どこまで行っても交差しない二人の想い
秋の夜って何故かしんみりして、泣きたい気持ちになりますよね。「芸術の秋」と言いますし、秋は私たちの感受性を豊かにする何かがあるのかもしれません。
そんな秋の夜に、平井堅のバラードを聴いてみてはいかがでしょうか?これから紹介する3曲は、「泣けることまちがいなし」の極上バラードです。
片想いだったり、失恋だったり、もう相手に届かなくなってしまった想いだったり…。どこまで行っても交差しない二人の想いが胸を締め付けます。
それでも見返りを求めず、ただひたすらに相手を愛し続ける切ない男心を、感じてみませんか?
何度聴いても泣ける「even if」
初めに紹介するのは『even if』です。
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"たまたま見つけたんだ"ってさっき言ったけど
本当はずっと前から君を連れて来たかったんだ
キャンドルが優しく揺れる この店のカウンターで
君はうれしそうに 彼にもらった指輪を眺めてる
≪even if 歌詞より抜粋≫
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片想いって何故この世に存在するのでしょうか?そんなことを考えたくなるような、切なすぎる歌い出しです。
片想いをしていると、いろいろ考えてしまいますよね。”一緒にこんな店に行きたいな”とデートを想像してみたり、”こんな話をしたいな”と相手の顔を思い浮かべてみたり。
この歌の主人公もきっと、考えに考えて「この店」を選んだのでしょう。
「キャンドルが優しく揺れる」ロマンティックな店内…良い雰囲気になりそうです。そして何より、「君」が好きそうだから「この店」を選んだのではないでしょうか。
それなのに、彼女は「うれしそうに 彼にもらった指輪を眺めている」。
歌詞から主人公の切ない気持ちが伝わってきて、泣けてきますよね。
こんなに想われているのに気が付かないのでしょうか?しかし、そんな無邪気でかわいらしいところに、主人公は惹かれているのかもしれませんね。
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君の心に 僕の雫は落ちないけど
このバーボンとカシスソーダがなくなるまでは
君は 君は 僕のものだよね
≪even if 歌詞より抜粋≫
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主人公は決して「君」を彼から奪おうなんて思っていません。ただ、「この店」で過ごすわずかな時間だけは、自分の方を向いて欲しいと思っているのです。
しかし、そんなささやかな願いすら叶わないことが、この先の歌詞から分かります。
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会話が途切れて 二人の時間が彷徨うたび
きまって君は彼の話ばかりを繰り返す
≪even if 歌詞より抜粋≫
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想いを寄せている相手の好きな人の話なんて、絶対に聞きたくないですよね。
相手に好きな人がいる事実を頭の中で消去しているからこそ、片想いが成立するのではないでしょうか。
しかし、あえて彼がいることを強調し、主人公に自分との恋愛を諦めてもらおうと思っているのではなさそうです。
彼に夢中で、主人公が自分に恋愛感情を持っていることにも気が付かないのでしょう。そして、彼のこと以外見えてないからこそ、目の前にいる主人公にも彼の話をしてしまうのです。
きっと主人公は彼女とのデートを楽しみにしていたに違いありません。しかし、こんな罰ゲームのような展開になってしまい、主人公の気持ちを考えると聴いている方も泣けてきます。
カシスソーダというアルコール度数が低めで、酔いにくいお酒を飲んでいる「君」。もしかしたら、この後彼と会うのかもしれませんね。
それがわかっている主人公が、「君」を彼の元へ返す時間を気にしている様子が、次の歌詞から読み取れます。
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鍵をかけて 終電を越えて 君がこの店から帰れないように
今はただ独りよがりだけど 本当の気持ちなんだ
君もいっそ酔ってしまえばいい そして彼のことを忘れちゃえばいい
だけど残りのバーボンを今飲み干して 時計の針を気にした
≪even if 歌詞より抜粋≫
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どこまで行っても交差することのない二人の想い。
彼女を独占したいのに、彼女のために時計の針を気にする主人公。優しすぎるくらい優しい主人公の気持ちが切ないですね。
心傷ついても「half of me」
