手書きで書いた方が、愛着が湧く
──まず、山中さん単独ではUtaTenに初登場なので、歌詞に纏わるパーソナルな部分からお伺いしたいのですが、歌詞というものを書き始めたのはいつ頃だったのでしょうか。
山中 拓也:高校1年生ぐらいのときからだったと思います。
──バンドを始められたのも、高校1年生ぐらいですか?
山中 拓也:バンドは兄貴と小4からずっとやっていたんですけど、オリジナル曲を初めて作ったのは、高校1年生ぐらいですね。なので、その時ぐらいから歌詞は書き始めていました。
──歌詞はかなり長く書かれているのですね。
山中 拓也:そうですね。でも、当時は英語で歌詞を書いていたので、今に繋がっている歌詞はそんなにないですね(笑)
──その頃から、歌詞は手書きで書かれていたのでしょうか。それともパソコンや携帯などで打ち込んでいましたか。
山中 拓也:基本、僕ずっと手書きで書いていますね。なんか手書きで書いた方が、愛着が湧くんです。
──手書き派なんですね。今でも歌詞のストックは常にされていますか。
山中 拓也:1曲としての歌詞のストックはないんですけど、毎回自分が誰かと喋ったり、何かから感情をもらったときに自分が感じたものは基本的にストックしています。なので、1文1文がストックされていますね。アルバムやシングルを作っていく中で今何が伝えたいんだろう?というタイミングで、自分のストックからその時に感じていた感情を引っ張りだしてきて、そこから広げていく手法をしています。
歌詞は人から貰っている感情から生まれる
──山中さんが綴られる歌詞は、リアルに生きている中で今思っていることを歌詞に書かれることが多いのかなと感じたのですが、一番歌詞が降ってくるときは、何をしているときですか?山中 拓也:マイナスの原動力が多いですね。人にめっちゃ腹が立ったときにも出てくることもありますし、自分自身がめちゃめちゃ傷ついたときもあります。あと、歌詞を書くことがセラピーというか、癒しているという感覚なんですよね。基本、マイナスな感情が多いですが、ライブとかでファンのみんなからもらっている愛情みたいなものを感じたときは、ライブ終わってからホテルで歌詞を書くんです。そのときに感じたものをバーッと広げるみたいなことをすると、とても温かい愛のような曲ができあがります。
──人との感情によって、歌詞が生まれるんですね。
山中 拓也:人から貰っている感情の方が多いです。
──歌詞を書かれる方は、読書や映画などの作品からインスパイアを受けて楽曲に反映させる方が多いとよく聞くのですが、山中さんもそういった作品から歌詞に反映させたりはしますか?
山中 拓也:昔はよくやっていましたね。漫画と映画がすごく多かったです。漫画から楽曲を書いているものも実際ありますし、映画からインスパイアされて書いている曲もあります。
──作品ありきで歌詞を書くのと、ご自分の想っている感情を歌詞にするのではどちらの方が綴りやすいでしょうか。
山中 拓也:自分が想っていることを書いている方がすごく書きやすいです。相手の作品があったりインスパイアされる作品があると、その作品に対してのリスペクトがすごく高いので、そこを汚さないように余計な思考回路が働いてしまうんですよ。制限がかかってくるから。でも、自分の感情だったらそのまま書き出したら良いですし、だから自分の感情から湧いてきた歌詞の方が、書きやすい。なにより、歌っているときに感情が入りやすいですね。
難易度が高かった歌詞は「カンタンナコト」
──少し難しい質問をさせて頂くのですが、これまで歌詞を書いてきた中で一番難易度が高かった楽曲はありますか。山中 拓也:パッと出てくるのは、「カンタンナコト」ですね。この曲は苦戦した記憶があります。この楽曲はすごくセンシティブなところがあり、世間に対しても自殺っていうナイーブなところを表現しているもので。それにリズムもラップ要素が含まれていて、早口でのAメロにも挑戦したし、自殺っていうものに対してどういうパンチラインを打ち出すべきなのかをよく考えたので、この「カンタンナコト」っていう曲はすごく大変でした。
──そうなんですね。「カンタンナコト」のように、人間の奥底にある闇の部分とか、人にはさらけ出せない悩みなどを代弁してくださる、山中さんの歌詞の在り方に救われる方々はたくさんいると思います。ですので、このような人々を救ってくれる楽曲がこれからも増えていってほしいなと、強く感じました。
山中 拓也:(笑) ありがとうございます!!
