ドラマチックな幕開け、一面の冬景色
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Blizzard, Oh! Blizzard
包め世界を
尾根も谷間も 白く煙らせ
≪BLIZZARD 歌詞より抜粋≫
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こんな歌詞で始まるのがユーミンこと松任谷由美による『BLIZZARD』です。
広大な雪景色を感じさせる壮大なサウンドとキレの良いベースラインが特徴的なこの曲は、1984年発売のアルバム『NO SIDE』に収録され、1987年公開の映画『私をスキーに連れてって』の劇中歌に採用されました。
現在でも冬ソングと検索すればランキング一覧のページ等で名前を目にすることがあり、YouTubeの公式試聴動画は2019年12月現在36万回を超える再生回数を記録。
リリースされて30年以上たった今もなお愛されている名曲です。
曲に登場する「Blizzard」とは、雪山での吹雪のこと。
スキーを楽しむ2人を突然の吹雪が襲います。
しかし曲中の女性はそれを、自分たちを周りの世界から切り離して孤立させることができるカーテンのようなものとして捉えているように感じられます。
「二人きりで挑む一面真っ白の世界」というなんともドラマチックな状況設定が恋する男女の心を鷲掴みにして離しません。
ふもとを目指す2人、追いかける「あなた」の背中
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ふもとで会おうと スタートきった
かならず はぐれずに
ついてゆけるわ
ふいに見失う 心細さが
あなたへの想いを つのらせるから
≪BLIZZARD 歌詞より抜粋≫
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ブリザードの中の2人は、不安な気持ちの中でふもとを目指して山を駆け下り始めます。
少し離れればもう見えなくなってしまうような悪天候の中「あなた」の背中を追いかけるようについていく主人公の女性。
2人の世界から取り残されないように、必死にもがきます。
ユーミンはその状況を、曇りの晴れない不安感の中で想いを募らせるという、恋愛に悩む女性の心理像とピッタリと一致させました。
心情と状況をマッチさせることで、歌詞に臨場感と説得力を生んでいます。
ふと訪れる静かな美しさ。スローモーションのように輝く世界
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軽いバウンド
ギャップを跳び越え
ゴーグルの雪 結晶に変わる
≪BLIZZARD 歌詞より抜粋≫
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スキー上では異性の魅力が何倍にも上がって見えるというエピソードは有名です。
まさにその逸話の通り、ゲレンデではキラキラとした雪の結晶の美しさや冷え切って澄み渡った空気を感じ取ることができます。
日常とは切り離された、非日常の世界です。
そこで「あなた」と2人きりになれるのならば、こんなに素敵な瞬間はないのではないでしょうか。
この一節では、今まで語られていた不安感や一生懸命さからの解放を経てガラッと雰囲気を変え、静かな冬の美しさを感じる瞬間を切り取っています。
毎日の生活から切り離され、全身を使って大自然の息づかいを感じながら風を切る。
そしてふとした瞬間にまるで世界がスローモーションのように静かになり、美しくキラキラして見えるような感覚。
スキープレイヤーであればこんな瞬間を経験したことのある人もいるのではないでしょうか。
一度再生すれば、歌詞に浸るうちに記憶と感情が揺さぶられてしまうユーミンならではの作詞術が確かに息づいています。
普遍的な状況を普遍的なエモーションに重ね、大自然の美しさとともに描き切る気持ちよさです。
こういった点が、CDより前のレコードの時代から2019年現在になってもなお冬ソングの定番として愛され続ける理由の一つかもしれません。
TEXT ヨギ イチロウ