言葉遊びに溢れた歌詞
「このミステリーがすごい!2018年度版」をはじめ、国内の名だたるミステリーランキングで1位を獲得した小説『屍人荘の殺人』は、今最も注目度の高いミステリーといっても過言ではありません。
そんな人気ミステリー小説を原作とした映画の主題歌ということもあり、Perfumeの新曲『再生』もファンのみならず注目を集めています。
中田ヤスタカの独創的な歌詞と、Perfumeのキレのあるダンスによって生み出される唯一無二の世界観。
さっそく、歌詞の世界をのぞいてみましょう。
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最大限界生きたいわ
宇宙全体が手品いやい
正真正銘未来以来
偶然性さえ運命さ
コンピューターでも解けないわ
果てしない 光線の海
全身全霊で向かうわ
再生 再生 再生成
≪再生 歌詞より抜粋≫
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中田ヤスタカの音楽は独特で不思議なものが多いですが、『再生』もまた、歌い出しから独特の世界観に溢れています。
「最大限界」「手品いやい」「正真正銘未来以来」「再生 再生 再生成」と、言葉遊びのようなテンポのよさが、1度聴くと耳から離れません。
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こぼれ落ちる涙の
意味を 探していたの
ヒカリ止まる命の
夢はとっくに冷めていた
≪再生 歌詞より抜粋≫
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涙には、悔し涙や悲し涙、嬉しくて零す涙、訳も分からず、感情が溢れてこぼれる涙など、たくさんの種類がありますね。
なぜ涙を流したのか、泣いているのは自分なのか、他の誰かなのか。
涙の意味を考えるということは、誰かとの別れを思うことにもつながっています。
そして「ヒカリ止まる命」とは、まさしく生命活動を終えることを意味しているのでしょう。
生きていれば、人には様々な思いが沸き起こります。
あれがしたいこれがしたいと、まだ見ぬ未来に思いを馳せながら生きる人間の命が尽きた時、それらの夢は儚く散ってしまうのです。
「夢はとっくに冷めていた」という歌詞には、生命活動を終えた人間の悲しみ、大切な誰かの最期を見つめる悲しみに満ちています。
時の流れがもたらす別れ
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いつか一人の国から
便りが届いて
だから行かなきゃ行かなきゃ
結局ぜんまいは巻かれた
≪再生 歌詞より抜粋≫
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だけど最後の国から
便りが届いて
すぐに行かなきゃ行かなきゃ
結局ぜんまいは巻かれた
≪再生 歌詞より抜粋≫
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ここで歌われている「一人の国」とは一体何を示しているのでしょうか?
命の灯火が消え、死を迎えた体。そこに「便りが届いて」、死んだ魂を呼び起こします。
「行かなきゃ」という歌詞から、「一人の国」あるいは「最後の国」からの便りは絶対的な存在であることが感じられます。
自分はまだ現世に留まっていたい、愛しい人のそばにいたい、けれど時間の流れはそんな願いを無慈悲に打ち砕くのです。
時がくれば、体は朽ち果て、否応なしに現世から旅立たなくてはなりません。
抗いようのない時の流れに必死に抵抗する悲しさと、何もできない虚しさが、軽やかなメロディーの中でも確かに伝わってきますね。
「結局ぜんまいは巻かれた」という短い歌詞の中に、時の訪れがもたらす別れが上手く表現されています。
失われたはずの記憶がつなぎとめるもの
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今も覚えているの
人でいた時の頃
キミの思い出だけが
心をつなぎとめていた
≪再生 歌詞より抜粋≫
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2番では、失われたはずの記憶が心をつなぎとめています。
体は朽ち果て、とうに人ではなくなったはずなのに、遠い記憶に残る「キミ」の存在や、「キミ」と過ごした思い出だけが、自分がかつて人間であったことを思い出させてくれるのです。
“どうにか、あと少しだけ、この世に留まっていたい。”
”もう一度キミに会いたい。”
そんな叶うことのない虚しい思いが込められた歌詞から、改めて人が人でいられるのは心だと気付かされますね。
「生」への果てしない執着
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最大限界生きたいわ
宇宙全体が手品いやい
正真正銘未来以来
コンピューターでも解けないわ
果てしない 光線の海
全身全霊で向かうわ
再生 再生 再生成
≪再生 歌詞より抜粋≫
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「最大限界生きたいわ」という歌詞からも分かる通り、『再生』には「生きる」ということに対する強い執着を感じます。
「果てしない光線の海」とは、脳のことでしょうか。
人間の脳内では、様々な情報がデータとして飛び交っています。
人体の不思議は、科学や医療の発展とともに解き明かされつつありますが、まだまだ未知数な部分が多数存在します。
これほどまでに技術の発達した現代でさえ、コンピューターでも解けない感情。そんな不可思議さで複雑な人の心を見事に表現しているのです。
“人としての心を失っても、「キミ」を覚えている。体が朽ち果てても、心が求めている。”
そんな相反する衝動が生きることに執着させ、何度でも「再生」「再生成」させるのです。
『再生』で歌われるのは、失われることのない人の心なのでしょう。
はたして「全身全霊で向かう」のは一体、どこなのでしょうか?
何かを追い求めるように、記憶失くしてもなお前進し、再生し続ける姿が、どこか悲しく、愛おしくなる楽曲です。
楽曲を聴いた上で映画を観ると、また違った印象になりますよ。
すでに楽曲を知っている人も、映画を観た人も、改めて映画館で楽曲と作品を一緒に観てみると、新たな魅力に出会えるかもしれません。
また、『再生』のMVが公開され、その振り付けにも注目が集まっています。
独特の振り付けが楽曲の雰囲気にも合っていてとても魅力的です。まだ見ていない方はぜひチェックしてみてくださいね。
TEXT 岡野ケイ