新海誠監督の傑作アニメ「言の葉の庭」とは?
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2013年に劇場公開された、新海誠監督作品『言の葉の庭』。
雨の日の午前中、新宿御苑で会えるミステリアスな女性と、靴職人になる夢を抱く男子高校生の恋物語です。
『君の名は。』で一躍有名になった新海誠監督の作品で、小規模上映にも関わらず大ヒットし、2013年文化庁メディア芸術祭 審査委員会推薦作品にも選ばれました。
46分という短時間に、圧倒的な映像美とピアノによるやさしい音楽、綿密な心理描写が詰め込まれ、観たら感動で胸がいっぱいになれます。
そんな映画の美しさと感動に迫っていきましょう。
雨と和歌がつないだ二人のめぐりあい
主人公・秋月孝雄(タカオ)は、靴職人を目指す男子高校生。
雨が好きな彼は、雨の日は午前中の授業を休み、新宿御苑の東屋で靴のデザインを描くと心に決めていました。
ある雨の日の朝、タカオは東屋でスーツ姿の女性と出会います。
会社を休み、朝からビール、おつまみにチョコレートを口にする不思議な女性が気になるタカオ。
彼女は別れ際に「鳴る神の 少し響みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ」と和歌を残し、立ち去ったのでした。
それからというもの雨の日に東屋に行くと必ず彼女の姿がありました。
顔を合わせる度に少しずつ会話が増えていき、タカオは他の誰にも言えなかった自分の夢を彼女に打ち明けます。
雨の日に会える不思議な女性・ユキノに惹かれていくタカオと、雨の日が来るのを待ち望むユキノ。
これは、ふたりのロマンティックな雨宿りと、未来へ一歩踏み出すまでを綴った物語なのです。
雨と緑が織りなす二人だけの世界が美しい!
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映画『言の葉の庭』の一番の魅力は、雨の印象が180度変わる美しい情景とロマンティックな二人の関係です。
新宿御苑という都会から少し離れた静かな場所、誰もいないはずの雨の日に巡り会う二人。
木々が生い茂る中、東屋の周りをしとしと降る雨はまるで東屋を覆うカーテンのように見え、ふたりだけの特別な空間を演出しています。
物語を彩るピアノの音色と風情豊かな映像が相まって、ふたりの出会いと交流がロマンチックに感じられることでしょう。
雨の日にしか会えない年の離れた二人の関係性にも引き込まれます。
タカオの将来の夢を後押ししてくれたユキノと、ユキノの過去の苦しみを和らげてくれたタカオ。
毎朝起きる度に雨が降っていることを祈るふたりは、次第に相手が自分にとって必要な存在だと気づくのです。
幸せになってほしいと祈りたくなるほど、観ていて甘酸っぱい気持ちにさせてくれますよ。
映画を観たらきっと雨の日の景色が美しく見えてくるはずです。
情景描写も繊細で見入ってしまいます。
霧雨、土砂降り、天気雨など雨の降り方が、タカオとユキノ、それぞれの心が通じていく様子を巧妙に表しています。
特にクライマックスのタカオが彼女に本心をぶつけるシーンは土砂降り。
彼女がずっと自身のことを話さなかったことへの怒りと共に雨が吹き降り、ユキノが本心を泣きながら語るシーンに晴れ間が差し込み、感動的に演出しています。
天気を登場人物の心情とリンクさせた演出は一見の価値がありますよ。
作画と演出、ストーリーから新海誠監督の凄さが感じ取れる傑作映画です。
目を奪われる映像とキャストの繊細な演技に注目
『言の葉の庭』は、新海誠が、原作・脚本・監督を担当。
作画監督・キャラクターデザインを担当した土屋堅一は、新海誠監督が手がけた大成建設のアニメCMの作画監督を務めた実力派クリエーターです。
キャラクターの繊細でリアルな表情づけ、リアルな都会の日常を美しく彩る光と影、そして雨の景色。
どれをとっても美しい映像に見とれてしまいますね。
声優陣も豪華で、ナチュラルな演技に引き込まれます。
タカオを演じるのは、入野自由。
『千と千尋の神隠し』のハク役、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の宿海仁太役など、影のある演技が得意な実力派声優です。
「まるで世界の秘密そのものみたいに彼女は見える」などのタカオの気持ちが乗ったモノローグ、クライマックスの泣きながらユキノを突き放した時の張った声など、演技力の高さにぐっときますね。
ユキノ役の花澤香菜は当時23歳で、ユキノは彼女にとって初めての年上キャラクターです。
心に深い傷を負い職場に行けなくなったユキノの前に進めないもどかしさを、繊細に演じています。
特にクライマックスの泣きの演技は、もらい泣きしてしまうそうになるほど素晴らしいです。
声優陣の繊細な演技にも注目してご覧ください。
心地よい切なさが美しい!秦基博が歌う主題歌
映画の主題歌『Rain』は、秦基博によるカバー曲です。
元は、シンガーソングライターでジャズピアニストの大江千里が1988年に発表した楽曲。
新海誠監督が10代の頃から大江千里のファンであり、彼の強い希望からこの曲を主題歌に選んだそうです。
『Rain』は、雨の街角での男女の別れを歌い上げた切なく美しいラブソング。
前奏のピアノの音が一粒一粒落ちていく雨粒のように美しくて、ぐっと曲の世界観に引き込まれます。
メロディーもキャッチーで一度聴いたら頭から離れません。
秦基博の切なさと深みのある中低音ボイスが胸を打ち、サビの「行かないで 行かないで」の繰り返しが切なくて、胸の奥がぎゅっと締め付けられます。
流れるタイミング、映像とのマッチングもばっちり。
映画のクライマックスを一気に盛り上げて、感動に誘ってくれることでしょう。
自分がタカオに心ないことを言わせたこと、仕事や自分自身から逃げてきたことを悔やみ、号泣しながら内情をさらけ出すユキノ。
今まで表に出さなかった感情があふれるドラマティックな場面を、天気雨のような少し晴れ間を感じさせる音楽で彩っています。
ふたりが別々の未来に向かって歩もうとも、温かい音楽が包み込んでくれて心地よい感傷に浸れます。
雨の日でなくとも何度も聴きたくなる心地よくて感動的な主題歌です。
小説版はもっと奥深くて感動的!
『言の葉の庭』は、互いにそばにいてほしい二人の“孤悲”と繊細に描かれた情景描写、切なくも希望を残した結末がしみじみとした感動を与えてくれる作品です。
映画を観た後で新海誠監督による小説を読めば、より作品の魅力を感じ取れますよ。
文庫版では、映画に登場する脇役達にもスポットライトが当たり、彼らの心を繊細に描写。
彼らの目線で濃密に語られた裏話を織り交ぜた群像劇となっています。
映画の先の物語も描かれていて、映画とひと味違う感動を味わいながら、より深く作品を堪能できますよ。
また、ユキノは映画『君の名は。』で古文教師として立ち直った姿を見ることができます。
物語のキーワードを教える隠れた名脇役として再登場するので、探してみてくださいね。
一度観たらきっと梅雨の時季にまた観たくなる『言の葉の庭』。
あなたもその美しい世界をじっくり堪能してみてください。
TEXT Asakura Mika