「恋人ごっこ」で繋がっていた二人
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「ねえ、もう一度だけ」
を何回もやろう、そういう運命をしよう
愛を伝えそびれた
でもたしかに恋をしていた
恋をしていた
≪恋人ごっこ 歌詞より抜粋≫
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「ねぇ、もう一度だけ」
この言葉で繋いできた二人の関係が、恋人同士だったのか、そもそも交際すらしていなかったのかは明らかではありません。
確かなのは、二人が「恋人ごっこ」をしていたということ。
ダラダラと続いてしまった二人の関係を彼女は終わらせようとしますが、彼は形だけの「恋人」を演じていたはずの彼女に恋をしてしまったことで、踏ん切りをつけられずにいます。
「愛を伝えそびれた」という歌詞からは、そんな彼の想いを彼女に伝えることができなかったことが表われており、彼女とどうしても離れなければいけない理由があったからこそ伝えなかったと捉えることもできるでしょう。
それでも、関係を切ることがお互いのためだと分かっていながら「もう一度」を繰り返してしまう二人の様子は、自ら辛い道へと進んでしまう恋愛の落とし穴をリアルに描いているといえます。
ひとときの幸せを選んでしまう自分
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缶コーヒーで乾杯
シーツは湿って どうにもならない二人だ
言う通りにするから、
恋人ごっこでいいから
今だけ笑っていてほしい
≪恋人ごっこ 歌詞より抜粋≫
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後で苦しむことを分かっていても、結局ベッドで共に過ごしてしまう自分たちの姿を「どうにもならない二人」と表す彼は、この関係を客観視して自らの行動に呆れているようです。
しかし、分かっていても沼にはまってしまえば冷静さが失われてしまうのが恋愛の恐ろしい一面でもあります。
「言う通りにするから恋人ごっこでいから 今だけ笑っていてほしい」という歌詞からは、彼女に自分への気持ちがないと割り切っていながらも、今だけは「恋人」を演じていてほしいという思いが表われています。
作りきったものでも良いから、この時だけは笑顔を見たいという気持ちは、彼女のことを体だけでなく、心の底から愛している証拠なのです。
とは言っても、こうした割り切った関係でいる限りは、愛情が彼女に伝わることはないでしょう。
むしろ、彼には、のちに大きな後悔と喪失感がこみ上げてくることは間違いありません。
彼はそういったことを見据えた上で一瞬の幸せを選び、彼女もそれに付き合ってしまったのですから、二人はもう引き返すことができないのです。
思い浮かんだ彼女の姿
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裸や、撫で肩や、キスや乾かない髪
もう一度あなたと居られるのなら
きっともっともっとちゃんと
ちゃんと愛を伝える
≪恋人ごっこ 歌詞より抜粋≫
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「体や、撫で肩や、キスや乾かない髪」彼が思い出す姿は皮肉にも彼女の中身ではなく、外見ばかりでした。
割り切った関係であればそれで良かったはずですが、恋をした彼にとってはもう少し内面に愛情を注ぎたかったのかもしれません。
「もう一度あなたといられるのならきっともっともっとちゃんと ちゃんと愛を伝える」
という歌詞には「どうにもならない二人」の関係止まりで、終わってしまったことへの後悔が詰まっているのだと思います。
どんなにダラダラと繋がりを続けたところで、結局想いを伝えない限りは、そこで止まってしまうのが恋愛の煩わしい側面なのです。
「恋人ごっこ」をするということ
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あまりに脆い今日を抱き締めて手放す
ただいま さよなら
たった今 さよなら
≪恋人ごっこ 歌詞より抜粋≫
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脆くすぐに消えてしまいそうな明日を抱きしめてきた二人でしたが、彼が想いを伝えないうちにいつの間にか、そんな明日でさえ手放すことになったのです。
「ただいま」と言い合えた当たり前の日々も「たった今」「さようなら」という言葉であっけなく終止符を打ち、もう関係を取り戻すことはできなくなりました。
こんな結末になるのなら「恋人ごっこ」で良いから、今だけ笑っていてほしいといっていた彼の想いも分かる気がします。
例えそれが演技だとしても、会えなくなるよりは、よほど良かったのでしょう。
そう考えると、本音を隠して関係を続けていた彼もまた演じていた一人なのですから、恋愛とは時に残酷で切ないものなのでしょう。
マカロニえんぴつ『恋人ごっこ』は、こうした男女の複雑な心境の変化や生々しい生活の様子をリアルに描いた、じれったい大人のラブソングだったのです。
TEXT もりしま