確かに感じる「鼓動」と「嘘」
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最初からこうなることが決まっていたみたいに
違うテンポで刻む鼓動を互いが聞いてる
どんな言葉を選んでも どこか嘘っぽいんだ
左脳に書いた手紙 ぐちゃぐちゃに丸めて捨てる
心の声は君に届くのかな?
沈黙の歌に乗って...
≪しるし 歌詞より抜粋≫
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こんな一節で始まるのが、Mr.Childrenの『しるし』です。
2006年にシングルとして発売され、ドラマ「14才の母」の主題歌としても話題になったこの楽曲。
その歌詞を読み解いていくと、あたたかく柔らかいメッセージが浮かび上がってきます。
歌い出しの歌詞が表現するのは、まるで静寂の中にいるような密室感を伴った登場人物二人の姿。
「違うテンポで刻む鼓動」という表現からは、別々の人間ふたりが脈を感じられるほどに寄り添っている状況が的確に伝わってきます。
「どこか嘘っぽい」と丸めて捨てたのは「左脳」に書いた手紙。
人間の脳には右脳と左脳、二つの部位が存在します。
右脳は感覚的な分野を、左脳は論理的な分野を司ると言われていますが、「僕」が手紙を書いたのは「左脳」の部分。
今胸に抱いている感情は言葉では言い表せないほどに複雑で大きなものであり、どんな言葉を用いても伝えきれない。
そんな感情の高鳴りを、わずか一文で聴き手の心に届けます。
桜井和寿が魅せる「愛」のかたち
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ダーリンダーリン いろんな角度から君を見てきた
そのどれもが素晴らしくて 僕は愛を思い知るんだ
「半信半疑=傷つかない為の予防線」を
今、微妙なニュアンスで君は示そうとしている
≪しるし 歌詞より抜粋≫
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続くサビで歌われるのは、こんな一節。
キャッチーなメロディでのびやかに歌われる「ダーリン」という言葉には、作詞も担当するボーカル・桜井和寿の優しくも雄大な力強さが込められているように感じられます。
「いろんな角度から」見てきた「君」の素晴らしさに愛の存在を見出す「僕」。
愛おしくてたまらないという感情が溢れ出るような素晴らしい恋愛の経験は、きっと多くの人の記憶に強く残っているでしょう。
そんな思い出を、まるで引き出しを開けていくかのような丁寧さで、聴き手に想像させる歌詞のみずみずしさが印象的です。
続く「半信半疑」のキーワードも印象的。
相手のことを信じ過ぎてしまうと、裏切られた時に大きな傷を負ってしまう。
そうならないために、自分を守るための予防線を張っている。
そんな痛々しい程にリアルな状況が歌われているように聞こえてきます。
逆境も乗り越える、力強い感情
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ダーリンダーリン いろんな角度から君を見てきた
共に生きれない日が来たって どうせ愛してしまうと思うんだ
ダーリンダーリン Oh My darling
狂おしく 鮮明に 僕の記憶を埋めつくす
≪しるし 歌詞より抜粋≫
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楽曲を締めくくるパートでは、こんな言葉が紡がれます。
もしかしたら訪れるかもしれない「共に生きれない日」。
なんの苦労も困難もない、真っ直ぐな恋愛の歌詞だけでは終わらないのがMr.Childrenの歌詞の特徴でもあります。
『しるし』がそうであるように常にどこか現実的で客観的な視点を持ちつつも、大切なものを追い続ける強さを与えてくれるようなエネルギーが込められています。
逆境の中に放り込まれたとしても、「どうせ愛してしまうと思う」と自らの心情を吐き出す「僕」。
きっと多くの人に心当たりがあるように、人を愛するという心は何よりも強く、果てしないパワフルさを備えた感情のひとつなのです。
誰しもが持つ普遍的な「愛」の心。
決して忘れてはいけない大切な感情を思い出させてくれる『しるし』。
多くの人に勇気を与える要素は、そこにあるのかもしれません。
TEXT ヨギ イチロウ
1992年ミニアルバム「EVERYTHING」でデビュー。 1994年シングル「innocent world」で第36回日本レコード大賞、2004年シングル「Sign」で第46回日本レコード大賞を受賞。 「Tomorrow never knows」「名もなき詩」「終わりなき旅」「しるし」「足音 〜Be Strong」など数々の大ヒット・シングル···