非凡な少年だった尾崎豊
1983年、シングル『15の夜』とアルバム『十七歳の地図』で、尾崎豊は高校在学中の18歳でデビューしました。
尾崎豊の歌詞の特徴は、『15の夜』の「盗んだバイクで走り出す」や『卒業』の「夜の校舎 窓ガラス 壊してまわった」などの、青春映画のようなドラマティックな歌詞ですよね。
尾崎豊の歌詞の多くは、彼自身の学校生活での実体験をもとに書かれているそうです。
その事からも、尾崎豊が10代の頃から既に鋭い洞察力で学校や社会に疑問を抱く非凡な少年だったと解るのではないでしょうか。
彼のライブでの定番曲で、1991年にCMソングに起用され有名になった『I LOVE YOU』は、大人への反抗や葛藤を綴ったデビューアルバム『十七歳の地図』に収められた曲でした。
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I love you 今だけは
悲しい歌 聞きたくないよ
≪I LOVE YOU 歌詞より抜粋≫
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「I LOVE YOU」このたったの一言だけで聴く人の心にティーンエイジャーの実らぬ恋の世界が広がるような、澄んだピュアな歌声でこの曲は始まります。
尾崎豊のデビュー前のオーディションの動画が今も残されていますが、16歳の頃から既にこの表現力が完成されていて、見た人を驚かせました。
10代が表現した10代の未熟さ
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I love you 逃れ逃れ
辿り着いた この部屋
≪I LOVE YOU 歌詞より抜粋≫
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物語性が感じられるアルバム『十七歳の地図』の中で、『I LOVE YOU』は、大人に抵抗してあちこち逃げ回った少年少女が最後に辿りついた場所を描いているようです。
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きしむベッドの上で
優しさを持ちより
≪I LOVE YOU 歌詞より抜粋≫
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「きしむベッド」という歌詞で、狭い部屋の小さいベッドに寄り添いあって眠る2人の姿が思い浮かびますよね。
そして「優しさを持ちより」という歌詞には、お互いへの愛以外には何も持っていない2人の若さゆえの純粋さと無謀さが表現されているのではないでしょうか。
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何度も愛してるって
聞く おまえは
≪I LOVE YOU 歌詞より抜粋≫
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愛し合ってここまで来たのに「何度も愛してるって聞く おまえ」。この歌詞からも、2人の、特に少女の幼さが伝わって来るでしょう。
自分自身も10代でありながら同じ10代の未熟さを表現した尾崎豊の感性の鋭さが素晴らしいですよね。
尾崎豊という奇跡
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きつく躰
抱きしめあえば
それからまた二人は
目を閉じるよ
悲しい歌に 愛がしらけて
しまわぬ様に
≪I LOVE YOU 歌詞より抜粋≫
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「悲しい歌」は「厳しい現実」を意味しているのではないでしょうか。
何か事情があって逃げてきた2人には、この先一緒になる事が叶わぬ夢だと頭の片隅では解っている。だから今だけは固く目を閉じてその現実から目を逸らしていたい。
若い2人の最後の安息の時間を描いた美しいバラード『I LOVE YOU』は、『十七歳の地図』のレコーディングの終盤に短期間で書き上げられた曲でした。
だからこそ、尾崎豊の才能が鮮度の高いまま真空パックされ、今も「I LOVE YOU…」というオープニングとともに瞬間解凍されてキラキラと輝き始めるのかも知れません。
世の中には、神様から特別なギフトを与えられて生まれて来る「天才」と呼ばれる人々がいますよね。
作詞作曲のセンス、歌唱力、抜群のルックスと多くの才能に恵まれた尾崎豊は、奇跡的な天才だったのではないでしょうか。
TEXT 岡倉綾子