすばやく、性質が荒々しく強いことを意味します。
「エーカム」はサンスクリット語における「1」を意味します。
【私なりに訳してみました!】
さぁ、素早く強く荒々しい両目を持った者を
1番に、そうだ先頭にしろ
血のように真っ赤に濡れた夕日の中を、踵を鳴らして戦いにくり出せ
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嗚呼、漠然と運命星
重度に負った喘鳴に
優劣等無いさ 回れ踊れ
もう、漠然と九番目が龍を薙ぐ
パッパラ・ラル・ラリ、ブリキノダンス
≪ブリキノダンス 歌詞より抜粋≫
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「運命星」とは、自分の力で変えることのできない、運命を持った星のこと。
「喘鳴」は呼吸する空気が気管を通る時、ぜいぜいと雑音を発することを意味します。
【私なりに訳してみました!】
ああ、自分では変えられない天から与えられた運命の中を
必死に抗い、戦う
もはやどちらが優れているかなどわからないが、とにかくがむしゃらに戦え
そうして、思ってもいなかった9番目の者が時の権力を手にするのだ
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さあ、微笑んで急展開 ナラシンハ流体系
積もった信仰 惜別劣等
怨恨 霊堂 脳震盪
≪ブリキノダンス 歌詞より抜粋≫
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「ナラシンハ」は、インドの神話で、不死身のヒラニヤカシプを引き裂き命を奪ったライオンの獣人で、ヒンドゥー教の神ヴィシュヌのこと。
【私なりに訳してみました!】
さあ 受け入れて笑え 急展開だ
不死身のヒラニヤカシプが神に引き裂かれたように、今までの理が打ち砕かれたのは神の意志
悲しみや恨みが脳を震わせても、信心を忘れるな
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パラパラ狂え アヴァターラ半酩酊
次第に昏倒
劣悪情動 崇めろバララーマ
≪ブリキノダンス 歌詞より抜粋≫
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「バララーマ」は、プラーナ文献の伝統による9番目のアヴァターラ(不死の存在・ヴィシュヌの化身)。
【私なりに訳してみました!】
正気でなんていられない
アヴァターラ(不死の存在)ですら、半酩酊(=クラクラ)して、とうとう倒れてしまった
最悪な気分だ
9番目のアヴァターラを崇めろ
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死んでる龍が吼える バガヴァッド・ギーターで
張り詰め心臓
押し引け問答 無に帰す桃源郷
≪ブリキノダンス 歌詞より抜粋≫
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「バガヴァッド・ギーター」は、「神の詩」とされるヒンドゥー教の聖典の1つで、神々の教義の対話。
【私なりに訳してみました!】
絶えたと思った旧来の信仰・価値観が、また息を吹き返し新しいものと何度もぶつかり小競り合いをくり返す
どちらも引かず、問答を繰り返すうちに
またしても平和は遠ざかり、みんな不幸になってしまった
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ドウドウ唸れ アヴァターラ封筒へ
クリシュナ誘導 アルジュナ引導
ドグ・ラグ・祝えや
≪ブリキノダンス 歌詞より抜粋≫
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クリシュナはヒンドゥー教の神様で、アルジュナ(5人の王子の中の3番目の王子)を導く者ともされています。
アヴァターラは不死の存在。
この場合は、不死とうたわれた敵の総大将ビーシュマを指すと考えられます。
【私なりに訳してみました!】
神により、不死の存在は封じられてしまった
神が導き、英雄であるアルジュナが引導を渡したのだ
我らの勝利だ、祝え
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不気味な手、誠なり
理解などとうに無き、
鬼神討てよ遠くに、
潜む影の手引きを
さあ皆舞いな、衝動で
サンスクリット求道系 雑多に暮れた日々
廃れ、廃れ
≪ブリキノダンス 歌詞より抜粋≫
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【私なりに訳してみました!】
もうお互いに理解などできない
ただひたすら鬼神となり、敵を打ち倒すだけ
さあ衝動にまかせて、みんな舞って踊ろう
悟りに救いを求めるのだ
