Orangestarの代表曲「DAYBREAK FRONTLINE」
楽曲『アスノヨゾラ哨戒班』で大ヒットしたことをきっかけに人気を博したボカロP『Orangestar』。2017年に一度はその活動に幕をおろしましたが、2019年に活動を再開。再び注目が集まり始めているボカロPです。
そんな彼の人気曲の1つが『DAYBREAK FRONTLINE』。
ニコニコ動画で再生回数300万回超え、YouTubeでは1000万超えの大人気楽曲です。「元気が出る曲」として多くの人々から高い評価を受けています。
なぜ、この曲が人々を励ます曲となっているのか。その意味を歌詞から紐解いていきましょう。
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「眠れないんだ」
風もなく茹だりそうな夜に
君の声が耳元で揺らいだ
≪DAYBREAK FRONTLINE 歌詞より抜粋≫
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始まりの歌詞からわかるのは、この楽曲の主人公が「君」を連れてどこかへ飛び出して行った、という展開です。
「風もなく茹だりそうな夜」という歌詞から、背景は夏の夜であることが読み取れます。
しかし、続く歌詞を見るともう1つ別の解釈も姿を現してきます。
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感傷に浸ってばっか
何も変わらない
笑えない日々を
抜け出そうぜ
君を連れ飛び出した
≪DAYBREAK FRONTLINE 歌詞より抜粋≫
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「感傷に浸ってばっか」という歌詞から、主人公には何か暗い気持ちになる事があり、それについてずっと考えを巡らせているという光景が浮かんできます。
「知恵熱」という言葉があるように、頭は考え事をし過ぎると熱くなることがありますよね。
つまり「茹だりそうな」という言葉は、考え事をし過ぎたが故に、頭が茹り熱くなった、という風に解釈する事もできるでしょう。
もしかしたら「君」も主人公のように感傷に浸っていたのかもしれません。
そして主人公も同じである事に気づいていたからこそ、「眠れないんだ」とわざと口にしたのかもしれませんね。
彼らが先見えぬ夜の中を歩く理由
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風が通り過ぎた
闇と混ざり合った
君の笑い声が
小さく藍の空に響いて
そんなんで生きていけんのか
もう戻れないぜ
なんて揺らぎそうな想いは
アクセルへ
このまま地平線を
追い越してやるんだ
≪DAYBREAK FRONTLINE 歌詞より抜粋≫
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どうやら彼らは今、とても速いスピードで夜の中を駆けているようです。
「アクセル」という単語もありますし、「車」にでも乗っているのでしょうか。
「君」の方はとても楽しそうです。楽曲冒頭では「笑えない日々」の中にいた「君」が笑う光景から、主人公の取った行動が間違いではなかった事がわかります。
それでも不安がなくなったわけではないようです。
後半の歌詞からは、自分の行動に対して迷っている主人公の様子が伺え、さらに2番でもこのように歌われています。
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きっと僕は僕を
信じ切っちゃいないから
いっそあの向こうへ
未だ見ぬ夜明けを
信じ歩いた
≪DAYBREAK FRONTLINE 歌詞より抜粋≫
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主人公は自分を信じられない人間のようです。
だから自分の行動に自信がもてずに揺らいだのでしょう。しかしその反面、だからこそ歩き続ける事を選んだとも歌っています。
そもそも夜に飛び出した理由も「感傷」という不安に近しいものが理由なのでしょう。
つまり、これらは彼らが闇の中を歩くきっかけであり、歩いていられる理由・支えでもあるのです。
そんな矛盾のようなもの抱えながらも、彼らはある「方向」を目指して進み続けていきます。
「夜明けの最前線」を目指した先に得た答え
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夜に腐っていたって僕たちは
間違いなく明日に向かっていく
≪DAYBREAK FRONTLINE 歌詞より抜粋≫
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Cメロの「明日」という言葉。これが主人公達が向かっている方向のようです。
一体どういうことなのか。それを詳しく知るためにも、続く大サビの歌詞を見てみましょう。
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最前線飛ばせ僕たちは
昇る太陽
その光を目指していく
幸せって今はわかんなくたって
精一杯僕を生きていく
何も後悔なんてないさ
前を向け
終わらないさ
一生僕らは生きて征け
≪DAYBREAK FRONTLINE 歌詞より抜粋≫
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注目は「昇る太陽」という歌詞。
太陽が昇るという事は夜が明けるということ。つまり楽曲のタイトルの「DAYBREAK(夜明け)」にあたります。
そしてそれは「明日」がやってくるということにもなるのです。
思えば1番のサビでもこのような歌詞がありました。
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最前線飛ばせ僕たちは
星もない夜
ただ東を目指して行く
≪DAYBREAK FRONTLINE 歌詞より抜粋≫
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「東」とは日が昇る方向、夜が明けていく方向です。彼らが向かう「明日」というのは、この東をさしていたのでしょう。
そして「最前線」という歌詞は、楽曲タイトルの「FRONTLINE」の和訳にあたります。
夜明けは誰もがまだ寝ている頃。その中で東へ向かう彼らは、この世界で誰よりも早くに「明日」に近いところにいます。
「最前線」とは、そんな明日の近くにいる彼ら自身を表現しているのかもしれません。
それと同時に、これは彼らが「感傷」を吹っ切った瞬間だとも思われます。
Cメロで主人公達は「夜に腐っていたって」と歌っていました。
これはかつての「感傷」に浸ってばかりだった頃を指しているのでしょう。
時間は止まる事なく進んでいくもの。それ故に思考にふけるだけの日々でも勝手に過ぎていき、朝はやってきてしまうのです。
けれど彼らは自らの足で明日へ向かい出し、その最後にこう決意するのです。
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一生僕らは生きて征け
≪DAYBREAK FRONTLINE 歌詞より抜粋≫
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「征け」とは、「旅に出る・行く」と言った意味のほかに「不正を武力でただす」という意味を持つ言葉です。
ここから彼らは感傷を振り払い、自らの力で明日に向かっていく事を決めたことが想像できます。
しかし、そんな簡単に振り払えるものなら、今まで浸るだけの日々など過ごしていないはず。
きっとこれからも「感傷」が彼らを襲う日はくるのでしょう。それこそ夜が何度も訪れるように。
ですが夜が来るたびに夜明けは訪れ、「明日」は必ずやってきます。
それを「夜明けの最前線」を目指した彼らはもう知っています。だから「行け」ではなく「征け」と歌ったのでしょう。
そんな思いは日々の暮らしの中で、溜まる感傷に苦しむ人々の心に届き刺さったのかもしれません。
多くの人々が元気をもらえると言ったのは、彼らのこの思いに励まされたからなのでしょう。
TEXT 勝哉エイミカ