嘘で塗り固められた世界
嘘というのはとても身近なものです。生きていて一度も嘘を吐いたことがないという人は珍しいのではないでしょうか?
それは子供の言い訳にあるような些細なものから、人を傷つけ貶めるものまで様々。
自分のために吐くのか、誰かを守るために吐くのか。それによっても意味合いが大きく変わってくるのが嘘の面白いところかもしれません。
ドラマ『知らなくていいコト』では、主人公の真壁ケイトが、ふとしたことからトラブルに巻き込まれ翻弄されていく様が描かれています。
そんな身近な存在である「嘘」を「素晴らしき」と形容したflumpoolの新曲。
一体そこにはどのような意味が込められているのでしょうか?
現代を生きる、誰もが抱える孤独
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絵に描いたような月に 雲のインクがこぼれた
むき出しの心を 隠した僕のようだ
≪素晴らしき嘘 歌詞より抜粋≫
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「絵に描いたような月に 雲のインクがこぼれた」とは、何とも詩的で美しい表現です。
flumpoolの楽曲のうち、ほとんどの作詞を手がける山村隆太のセンスが光っていますね。
まっさらな月は真っ当な人生と重なります。何の後ろめたさもない日々の中に、突如立ちこめる暗雲。
それはまさにケイトを襲ったトラブルと重なります。
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プライドが邪魔をして
息を潜ませた 牢獄の中
≪素晴らしき嘘 歌詞より抜粋≫
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「プライドが邪魔をして 息を潜ませた牢獄の中」とは、踏み出したいのに踏み出せない、誰もが抱えているであろうジレンマを見事に言い得た歌詞です。
何となく流されたり、後ろめたい思いを抱えたりしながら生きている人が多い世の中で、自分を苦しめるのは自分自身のプライドです。
非を認めたり、誰かに頼ったりすることができず、気づいたら身動きが取れなくなってしまう…。
そんな誰もが陥る苦しみを見事に歌い上げているのです。
「正しさ」という暴力
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正直さばかりが 正しいわけじゃないこと
みんな分かってるのに 正論を求めるんだ
モラルでさえ押し付ければ
ナイフのように誰かを傷つけるんだ
≪素晴らしき嘘 歌詞より抜粋≫
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一般的に嘘は吐いてはいけないものです。しかし実際には、あらゆる場面で嘘を吐きながら人は生きていますね。
世の中には、善悪をはっきりと分けられないものもありますし、正しさを押し付けることが必ずしも正義ではない場合もあります。
「正直さばかりが 正しいわけじゃない」「モラルでさえ押し付ければ ナイフのように誰かを傷つける」という歌詞は、世の中の理不尽さそのものでしょう。
”自分は正しい”という考えの下に行動すると、その過程で誰かを傷つけることになりかねません。
”主張することは正しくても、それは違うだろう”
誰もが抱いているのになかなか口にできない言葉です。
優しい嘘
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そっと悲しくないと誤魔化すほうが 誤魔化さないよりも痛い
分かってる それなのに互いに強がり合って
『大丈夫』とおどけて笑う あなたの優しき嘘に
気付いてるから救われるんだよ
≪素晴らしき嘘 歌詞より抜粋≫
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正しさを振りかざし悪意なく人を傷つける人達もいます。
そんな現実に悶々としながらも、答えを見つけられずに悩む人は少なくないでしょう。
しかし、そんな心を救ってくれる嘘もあります。
平気ではないのに平気なフリをすることに疲れた時「大丈夫」と嘘を吐いた「あなた」。
それが嘘だと分かっていても、自分を気遣った優しさからくる嘘だと分かっていれば、心は救われるのです。
がんじがらめの世界に息苦しさを感じながらも”どうせ吐くなら優しい嘘を吐きたい”と思わせる優しい歌詞です。
「本当のこと」を見失わない強さ
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きっと誰にも白黒つけられない 何度も引き裂かれながら
素顔と仮面を 無意識にすり替えてゆく
本当のことはいつでも あなたと僕の中にある
この世界を敵に回しても 奪えはしない
≪素晴らしき嘘 歌詞より抜粋≫
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素顔も仮面も 二人にとっては真実
大切な想いは今も あなたと僕の中にある
この世界を敵に回してもいい 誰も奪えない
≪素晴らしき嘘 歌詞より抜粋≫
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「白黒つけられない」と歌詞にもあるように、生きていく中ではっきりと白黒つけられることの方が少ないでしょう。
ある時は誰かを助け、ある時は誰かを傷つけながら生きている人がほとんどではないでしょうか?
家族に見せている顔と、友達に見せている顔はきっと違うことでしょう。
それを「仮面」と呼ぶなら人は誰しも仮面をつけて生きています。
仮面をつけることを良しと取るか悪と取るか。
嘘を吐くことを良しとするか悪とするのか。
受け止め方は人それぞれ違います。
それでも「本当のことは」自分の中にしかありません。
”結果がどうであれ、周りから何と言われようが自分の中にある「本当のこと」を見失うな”
『素晴らしき嘘』にはそんなメッセージが込められているように思えます。
たとえそれが嘘だとしても、その嘘が誰かを救えるなら、それはまさしく「素晴らしき嘘」と呼べるのではないでしょうか。
TEXT 岡野ケイ