どうでもいいと過ごした日々は、廃れていく
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さあ、剽悍な双眸で
サプタの脳が正統系
真っ赤に濡れた空
響け響け
≪ブリキノダンス 歌詞より抜粋≫
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「サプタ(・アンガ)」は、古代インドの政治思想の1つで、カーストに通じ、7つの階層で国を構成します。
【私なりに訳してみました!】
さぁ、素早く強く荒々しい両目でしっかりと見ろ
7つの階層を持って国を治めることが正しいのだ
血に染まった空に、正義よ響き渡れ
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嗚呼、六芒と流線型
王族嫌悪は衝動性
ピンチにヒットな祝詞 ハバケ・ルドレ
もう、漠然と九番目が狂を急ぐ
巷で噂の、ブリキノダンス
≪ブリキノダンス 歌詞より抜粋≫
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「六芒と流線型」とは、六芒星を描くこと、つまり魔よけの意味。
【私なりに訳してみました!】
ああ、魔をよけろ
王族同士の戦いは、衝動から始まるのか
9番目のアヴァターラ(不死)が、ことを収めようと急いでいる
9番目のアヴァターラは、バララーマまたはブッダとも言われています。
つまり、ことを収め、新しい王となった者が正しい者であるということを表しているのでしょう。
しかし、「狂」という文字が歌詞に入っていることから、これで終わりではない。
歴史は繰り返していくのだということが、暗に示されていますね。
繰り返しの後
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王手を盗って遠雷帝
サンスクリット求道系 妄想信者踊る。
酷く脆く
もう、漠然と九番目が盲如く
御手々を拝借、ブリキノダンス
≪ブリキノダンス 歌詞より抜粋≫
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「遠雷帝」とは、アルジュナの父で、神々の王であるインドラのこと。
【私なりに訳してみました!】
インドラの奸計により、戦いは5王子側の王手となった
悟りに救いを求めるのだ
神を妄信することが正義だ
9番目のアヴァターラ、つまり、新しい王となった正しい者すら、もう、その目を開いて見ようとはしない
物事が無事に終わったことを祝って、手打ちにしよう!
そして最後、印象的に「ブリキノダンス」という言葉が…!
「ブリキノダンス」の意味とは・・・
実は『ブリキノダンス』には、「ブリキノダンス」という言葉は3回しか出てきません。
1度目は
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もう、漠然と九番目が龍を薙ぐ
パッパラ・ラル・ラリ、ブリキノダンス
≪ブリキノダンス 歌詞より抜粋≫
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2度目は
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もう、漠然と九番目が狂を急ぐ
巷で噂の、ブリキノダンス
≪ブリキノダンス 歌詞より抜粋≫
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3度目は
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もう、漠然と九番目が盲如く
御手々を拝借、ブリキノダンス
≪ブリキノダンス 歌詞より抜粋≫
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そう、9番目のアヴァターラを表す語とともに、必ず使われているのですね!
9番目のアヴァターラとは、先に述べたように「正しい者」という意味。
それが、ブリキノダンスとは、人間への皮肉が込められているのでしょうか。
ブリキとは、鋼板にスズをめっきしたもので、1240年頃ボヘミアで製造が始められたといわれています。
つまり、この「ブリキ」のフレーズだけ、他のものとは時代が変わってしまうのですね。
『ブリキノダンス』は、古代インドの神話の一節にあたる叙事詩を後の時代の人が読み、それにあわせて、おもちゃを動かして遊んでいるということになります。
命を懸け、神話にもなるような話も、終わってしまえば盤上のゲームと同じ。
人間の行為など、この長い歴史で見ればその程度のものだと、中身が空っぽなブリキのおもちゃのダンスという、ブラックユーモアで、表現しているのでしょう。
よくよく紐解いていくと、その歌詞の深さに驚かされますね。
TEXT 有紀