比べられる苦しさが共感を呼ぶ
2020年2月に発売された1stフルアルバム『やっぱり雨は降るんだね』が話題を呼んでいる新進気鋭のアーティスト、ツユ。透き通るようなボーカルと楽曲の世界観が人気のリード曲『くらべられっ子』。
歌詞には、アーティストとしてのツユの魅力がたくさん詰まっています。
----------------他人と比べられることで「あの子より劣ってる」ことを、否が応でも思い知らされている主人公の「私」。
あぁ
くらべられっ子 くらべられっ子
とっくに知ってるよ
あの子より劣ってるのは
言われなくても解ってるよ
だから比べないで いや比べんな
私をほっといて
≪くらべられっ子 歌詞より抜粋≫
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学校や社会など日常の様々な場面で、他人と比較される環境にさらされてしまうという悩みは、現代人であれば多くの人が持つ悩みの一つではないでしょうか。
そんな普遍的な悩みに「言われなくても解ってる」という言葉を添えることで、聴き手が思わず共感を覚えるような瞬間を楽曲に持たせています。
比べられることの強制に嫌気が差した「私」。
自分を痛めつける存在に向かって「比べんな」というセリフを突き出している姿が印象的ですね。
誰しもが持つ悩みに寄り添う声
----------------続く一節で描かれるのはこんな言葉。
左側が痛いから 困るのよ
なんとなく差を感じて
生きてたけど背伸びしていた
A B C D E F G
どの選択肢を選ぼうと
失敗の方が多くって
≪くらべられっ子 歌詞より抜粋≫
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隠喩的に使われている「左側」というキーワードは、おそらく心臓のことを差しているのでしょうか。
クレバーな言い換えで楽曲に奥深い味わいを持たせる作詞のテクニックが光っていますね。
胸が痛むほどに、苦しみながら生きてきた今までの人生を振り返りながら、選択肢を間違えてきたという虚しさが「私」を襲います。
選んできた分岐点をひとつずつ数えながら、自分の今の状況と照らし合わせている「私」。
過去の自分が自分の心を苦しめるような感覚は、きっと誰しもが持つものかもしれませんね。
そんな痛みに寄り添い味方になってくれる歌声に、励まされることは間違いなしですね。
優しく寄り添い勇気をくれる
----------------楽曲の最後を締めくくるのはこんな一節。
くらべられっ子 くらべられっ子
私に言ってるよ
周りが何も見えなくなって
勝手に決めつけてるよ
だから思い出して もう忘れんな
本当は大好きだって
息を止めていた君を 抱きしめて
二人は手を繋いで
≪くらべられっ子 歌詞より抜粋≫
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繰り返されてきた「くらべられっ子」というキーワードは、自分に向けたものであるということが改めて強調されます。
しかし続く歌詞では「勝手に決めつけてる」という展開を見せています。
ネガティブな思考を出発点に、思いを巡らせてきた「私」。
楽曲を通して訴えてきた比べられることの苦痛に対し、最後には「自分次第だ」という結論を投げつけています。
その過程を通して、自分自身を「本当は大好きだって」確認することができた「私」。
続いて登場する息を止めていた「君」というのは、おそらく客観的な視点から見た自分自身の姿でしょう。
その見てくれは、どんなに痛々しく、か弱く見えたことでしょうか。
しかしそんな「君=自分」のことも最終的には優しく抱きしめ、寄り添って歩く優しさを宿すことができました。
誰しもが抱える「比べられることへの不安」に対し、共感しつつも新たな視点を授ける歌詞。
そして最後には、傷ついた心をそっと抱きしめる優しさに溢れたメッセージ。
たくさんの言葉によって紡がれた想いが、きっと多くの人を勇気づけていることでしょう。
TEXT ヨギ イチロウ