逃亡劇を通じて描く人生の大切なもの
ミュージカル映画『レ・ミゼラブル』は、1985年から世界43か国で上映された大ヒットミュージカルを2012年にイギリスで映画化したものです。
ミュージカルそのものが、日本でも大ヒットしていますよね。
1987年、帝国劇場での初演後、30年以上にわたって断続的に上演されています。
直近の2019年の上演でもチケットがなかなか取れないと話題になりました。
そんな大人気ミュージカルを、トム・フーパー監督、ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、アン・ハサウェイら豪華キャストで映画化した『レ・ミゼラブル』。
騙されて貧困にあえぐ若い母親ファンテーヌ役を演じたアン・ハサウェイの迫真の演技が忘れられないという人も多いでしょう。
彼女は、この役で第85回アカデミー賞助演女優賞を受賞しました。
この記事では、そんなミュージカル映画『レ・ミゼラブル』のあらすじや内容の見どころについて、ご紹介しましょう。
あらすじ
1815年、今からおよそ200年前のフランスを舞台に物語は始まります。
飢えた子どもの為にパンを一つ盗み、その後脱獄を試みたとして、19年にも渡って懲役を科せられたジャン・バルジャン。
ようやく仮出獄したものの世間を恨み、自宅に泊めてくれた司教の家から高価な銀食器を盗んでしまいます。
しかし警察に捕まり、司教の家に連れ戻されたジャン・バルジャン。
司教は「友よ」と語り掛け、彼をかばった上に銀の燭台まであげるのです。
ジャン・バルジャンは改心し「正しい人」として生きていこうとします。
そして名前を変えて市長になったジャン・バルジャン。
工場で働いていた若い女性ファンテーヌから、幼い娘コゼットを託されます。
無償の愛でコゼットを育て、危険を顧みずに、自らの安定した生活と引き換えにしてでも人助けをするジャン・バルジャン。
しかし仮出獄中に姿を消した逃亡者である彼を、警部ジャベールは執拗に追いつめます。
そして学生たちの革命の波が、登場人物の運命を大きく変えていきます。
愛とは何か?正義とは何か?
この映画はそんな誰の人生にとってもたいせつなものについて深く考えさせられる映画なのではないでしょうか。
次にこの映画の主な見どころについて、2つ挙げていきましょう。
両極端にある人間の姿から見える大切なもの
この映画の見どころの一つは、両極端にある2つの人間の姿を描くことによって、たくさんの「大切なもの」が胸に迫ってくるところにあるのではないでしょうか。
例えば、テナルディエ夫妻。
幼いコゼットを預かり、その母親ファンテーヌを騙して多くの「養育費」を送らせます。
それに対して、大切にしていた銀食器を盗まれても許し、更に銀の燭台をプレゼントして「正しい人になりなさい」と声をかける司教。
人を騙すことの醜さや、人を許し信念を持って生きることの尊さが真に迫ります。
また貧困の果てに、汚れた身体にボロをまとい絶望の淵に追いやられたファンテーヌ。
最後は、穏やかな光を瞳に浮かべて美しいドレス姿で登場します。
そのファンテーヌの本来の美しい姿を一目見た瞬間に、我が子を愛し守り抜いた姿を思い出し、その愛の深さに涙せずにはいられないでしょう。
このように、セリフで説明するのではなく、両極端にある二つの人間の姿を描くことによって誰の人生にとっても大切なものを際立たせているところが、この映画の見どころになっていると思います。
スリリング!ぶつかり合う二つの正義
この映画のもう一つの見どころは、最後まで「何が正しくて何が間違っているのか?」が明確に示されないところです。
映画を観ている人も「ジャン・バルジャンは善人なのか?悪人なのか?」と迷いつつも、逃亡劇を見守るところにあると思います。
ジャン・バルジャンは逃亡中に、自らを犠牲にしてまで「正しい人」であろうとします。
「正しい人」であることを司教を通じて得た神からの使命だと思っていたのではないでしょうか。
一方、ジャベール警部も法の番人として正義を果たすためにジャン・バルジャンを追っていきます。
誰よりも彼が「正しい人」であることを知りながら。
ジャベール警部も、逃亡者を捕まえることを神からの使命だと思っていたのでしょう。
ぶつかり合う二つの使命、二つの正義。スリリングな逃亡劇の面白さを充分に味わいつつも「正義とは何か?」について深く考えさせられます。
フランス国旗と「民衆の歌」が表す希望
『レ・ミゼラブル』は革命を志す学生たちと政府軍の市街戦を経て『民衆の歌』の大合唱で圧巻のフィナーレを迎えます。
映画の冒頭、懲役を科せられたジャン・バルジャンは、支柱が折れたフランス国旗を運びます。
丸太ほどの太さの支柱が折れ、泥水にまみれたフランス国旗。
これは市民が自由を手に入れるために、過去にフランス革命を起こしたものの、市民が理想とした社会にならなかったことを象徴しているのではないでしょうか。
フィナーレでは、学生たちがバリケードの上でたくさんのフランス国旗と赤い旗を振っています。
泥まみれだったフランス国旗が『希望の歌』に合わせて学生たちによって力強く振られるシーン。
市街戦の前はきれいだった赤い旗は、ボロボロになっていますが、それでも明日への希望を歌うフィナーレは感動的です。
今、山崎育三郎ら日本を代表するミュージカル俳優や歌手36名が、”閉塞感や不安を感じている方々に少しでも希望を抱いてもらおう”と、この『民衆の歌』の日本語版をリレー形式で歌っているYouTubeが公開されています。
より一層の注目を浴びている『レ・ミゼラブル』。
その深い世界観に浸ってみませんか。
TEXT 三田綾子