カンヌ国際映画祭審査員賞受賞作!
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2013年に公開された『そして父になる』は、病院で赤ちゃんを取り違えられた両家の家族の苦悩を描いたヒューマンドラマであり、主演の福山雅治が父親役を初めて演じることで公開前から話題になっていた映画です。
2013年に第66回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞。
興行収入は32億円を記録し、これからの時代の家族のあり方を考えさせられると、大きな反響を呼びました。
監督は「三度目の殺人(2017年)」「万引き家族(2018年)」などを生み出した是枝裕和。
6年間育ててきた息子が病院で取り違えられた血の繋がらない子どもだったという衝撃展開から物語が動き出します。
映画「そして父になる」のあらすじ
野々宮良多は、大手建設会社に勤める会社員。
妻のみどりと6歳になる息子・慶多と3人で高級マンションで生活していました。
小学校入試が一段落したある日、慶多を出産した病院から連絡が入り、出生時に取り違いが発生し慶多は実の息子ではないことが明らかになります。
野々宮家の実子は、小さな電気店で自由奔放に育った斎木家のわんぱく少年・琉晴。
斉木家の家庭環境や教育方針の違いに戸惑う野々宮夫妻ですが、それぞれ息子を実の両親のもとへ預け合うことにしました。
これまでの時間を取るか血縁を取るか、野々宮夫妻は悩みます。
この難しい問題と子どもと向き合うことの難しさに悩みながら、良多はどのように決断するでしょうか?
豪華俳優陣演じるリアルな家族に注目
主人公・野々宮良多(演:福山雅治)は、大手建築会社のエリート社員。
家事、育児は妻に任せきり、仕事一筋な性格でなかなか息子と遊べず、それを仕方ないと思っていました。
慶太の競争心のなさに自分との違いや不満を抱き、実の息子・琉晴を引き取ろうと考えています。
良多の妻・野々宮みどり(尾野真千子)は、息子を一心に愛情を注ぐ優しい母親です。
6年間大切に育ててきた慶多を“交換”することに抵抗を感じていましたが、琉晴に笑顔で接するうちに情が湧き、慶多に申し訳ない気持ちを抱き葛藤します。
良多の妻・野々宮みどりを演じた女優・尾野真千子は、今作で第37回日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞しました。
琉晴の父・斉木雄大(演:リリー・フランキー)は、田舎で小さな電気店を営む大家族の父。
仕事を優先する良多に「父親かて、取り替えのきかん仕事やろ」と言い放ったように、子供や家族と過ごす時間を大切にしています。
雄大の妻・斉木ゆかり(演:真木よう子)は、斉木家の主導権を握る肝っ玉母さん。
弁当屋で働きながら、夫と3人の子供達を育てています。
ちなみに子役俳優には台本は用意されず、場面ごとに口頭でセリフを伝えられて演技を行っていたそうです。
大人が勝手に決めたことへの子供達の反発心や不安を巧みに表現していて、心動かされますよ。
是非、その自然体な演技にも注目してご覧くださいね。
主人公の心情変化に胸熱、共感できて奥深い!
映画の見所は、良多の心境が変化し、父親意識が目覚めていく展開です。
映画では、子育てにノータッチだった彼が、少しずつ父性や家族愛に目覚めていく姿が描かれています。
箸の持ち方が間違っている琉晴に箸の持ち方を教えるところから始まり、琉晴とみどりと3人で部屋の中で遊び、そして6年間過ごした息子・慶多の気持ちを分かろうとするようになっていくのです。
クライマックスは演出と相まって、父親らしくなった良多の姿に胸が熱くなってくることでしょう。
映画を見た人の感想の中には、未婚の人も自分が同じ立場だったらどう行動するかと考えさせられたというものもありました。
福山雅治、尾野真千子、リリー・フランキー、真木よう子がその役を自然体に演じていて、自分に近い人物を追って物語を見ることもできます。
発言から人物の人となりや子育ての方針がハッキリと見えているので、自分もこんな風に子供と関わろうと思う場面に出会えるはずです。
頼もしい母親たちとまだまだ成長途中の父、そして両家の間で揺れる子供達に共感しながら、家族や親子の関わり方について考えてみてください。
主題歌は天才ピアニストの代表曲「ゴルトベルク変奏曲~アリア~」
映画『そして父になる』の主題歌は、J.Sバッハ作曲『ゴルトベルク変奏曲~アリア~』です。
ロシア大使カイザーリンク伯爵から“眠れない夜に聴くための音楽”を所望されたのをきっかけに、バッハが作曲しました。
楽曲は、1982年に亡くなった伝説のピアニスト、グレン・グールドが弾いた楽曲を使用しています。
『ゴルトベルク変奏曲』は、駆け出しだったグレン・グールドの人気に火を付けた楽曲です。
当時のワシントン・ポスト誌で「いかなる時代にも彼のようなピアニストを知らない」と高く評価され、現在もグレン・グールドの演奏した楽曲で特に愛されている楽曲のひとつです。
グレン・グールドはこれまでの演奏法と異なる軽やかで躍動感あふれる演奏が特徴的とされています。
良多と慶多が心を通わせたラストシーンから流れ始めた「アリア」は、洗練されたピアノの音色がノスタルジックな雰囲気を醸し出していて、聴いていて心地いいです。
聴いているだけで、静かで穏やかな気持ちになれますね。
家族とは?親子とは?父・母としてのあり方とは?心の中で考えをめぐらせながら、映画の余韻に浸ることができます。
親子の繋がりや想いを乗せたことで、より磨かれ透明感を持った音色が魅力的な楽曲です。
見たら家族に寄り添いたくなる!
「取り違え」という一見ヘビーな題材を扱い、子供との関わり方を見直し、気付きを与えてくれる映画『そして父になる』。
近年は取り違え問題が話題に上がらなくなりましたが、取り違えられた両親の等身大のドラマに共感して感情移入できる作品となっています。
小説版では、登場人物の心理を繊細に描かれていて、映画の魅力をさらに深く味わうことができるでしょう。
映画では描かれなかった結末にも注目して読んでみてください。
子供と向き合うこと、寄り添うことの大切さを実感させてくれる『そして父になる』。
あなたも身近な人への思いやりがわいてくる映画に、一度触れてみてください。
TEXT Asakura Mika