こんなにも深く人を愛することができる
2019年12月4日にリリースされた平井堅の46枚目のシングル『#302』は、TBSドラマ『4分間のマリーゴールド』の主題歌です。
MVでは、ドラマの内容とは異なる状況の中で、片想いでありながら深く相手を愛する男性の姿が歌われていて、とても印象的でしたね。
MVも短編映画のような美しさと情感で、再生回数が300万回以上となっています。
そんな切なさに胸が締め付けられるような『#302』を歌詞を考察します。
片想いの人と二人きりでカラオケ
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「カラオケしたいな」と君が突然言い出す 街は夜をはじめたばかり
面倒臭そうな顔をつくってみたけど 本当は凄く嬉しかった
≪#302 歌詞より抜粋≫
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「これからカラオケに行って、好きな女性と二人きりになれる」ことが分かり、内心大いに喜びつつも、それを隠してさりげなさを装っている歌の主人公。
「面倒臭そうな顔をつくって」みせるところに親近感がわきますね。
でも、そのあとに「本当は凄く嬉しかった」と心の中でつぶやける主人公の素直さ。
出だしからリスナーの心を鷲掴みにします。
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僕が歌うラブソング 真面目に聴いてる
淋しげな横顔 忘れられぬ思い出重ねて こぼれそうだよ
≪#302 歌詞より抜粋≫
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「こぼれそう」な程のたくさんの「忘れられない思い出」を思い出して、淋しそうな顔をする「君」。
それらの思い出は、「僕」との間の思い出ではないですよね。
たくさん思い出があるということは、元カレとの付き合いはかなり長かったのでしょうか。
「ずるいかどうか?」を超えている愛
続きの歌詞で「僕」の歌を聴きながら「君」は泣いてしまいます。
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ずるくてもいい 代わりでもいい
君の悲しみの一番近くにいたい
いつか僕が きっと僕が
彼を忘れさせる その時まで そばにいるよ
≪#302 歌詞より抜粋≫
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元カレとは別れたばかりなのかもしれません。でも、失恋した人の側にいることは「ずるい」ことなのでしょうか?「僕」はずるいのでしょうか?
彼女にとってすでに終わった恋だとしても、「僕」は他の男性を心の中で想っている「君」の側にいる。
これは、彼女への愛情が深ければ深いほど、辛いことです。
「君」が笑ってくれていても、「内心はここにいるのが僕ではなくて前の彼だといいのに、と思っているのではないか?」と疑ってしまいそうです。
でも、「僕」はきっぱりと言い切っています。「代わりでもいい」「ずるくてもいい」と。
「僕」は、自分が「ずるいかどうか」や「元カレの代わりなのではないか」などの疑問よりも、「君」が笑顔になってくれることを大切に思っているのですよね。
自分のことよりも「君」が笑顔になれることを優先する「僕」の深い愛情を感じます。
自分を深く愛している人と過ごす幸せ
「自分が深く愛する人と恋愛すること」と「自分を深く愛してくれる人と恋愛すること」。どちらが幸せなのでしょうか。
これは、繰り返し議論されている「答えの出ない問い」なのかもしれません。
その人の性格や価値観によって違いますし、年を重ねるにつれて考えが変わるのかもしれないし、相手によって変わるのかもしれない。
二人の間の愛情のバランスも常に同じとは限らないですよね。
でも、この歌に限っていえば、「君」は自分をこんなにも深く愛してくれている「僕」と共に過ごすことが幸せにつながる気がします。
カラオケには「君」が誘ったのです。つまり、「君」は一緒にカラオケに行っても良いくらいの親しみを「僕」に感じていました。
それならば、「自分を深く愛してくれる人と過ごす幸せ」を考えてみてもよい気がします。
歌詞の中に、友達から相談を持ち掛けられたかのようなリアリティを感じる『#302』。タイトルはカラオケボックスの個室のナンバーの意味でしょうか。
ドラマはもう終わってしまいましたが、今一度『#302』の深い愛の世界に浸ってみませんか。
TEXT 三田綾子