昨今の芸人は大変だ。漫才やコントなどのネタをするだけでなく、自身のキャラクターをアピールするため、映画監督・俳優・経営者などと様々な肩書きを持つ芸人が増えた。顕著な例は、ピース又吉直樹。芸人を主人公にした小説で芥川賞を受賞。芥川賞作家ならぬ、”芥川賞芸人”になった。自身の芸人としての経験談と描写の器用さが光る内容で、他の芸人からの賛同も得る作品となった。
公開日:2015年12月5日
昨今の芸人は大変だ。漫才やコントなどのネタをするだけでなく、自身のキャラクターをアピールするため、映画監督・俳優・経営者などと様々な肩書きを持つ芸人が増えた。顕著な例は、ピース又吉直樹。芸人を主人公にした小説で芥川賞を受賞。芥川賞作家ならぬ、”芥川賞芸人”になった。自身の芸人としての経験談と描写の器用さが光る内容で、他の芸人からの賛同も得る作品となった。
音楽という切り口で自身のキャラクターを確立した芸人もいる。”HOT!HOT!”のネタやオカマキャラでブレイクしてひと時代を築いた藤井隆。『ナンダカンダ』でデビューしてから10年が経ち、当曲を収録したベストアルバムを10月に発売した。GAKU-MCが書いた当曲の歌詞には、又吉の小説と同様、駆け出しの芸人の苦悩や葛藤が描写されている。
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自分よりツイてない 誰か見て安心かい?
自分だけは"例外" 思いたくて勝手言った
いつからか昼と夜が 行き違った生活で
ふさぎこまないでどうか 目を覚ませ 道を探せ
なんだかんだ叫んだって やりたいことやるべきです
あんたなんだ次の番は やりがいあふれるレースです
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舞台でスベった芸人を見て安心している自分に気づいた。「自分を棚に上げて、俺はいつかはビッグになる!」と強がりをいってしまった。
でも、芸人の仕事だけでは食べていけない。舞台にバイトにと躍起になっているうちに生活リズムはガタ崩れ。「もう芸人やめようかな…」と気持ちもふさぎ込んでいた一面も。
でも、そこで彼は腐らなかった。自分はお笑いが好きだ!!他のことなんか考えたくない!!やりたいことをやるべきだ!!次に売れるのは自分だ!!と、芸人生き残りサバイバルに闘志を燃やす。
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はみ出す勇気をどうか 絞り出して立ち上がれ
ほんの少しの気合いだ 目を覚ませ 泣くな 笑え
あるべきはずメリハリが なさすぎるTVの前
平和ボケしてませんか? 目を覚ませ 今だここで
なんだかんだ叫んだって やりたいことやるべきです
あんたなんだ次の番は みんなに愛呼びかけて
なんだかんだ夢見たって 問題ない世の中です
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みんなと違うことをするのが恥ずかしいなんてもう思わない。ほんの少しの気合があれば目の前のお客さんの反応も変わってくると分かった。やりたいことを全力でやる。みんなにこのお笑いへの”愛”を伝えて笑ってもらおう。ビックドリームを見たっていい世の中になった。
”なんだかんだやりたいことをやるべきだ!”と、くすぶっている芸人を応援している歌詞。芸人という苦難の道も楽しんでしまおうという、ただの勢いだけではない。実は藤井はサラリーマンとして働いた経験を持ち、吉本に入ったばかりの頃は芸人と会社員の二足のわらじを履いていた。経理を担当し、海外の子会社に行かないかと誘われるほどの高評価だった。
でも、藤井はその話を断り、芸人に専念する。「タレントの仕事は一度あきらめたら再挑戦はできない」と考えたからだ。そんな藤井が歌うからこそ歌詞に説得力が宿る。ダンサブルな曲に合わせて藤井自身もキレのあるダンスをPVで披露している。周りのダンサーにも引けを取らないテクニックは秀逸だ。
クマムシや8.6秒バズーカなどの年明けに話題になったリズム芸人ブームもひと段落ついた。
コンテンツの消費スピードが速くなっていく中で、芸人のムーブメントの移り変わる速度も増した感がある。苦労している芸人には申し訳ないが、次はどんなキャラクターの芸人が登場するのか今後が楽しみだ。
TEXT:田中利知 [Twitter]