阿佐ヶ谷ロマンティクスの歌詞の魅力
2014年に結成されたまだ若いバンドでありながら、昭和のムード歌謡を連想させるレトロなバンド名の「阿佐ヶ谷ロマンティクス」。
早稲田大学のバンドサークル「中南米研究会」からスタートした彼らが紡ぎ出す叙情的な歌詞の魅力は、そのバンド名と同じように、誰もがふと感じるノスタルジックさでしょう。
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雲行きを見つめる 朝方のひと時
考えごとを膨らませて
毎日とは変えてみた
無色のルーティン
≪独り言 歌詞より抜粋≫
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出勤前の朝のひと時、窓から空をチラリと見てお天気を確認した後、クローゼットの前で今日は何を着ようかと考える。
黒、グレー、ネイビー、白、いつものルーティーンで着まわしているモノトーンの服たち。
でも今日はなぜかいつもとは違う明るい色の服を選んだ。
そんな風景が浮かんできませんか。
この気持ちの変化の理由は、後半の歌詞の中に見つける事ができるでしょう。
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顔なじみになった 朝の3番線
≪独り言 歌詞より抜粋≫
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人が自分の容姿を気する時は、高い確率で恋をしています。
通勤電車でいつも顔を合わせる人に見てもらいたくて綺麗な色の服を選んだのかもしれません。
この曲の主人公は、きっとその人に恋をしているんですね。
何気ない日常風景を描いたこの歌詞には、多くの人が自分の姿を重ね合わせる事ができるのではないでしょうか。
『独り言』を呟く時の心理とは?
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あなたやあなたを見つめ
ささやいた ささやいた
今日は独り言が
聞こえて欲しかったの
≪独り言 歌詞より抜粋≫
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独り言を呟く理由には、ストレスや寂しさなど様々な原因が考えられますが、そこに共通する心理は“コミュニケーションを取りたい”という気持ちだと言われています。
そして、最も独り言を呟きやすいシチュエーションは「一人暮らし」だというのもよく聞く話ですよね。
この曲の主人公の性格を推測すると、おそらく一人暮らしでモノトーンの服を好むどちらかといえば目立たない性格。
毎朝同じ時間、同じ車両の電車で通勤するような、自分のルーティーンを大切にしている真面目な女性なのではないでしょうか。
周囲に人がいる場所で独り言を呟く事は滅多にしないでしょうし、呟いたとしたら、それが誰かに聞こえたのではないかと気にするでしょう。
「今日は独り言が 聞こえて欲しかったの」という歌詞には、そんな彼女が好きな人に気づいてほしくて思わず独り言を呟いてしまったせつない恋心が表されているように思えます。
阿佐ヶ谷ロマンティクス流シティポップ
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ありふれた昨日と思ったけれど
不意に君に夢中で
単純なこと 気付けなくて
≪独り言 歌詞より抜粋≫
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「単純なこと 気づけなくて」という歌詞は、普段なら無意識にしていた簡単な作業を彼に気を取られて忘れてしまった、という意味ではないでしょうか。
それは、毎朝作るお弁当にお箸を入れ忘れたり、コピーを取る方向を間違えてしまうような事。
他人から見れば些細なミスでもルーティーンを大事にする真面目な女性にとっては驚くべき一大事でしょう。
恋する気持ちが変わるはずのなかった生活を少しづつを変えて行く、そんな微かな心の揺れが生み出す日常生活の中の非日常を描き出す阿佐ヶ谷ロマンティクス。
彼らの音楽は、ジャンルとしては今流行りの「シティポップ」に入るのかも知れません。
しかし、今も阿佐ヶ谷を中心に活動している阿佐ヶ谷ロマンティクスの音楽には「町の歌」と日本語で表現する方がしっくり来るような気がします。
TEXT 岡倉綾子