とろけそうになる素敵な声
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僕を恋の奴隷にして下さい
本当の愛なんてきっと 都合のいい幻想だろうから
今は恋の奴隷になります
≪恋の奴隷 歌詞より抜粋≫
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ああ僕を、恋の奴隷にしてください。
秦さんの良い声でそう歌われるサビの部分は、聞いていると脳みそがとろけそうになります。
秦基博の『恋の奴隷』は、恋をした男性の薄暗い感情、もっといえば暗黒面を表現した曲です。
恋愛の都合のいい幻想を歌った曲が氾濫するなかで、恋愛の苦しみから湧き出てくる、エロティックなエレジーを、秦さんの柔らかい声で表現した、刺激的な世界観をもつ曲なんです。
心の底にある想い
恋の奴隷
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まともな恋は出来そうにない つまりは欠陥品なのです
気付かぬふりはもう止めました 誰も知らない 心根に
≪恋の奴隷 歌詞より抜粋≫
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誰にも気づかれず、自分自身でも気づかないふりをしていたくらい、底の底にある感情。本当の自分は、まともな恋ができない欠陥品。だから、恋愛に淡い期待なんて抱いていない。
この曲を聴いていると、そんな憐れな男性像が浮かび上がってきます。そんな男が落ちてしまった恋だから、僕は恋の奴隷になる…と、文字通りに身も心も捧げ、相手の足元にひざまずくようにすがる姿が想像されますね。
一言に一喜一憂できる恋
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堕ちる様は滑稽で 喜劇のような 悲劇のような
お願いします 笑うのをやめて
せめて眺めるだけにして
≪恋の奴隷 歌詞より抜粋≫
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相手の言動に一喜一憂して、天にも昇るくらい嬉しかったり、それとは真逆で、胸をかきむしるほど苦しくなったり。
恋に「落ちる」男は、傍からみると、ずいぶんと滑稽なものに映るだろう。けれど、恋している本人はどうしようもなく真剣なのだから、笑うのはやめてやってほしい。
その後の、「せめて眺めるだけにして」というところに少しのエロティシズムがある。秦さんのやさしげな声音で、ある意味マゾヒスティックともとれる歌詞を歌っているのだから、本当にずるい…。
恋にもがき苦しむ、大人の男性のお話
恋の奴隷。そこには、淡い幻想は存在しない。甘く咲き誇る花々は摘まれ、流れ星には決して祈らない。
ただ相手にひざまずき、快楽に身を任せるだけ。この曲にはエロティックな歌詞が多く登場するが、「やわらかで卑猥なあなた」と歌っていても、卑猥な感じはしてきません。
それは、沼のような恋に落ちてしまった男の、どうしようもない哀しみを強く曲から感じ取れるからでしょう。
大人の男が恋を前にして、もがき苦しむ。本気になったからこそ味わえる苦しみですが…、人生の中で、ココまで思える大恋愛ができたら素敵ですね。
TEXT:緑の瞳