──歌詞を書くのに息詰まったとき、どのように気分転換をされていますか?
山中 拓也:実は僕、あんまり歌詞を書くのに息詰まらないんですよ。結構一発でバーッと書いてしまうので、歌詞を書くことに困ったことがあまりない方かもしれません(笑)
──ないんですね(笑)でもそれって、ヴォーカリストさんにとって、とても有難いことではないですか。
山中 拓也:うーん、でもしんどいですよ。表現したい感情が多いから、書けないことがないっていう状態になっているんだと思います。感じることが多い分、メンタルはかなりしんどいのが続きますね。歌詞を書くときは、すごく身を削っている感覚になりますもん。
──大きなテーマをお聞きしますが、山中さんにとって、歌詞とはどんな存在でしょうか。
山中 拓也:自分に言い聞かせてもいるし、自分を救う存在でもあります。それに自分自身のメンタルの安定に繋がっている気もする。身を削っている感覚ですけど、ちゃんと吐き出している感覚でもあるので、それが曲になって美しくまとまることが、結果マイナスな感情でも美しく完成したのだったらいいやっていう音楽のプラス感覚に変わるんです。なので、そういう部分で助けられている存在なのかなって、すごく思います。
音楽の答えっていうのがその人の人生の答え
▲『SUCK MY WORLD』ジャケット写真
──『SUCK MY WORLD』の発売おめでとうございます!どの楽曲もオーラルさんの新境地と、ふり幅の広さがあり、釘付けになる最高のアルバムでした。『SUCK MY WORLD』というアルバムは、オーラルが描く人間の生きざまだと思ったのですが、どういうものをテーマにしたのでしょうか。
山中 拓也:ありがとうございます!言ってもらった通り、「人間の生きざまがロックの美しさでしょ」って今回僕は改めて感じていたので、それを全面に出したいという思いが一つありました。あとはちゃんと人間っていうものに対してというか、自分たちがロックバンドであることのリスペクトみたいなことをしたかったんです。
なので、根源に戻るということを今回はすごくやっていきました。音楽と人とってどんな時代であっても、すごく密接なものだと思うんですよね。そのときの時代背景や、その時に感じたことがあって、それが音楽に変わっていくのがロックだと思っているので、人間の誕生から今に至るまでの歴史を遡って勉強をしたり、ロックやパンクとか音楽が生まれたところや、どういう時代背景で、どういう音楽が鳴らされていたりとか、そういう根源を突き詰めていくという事が芯になっている部分です。
──1曲目の「Introduction」を聴いてから、全曲の歌詞を全て読むとより一層この『SUCK MY WORLD』という1つの物語になっているなと感じました。
山中 拓也:そうですね。英詞ではあるんですけど、「Introduction」で人間の根源についてを込めていますし。CDには日本詞も歌詞カードに入れているので、その詞はちゃんと見てほしいなって思っています。
──ここからはいくつか曲をピックアップしてお聞きします!3曲目の「Fantasy」を聴いたとき、一番衝撃を受けまして…。洋楽テイストが盛り込まれており、ライブで一体感が生まれる曲だと感じました。この曲が生まれたきっかけを教えてください。
山中 拓也:R&B、ファンクやダンスみたいな黒い音楽を、今回ちゃんと作りたかったんですよね。その黒い音楽っていうものを自分の中でだけでやるのは大変な部分があって…。実際にそこに身を置いているブラックミュージックをやっている人たちのアドバイスが欲しかったので、飲み友達でもあるケネス小堀っていうブラックミュージックに精通している人間に、「一緒に、一曲作りませんか」って話をして、どんどん「Fantasy」っていう曲が出来上がりました。
──メロディーはキラキラしているイメージですが、歌詞はすこし毒っけがあるような感じがしますね。
山中 拓也:そうですね。絶望から楽曲を書いているなっていう感じもあるんですよ。海外から比べた日本の音楽ってどういう立ち位置で、どういう世界があるんだろうな?って考えたときに、日本っていう国は文化とか流行りとか、みんなが右向いたら右を向く風潮が進化を邪魔しているじゃないかなって思って。