次に紹介したい曲は『half of me』。なんと、『even if』のストーリーの続きなのです。
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君が置いていった雑誌には コップのシミが出来て
乾いて消えるかと思ったら 痣のように残った
≪half of me 歌詞より抜粋≫
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雑誌の上に、飲み物が入ったコップを置いたのは「君」でしょう。細かいところにこだわらない無邪気な女性。きっと、『even if』の「君」と同じ女性だと思われます。
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あたりまえは いつももろい 君がいない世界が待ってる
いつものような 僕でいられるけど 誰にも気づかれずに泣いていた
≪half of me 歌詞より抜粋≫
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二人の間には進展があり、二人でいることが「あたり前」になる日が来たのです。きっと主人公は「君」のことをとても大切にしたでしょう。
しかし、それでも別れることになってしまった。
『even if』と『half of me』の歌詞から、主人公がこれ以上ないくらい深く「君」を愛し、「君」に彼がいた頃は「カレシのいる女性」の立場を尊重して、彼との仲を邪魔しないように頑張ってきたことが伝わります。
こんなに愛しても、こんなに努力しても、そして、主人公がこんなにも優しくて良い人であっても、うまくいかない関係があるのです。
それはもう努力ではどうにもならない、「縁」が関わっていることなのかもしれません。
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抱えた傷は形を変え いつしか体の一部になる
人はどうして 叶えられぬものを 引きずりながら生きて行くのだろう?
≪half of me 歌詞より抜粋≫
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失恋して心の傷を抱えることになった主人公。心の傷は「君」と出会い、恋愛した証ですよね。
これから先、「君」の隣で生きていくことは出来ないのかもしれない。もしかしたら、もう二度と会えないのかもしれない。
でも、主人公は「君」を愛した証と共に生きています。それは心の中にいる「君」と一緒に生きていることにならないでしょうか?
主人公は死ぬまで、こんなにも深く愛した相手と、心の中で共にいるのだと解釈することはできないでしょうか?
心の傷のないときには、もう戻れない。「君」と出会ったことによって、主人公は確実に変わったのです。
でも、その変化すら主人公は後悔していないように感じられます。
ずっと君と共にいる「瞳をとじて」
最後は平井堅のバラードといえば、誰もが心に浮かべるこの一曲。『瞳をとじて』を紹介しましょう。
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いつかは君のこと なにも感じなくなるのかな
今の痛み抱いて 眠る方がまだ いいかな
あの日 見てた星空 願いかけて 二人探した光は
瞬く間に消えてくのに 心は 体は 君で輝いてる
≪瞳をとじて 歌詞より抜粋≫
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ここでも、「君」とのことで受けた心の傷が消えて、「なにも感じなくなる」くらいなら、「今の痛み」と共に在ることを望んでいる主人公の気持ちが表現されています。
「君」と出会って恋愛をしたからこそ、心も体も「君で輝いている」のでしょう。
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記憶の中に 君を探すよ それだけでいい
なくしたものを 越える強さを 君がくれたから
≪瞳をとじて 歌詞より抜粋≫
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この歌詞から、「君」と恋愛をして変わった主人公の姿が伝わってきます。「君」は主人公の強さを形作る存在として、ずっと共にあり続けるのでしょう。
泣きたい夜に聴きたい平井堅のバラード
泣きたい夜は誰にでもあると思います。泣いてしまった方が、少しは楽になるときもあるでしょう。それでも、悲しみのあまり心が緊張してしまい、泣けないこともありますよね。そんなときは、平井堅の極上のバラードを聴いてみませんか?ただひたすらに「君」を想う主人公の気持ちが切なすぎて、気が付くと涙がこぼれてしまいます。
その涙と一緒に、悲しい気持ちも押し出せるかもしれませんよ。
TEXT 三田綾子