MVの世界観に飲み込まれる前に
ハイセンスな音楽性の認知度も高まり、目覚ましい活躍を見せるバンド・クリープハイプ。2019年12月にMVが公開された『愛す』(読み:ブス)も、あっという間に100万回再生を突破する人気ぶりだ。
しかしこのアニメ『ベイビーメイビー』、サムネをご覧いただくと一目瞭然だが、あまりに癖が強い。
それもそのはず。2018年のNHK『みんなのうた』で放送された、クリープハイプの『おばけでいいからはやくきて』の映像を手掛けたクリエイティブチーム・AC部との2度目のコラボ作品なのだ。
歌詞を丁寧に拾い展開されるストーリーだが、如何せんその映像がぶっ飛んでいてなかなか理解が追いつかない。
というわけで、この物語から一旦離れ、『愛す』の歌詞をじっくり読んでいこう。
「まだMVを観ていない!」という方は、是非こちらの歌詞にゆっくり目を通してからご覧頂きたい。
そうでないと、きっとあなたはそのストーリーに混乱してしまう。
可愛らしい青春のような恋
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逆にもうブスとしか言えないくらい愛しい
それも言えなかった
急ぎなほら遅れるよ やがてドアが閉まるバス
≪愛す 歌詞より抜粋≫
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優しく導入するボーカルだが、そのフレーズはなかなかに独特。尾崎世界観らしいユニークな言葉選びだ。
大好きな女の子に「ブス!」と言っていじめてしまったこと。あるいは、大好きな男の子に「バーカ!」と悪態をついてしまったこと。
身に覚えのある方も多いのではないだろうか。
幼き日の淡い思い出の恋なのか、もう戻れない過去の恋愛なのかで大きく印象が変わる。
聴く人によっても思い浮かべる情景が変わるのだろう。
大好きな人を心から愛しているのに、思ってもいないような酷いことを言ってしまい、それでいて肝心なことは言葉にできないというのはよくあることだ。
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君がいいな そばがいいな
やっぱりそばには 君じゃなくちゃダメだな
違うよ 黄身って 誤魔化して
蕎麦の中の月見てる
ベイビー ダーリン 会いたい
メイビー ダーリン 曖昧
ベイビー ダーリン 会いたい
≪愛す 歌詞より抜粋≫
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若々しい青春時代の恋が思い起こされるようなやり取り。ふざけ合って笑うような親密な相手であっても、一番伝えたいはずの言葉は口にすることができない。
しかし、これは若い人にだけ当てはまることではないだろう。
とりわけ日本人はストレートな愛情表現が苦手で、悲しいことに年齢を重ねるにつれて苦手意識がますます上がっていく人も少なくない。
そんな人々にとって、この歌詞は過去の思い出だけでなく、現在進行系の恋にも響くことだろう。
「言えなかった」で終わらせないで
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肩にかけたカバンのねじれた部分がもどかしい
何度言っても直らなかった癖だ
もう元に戻してあげられなくなるんだな
自分でその手を離したくせに
≪愛す 歌詞より抜粋≫
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大切な相手は既に手放してしまったのだと語る主人公。
おそらく、ケンカ別れや突然フラれたわけではなく、お互いが素直になれなかった結果なのではないだろうか。
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いつもほらブスとか言って素直になれなくて ちゃんと言えなかった
好きだよ いまさら ごめんね 時間通りに出るバス
逆にもうブスとしか言えないほど愛しい それも言えなかった
ねじれてもう戻らない 見上げれば空には月
≪愛す 歌詞より抜粋≫
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時間通りにやってこない時もあるのに、こういう時に限って時間通り現れるバス。
こんな別れる瀬戸際になってもまだ、彼は自分の思いを伝える勇気が出なかったようだ。
結局、相手に伝えることが出来なかった大きな愛情。しかし、この歌の結末は本当にバッドエンドなのだろうか。
過去にそんな甘酸っぱい思い出を抱える人々も、今は少し大人になってこの曲に耳を傾けることができるだろう。
この楽曲には、そんな人々への「素直に伝えろよ」というメッセージが隠されているのかもしれない。
「遅すぎた」「言えなかった」と悔やむだけでなく、もし今想いを伝えたい人がいるのならば、後悔する前に素直に伝えてみるといいだろう。
人を『愛す』気持ちはきっと無駄にはならない。伝えることで昇華される想いもあるのだ。過去は戻らないが、未来は変えることができる。
『ベイビーメイビー』の主人公たちも、なんだかんだで最後にはハッピーエンドっぽくまとまっている。
もしこの曲と物語から感じるものがあったなら、あなたの今後の恋愛をちょっぴり変えられるかもしれない。
TEXT 島田たま子