──「月」についても思いを詳しく教えてください。
奥華子:月は、いろんな色の月があるし。大きさもいろいろありますよね。それから、星もそうだけど暗ければ暗いほど輝いてる。都会だと、月とか星とかあんまり見えないじゃないですか。
──そうですね。ネオンという別の光があるから。夜中になればなるほど、空には月があるのに意識しにくい気がします。
奥華子:そう。でも暗闇だからこそ光ってみえる。その象徴だと思うんです。歌詞の中でも「月」って言葉を使っている曲もありますね。
我がままに作った
──ベスト盤の選曲をアーティスト自身がセレクトすることで、そのベスト盤に大きな意味が生まれてくると思うんですね。そこらへんは奥さん、どう考えてます?
奥華子:ベスト盤って、やっぱりシングル曲は入れなきゃとか、タイアップがついた曲は絶対に入ってるというイメージだと思うんですね。
──そうですね。一般的にはまさにその通りだと思います。だから入門編とか呼ばれたりしますし。でも今回の奥さんのベスト盤は、そこの概念とはまったく違う。
奥華子:そうですね。「え? あの曲入ってないんだ?」って思うような感じですよね。これまで作ってきた楽曲は、もちろん全部愛しいし大切。ただ、アレンジや選曲、曲順も含めて、何も言わずに誰かに渡せるかどうかって考えたら、そうじゃないかもしれない。私、例えば出来上がった曲(=CD)を誰かに渡す時に、曲について『これは何々のタイアップで』とか、ちょいちょい説明したくなるんです(笑)。でも今回のベスト盤はそれが無いし、とにかく、この世に自分の曲を残したいっていうのが強かった。選曲していく中で、シングル曲をこれだけ入れないのはどうなんだみたいな、葛藤もすごくあったんですけどね。でも今回は、15周年の区切りってこともあって、自分が残したいように、我がままに作りました。
──このベスト盤を通して印象に残ったのは、奥華子というアーティストの強い個性なんです。特に、声とメロディと歌詞のマッチングは、すごい武器だな、と。
奥華子:声とメロディと歌詞のマッチングは、曲を作る時に1番大事にしていることですね。20歳の頃、ライブを始めた時に「曲も歌詞も暗いね、ダメダメだね。でも声はいいよね」って、いろんな人に言われたんです。声だけは、ずっと、いろんな人に褒められたっていうか(笑)。それで声は特徴的なんだなって自分でもわかって。この声が気持ちよく響くメロディ、響くサビっていうのをいつも探して曲を作ってきましたし、さらに言葉がのった時に、1番伝わる言葉を、ベストマッチングを探し続けてきた15年でしたね。
新曲『はなびら』
──先ほどちょっとお話していただきましたが、改めて新曲『はなびら』について御願いします。
奥華子:映画(=11月15日公開『殺さない彼と死なない彼女』)の主題歌だったので、映画を観てから監督の要望を伺ったんです。そしたら「映画を観終わった人に前向きになってもらえるような曲を作って欲しい」と。映画の内容が、前向きなだけでなく、すごく切なさもあるものだったんです。
──そういう中で、最初に浮かんだ部分は?
奥華子:「あなたに出会えなければ」ってフレーズ。このフレーズをどうしても入れたくて。「出会えたから……」じゃなくて「出会えなければ この空の青さも知らないまま」っていう。前向きさも出したかったけど、同時に切なさも出したかったんですね。
──今おっしゃったワンフレーズ、歌詞を拝見して、すごく強いなと思いました。
奥華子:基本的にマイナスに言う方が、すごく強いなと思っているんです。
──なるほど。この『はなびら』に限らず?
奥華子:そうです、この曲に限らず。私、歌詞で「ない」って言葉、すごく使ってるんです。
──ネガティブな要素を入れた方が強くなる……ということでしょうか?
奥華子:そうだと思いますね。注意してみると、めちゃくちゃ「ない、ない」使ってるんですよ。
──それって、元々、自分の中に在る感情がベース?
奥華子:そうですね。すごいネガティブだと思います。
感情の先に在るもの
──ネガティブな感情……例えば怒りとか悲しみとかが、曲になりやすいって説もありますが、奥さんはどうです?
奥華子:それは昔からそう思っていて。自分が幸せだなと思うと、何も求めないし、何も感じなくなるんですよね。ストレスがあるから、マイナスな感情があるからこそ、何かが生まれると思うんです。だから辛い時ほど、いろんなことを感じるし、創作意欲が沸くんだと思うんですよね。でも、それだけだと、段々自分が持たなくなってくるので、曲の作り方は変わってきましたね。
──長く続けるには、必要なことですよね。
奥華子:そうなんですよね。私の曲は恋愛ソングが多いんですけど、自分が実際に感じた感情をベースにしているのは同じなんですよ。で、そこをもっと切なく届けるにはどうしたらいいだろうと考えて、一部フィクションを加えたり、自分の立場から考えたり、男性の立場から考えたり、角度を変えていくと、いろんなパターンが出てくるから。
──自分の感情が曲作りのベースにあるわけじゃないですか。それで曲を作るって、めちゃくちゃ自分を削ることでもありませんか?
奥華子:めちゃくちゃ削られてますね。そう、本当に…。
──そういう中で、もっと曲を作ろう、もっと……って、曲を書き続けられたモチベーションって?
奥華子:正直、曲作りは毎回大変なんです(笑)。いつもストックの曲が無いから、新たに曲を作るって感じで。15年間ずっとそうなんですね。14曲収録のアルバムだったら14曲作る。毎回、作品作るたび、もう無理だって、泣きながら作ってるんですよ。で、そういう中でのモチベーションは何かって言われたら、曲を作ることしか自分に出来ることがなかったから、ですかね。
──自分の中にある何かを曲にしたいって思いが強い?
奥華子:うーん……そういう感じでもなくて。自分の中にある1番の目標が、誰もが知る教科書に載るような曲を作りたいっていう。曲を作り始めた時から、ずっとその気持ちがあるんですよね。スタンダートなもので、みんなが歌ってくれる。そういう存在になりたいし、そういう曲が書きたい。でも、15年続けてきた中で、なかなか簡単ではないなとわかったし、他にもいろんな想いが出て来て、気持ちの浮き沈みもあったんです。でも、今回のベストの選曲をしていて、自分らしい、奥華子らしい曲を、1曲1曲妥協しないで作ってこれたんだなと思うことは出来た。このベスト盤は、自分にとっても作って良かったと思えるものになったと思います。
TEXT 伊藤亜希
PHOTO 安東佳介 (Senobi)