最近、海外と日本を比べることがすごく多いんです。というのも日本を良くしたいが故なんですけどね。僕は海外に行って活躍をしたいとかではなくて、海外の人たちから「日本っていう国はすごいカッコいいよね!」って言われたいだけなんですよ。海外のアーティストの中には、自分がロックスターだと思う人はいっぱいいるんですけど、その人間がドラックとかに手を出していたり、ドラックのトリップ中にしか見えない世界観に対して、僕この世界観には敵わんなって思って。やっていないわけだし。自分が見れない世界をこの人たちは見えているということに絶望を感じたりしたんです。
──絶望ですか。
山中 拓也:はい。そこに対して諦めそうになっていたんですけど、その絶望さえも歌詞に書いたら良いんじゃないかなと。それを強さに変えていくような歌詞にして、自分に言い聞かせたら良いんじゃないかなっていう感情が、「Fantasy」の歌詞には表れています。
──「マンソンのマネ?Oh Shit... 君にはなれない」という歌詞も出てきますが、これはマリリンマンソンを敬愛している山中さんだからこそ、綴られた言葉なのかと思いました。
山中 拓也:そうですね。想像でしかわからないですけど、ドラックとかやっていそうな人間って日本の中のクリエイターの中でもいると思うんですよ。その人たちに対して、「あなたたちそれがカッコいいと思っているの?ダサいよ。」っていう皮肉のつもりで言っています。
──そういう意味が込められていたんですね!加えて「マジでダセーな Drug Time」の所から声色が低く変わりますが、これもそういったダークな意味が表現されているんですね。
山中 拓也:その意味もあります。あとちゃんと綺麗なメロディに高い音域で乗っているラップって、日本にはありふれているのであんまり面白くないなと思いまして。わざと一番下の音域でラップしてみたという感じですね。
──そのようなトリックがあったんですね!歌詞に「音楽のアンサーは人生のアンサー」というフレーズがあります、これは山中さんが今一番訴えかけたい想いではないですか?
山中 拓也:一番に近いくらい訴えかけたいところはありますね。生き方ダサい奴が書いた歌詞ってダサいなって思いますし。その人間性みたいなところや、どれだけ感情を動かして毎日を過ごしているのかっていうところで楽曲の深さや、同じ言葉でも説得力が変わってくることはあると思うんです。なので、音楽の答えっていうのがその人の人生の答えなのかなって。さっきも言ったんですけど、歌詞が自分にとってのセラピーだったりしますし。自分の人生は全部音楽に注ぎ込んでいるので、そういう所からきた歌詞ですね。
愛情表現の仕方とかって、遠回りをしていかないと出来ないもの
──5曲目の「Maze」はイントロからどこかに迷い込んでしまったのかなと思わせてくれるサウンドで、歌詞も愛することへの葛藤が見られますね。山中 拓也:結論を言ってしまうと物事のすべてが愛だと思っていて。愛ってプラスのものだけではなくて、マイナスな愛もきっとあるんだろうなと。愛情表現の仕方とかって、遠回りをしていかないと出来ないものなのかなっていう気持ちが、「Maze」に含まれています。
恋愛で例えるんですけど、大人になると昔みたいに純粋に人を好きになれなかったりするわけじゃないですか。何か下心が働いたりもするだろうし。昔なら顔が可愛いとか関係なく、この子の事が直感で純粋で好きってなっていたにも関わらず、大人になって色んな事を知って経験をしていくと、その気持ちが淀んでいってしまう感覚はすごくあって。昔から今の自分になるまでの愛情の本質について「じゃあどうやって変わっていったんだろう?何が自分にとっての本当の愛なんだろう?」って迷いながら答えを探している感覚を「Maze」っていう曲に名前をつけて表現していきました。
──歌詞冒頭に「落ちては返す波の音達」にありますが、ここを「寄せては返す波の音」とではないところが印象的でした。
山中 拓也:愛情ってすごく儚いモノな感覚があって。すごく切り替わってしまうもの。自分を信じることはすごく容易いことだと思うんですよ。だけど他人のことを信じて、自分のことを犠牲にするとか、他人の事を愛して自分を犠牲にすることって凄く難しいことだと思うんです。その愛情っていう難しさっていうものが、僕の中でどんどん零れ落ちていくっていう表現がしっくりきたのが多くて。生まれては落ちて、生まれては落ちての繰り返しが愛情だと思うんです。だからそういうことからの発想で、こういう歌詞ができました。
──「Maze」には、「赤きは迫る針のような日々」、「赤い雨に祈っていて」という“赤”という色が含まれていますが、これが示す意味とはなんでしょうか。
山中 拓也:簡単に言ったら血ですね。人の中に流れている血っていうものを、どれだけ意識できるかというのは、何に置いてもすごく必要な話なんです。自分と同じように血が流れているんだっていう感覚は、人は普段持たないと思います。だから戦争が起こるし、デモとかも起こる。それの前提として足りていないものって、赤っていう血をあまりにも人間が意識してなさすぎているからなんだと思うんです。だから僕の歌詞の中には、赤っていう色はすごくいっぱい出てきます。それが人間の体温であって、人間を温かくしているもの。その表現が多く使われていると思います。
「Naked」は実際の体験から生まれた
──11曲目の「Naked」には歌詞の冒頭に、「いつかの君が言ったんだ僕に 友達があなた好きなんだって 最近DMしか知らないから 正式連絡先教えてよ 彼女は友達を使っている 自分の欲望をさらしている ご飯に行こうと言ってる君の 裏で友達は仕事してますが?」という、現代社会に起こっていそうなリアリティーある言葉が綴られています。これは実際に山中さんが体験されたことなのでしょうか?山中 拓也:そうです。全く同じことを言われたので、そのまま書きました(笑)
──実際に体験されていたんですね(笑)とても鮮明に書かれていたので驚きました。こういうダークな体験も現実社会には起こっているんだよということを、表現されたかったというわけではないでしょうか。
山中 拓也:(笑)どうですかね、それを公にしたかったわけではないんですけど、僕としてはそれがただの一例でしかなくて。基本的に人間って、汚いよっていう話をいつも僕しているんですね。なので、まっさらで純粋な人間って子供か、赤ちゃんしかいないんだろうなって今感じています。実際に僕もこういうリアルな体験していますっていうことをリスナーや、ファンに音楽として共有することで、多少はみんなが絶望しなくて済むのかなって。意外と世間って裏切られたことに対して、執着しすぎている気がしていて。裏切られたりして泣いちゃうこともあると思うけど、そんなこと普通だぜって(笑)
──そうですよね。
山中 拓也:人間ってとても儚いよってことを提示することによって、ファンの子が「ああ、拓也さんもこういうことあったって言ってたな~それが世の常なのかもしれないな」って感じてくれたらこの曲は良いんじゃないかと思います。
──「Naked」はサイケデリックな上に、最後に女性の笑い声が聴こえてくるのであれがまた怖いなと思いました(笑)
山中 拓也:はは(笑)
──最後に『SUCK MY WORLD』の中から1曲選んでいただき、特にお気に入りの歌詞のフレーズを教えていただけませんか?
山中 拓也:うーん、このアルバムの本質みたいなものを突いている歌詞は、「Hallelujah」
っていう曲に入っていると思っていて。地球がいつ誕生して、いろいろな山々や川や海やそういうものが生まれて、その中で人間に必要のないものがどんどん増えていって。
みんなはその発展みたいなものが、破壊や衰退に繋がっていることに気づいていますか?っていうそういうメッセージが、「Hallelujah」には入っていると思います。「Use Imagination Hallelujah」っていう英詞は、“また思い出そうぜ”っていう意味があるんですけど、僕はその部分がこの『SUCK MY WORLD』ではキーになる歌詞なんじゃないかなと思っています。
──インタビューは以上になります!ありがとうございました!
山中 拓也:ありがとうございました!
2010年奈良にて結成。人間の闇の部分に目を背けずに音と言葉を巧みに操る唯一無二のロックバンド。 メンバーのキャラクターが映えるライブパフォーマンスを武器に全国の野外フェスに軒並み出演。 2017年6月には初の日本武道館公演、2018年2月には地元関西にて大阪城ホール公演を開催し両日と···