主役は色香漂う女子学生
大人気ボカロP「みきとP」のミリオン達成3曲目となるボカロ曲「バレリーコ」。
ニコニコ動画に加え、YouTubeでも再生回数は400万回をこえる大人気楽曲となっています。
そんな楽曲に多く寄せられているのが「エロい」という感想。
人々の心を掴んだ、この楽曲の魅力という事でしょう。
しかし「品のあるエロさ」という矛盾した感想も多く寄せられています。
なぜこのような感想が寄せられる事となったのでしょうか。
理由を探る為、この楽曲の歌詞の意味を考察してみましょう。
----------------
純情少女と勘違いされて 全校男子に狙われた
あぁ初体験 世にも恐ろし大出血乗り越え 恥ずべきものはなし
≪バレリーコ 歌詞より抜粋≫
----------------
主人公は「純情少女」と勘違いされる容姿の少女のようです。
全校男子に狙われる程ですから、とても美人な子だと思われます。
続く歌詞でも、このように歌われています。
----------------
朱いりぼんヒラヒラさせて バイバイ プリマの放課後だ
あぁ青春さん 汗と涙でベタベタになってなんか大変そうですね
≪バレリーコ 歌詞より抜粋≫
----------------
女性バレエダンサーの最高位を示す単語「プリマ」は、主人公の事でしょう。
「青春さん」という歌詞では「青春」をくだらなく思っているような口ぶり。
始まりの歌詞でも、主人公は「世にも恐ろし」出来事を乗り越えた為、もう「恥ずべきものはなし」と歌っています。
つまり純情少女のような初心さは、持ち合わせていないのだと言いたいのでしょう。
さらに、このような歌詞も続きます。
----------------
ゆらり揺れるジャンパースカート ひっそり覗くスラックス
目と目を合わせて戸惑うフリした 校内男女の関係
≪バレリーコ 歌詞より抜粋≫
----------------
主人公は、付き合っている相手がいるようです。
歌詞から、純粋な行動で心を射止めたわけではない事がわかります。
純情少女の皮を被り、妖しい色香をまとった主人公。
これが、この曲にエロさを感じる理由なのでしょう。
主人公の特別な存在「先輩」
----------------
先輩どうしてあの子がいんの 私の方がよい子でしょ
あぁ 奇々怪々 邪魔する猫はしっしっしっ 今すぐ踵を返しなさい
≪バレリーコ 歌詞より抜粋≫
----------------
他の女子生徒の傍にいる「先輩」に嫉妬しているような歌詞と、女子生徒を追い払うような描写。
「先輩」は主人公にとって特別な相手と推測できます。
続く歌詞では、その「先輩」と主人公の関係について歌われています。
----------------
ふわり香るリップクリーム じっとり濡れたセミロング
教師の言葉もひぐらしの声も聞こえない 男女の関係
≪バレリーコ 歌詞より抜粋≫
----------------
どうやらこの「先輩」が、付き合っている相手のようです。
授業をサボり、逢引をしているようですね。やはり色香の漂う歌詞からは、2人の関係が清らかなものだけではない事がわかります。
しかし、そこに不穏な気配が漂い始めます。
----------------
「…もう限界だ」
もう限界だ
ねぇ 先輩どうして泣いてるの? 一緒にアン・ドゥ・トロワして
マスカーレイド? どちらにするの? オデット? オディール?
≪バレリーコ 歌詞より抜粋≫
----------------
「もう限界だ」と泣く先輩。身体の関係ばかりを求める主人公に嫌気が差したのでしょう。
他の子の傍にいたのも、それが理由だったのかもしれません。
しかし主人公には、先輩が泣く理由がわかりません。
不思議そうに行為に誘いこもうとする姿は、まるで何も知らない「純情少女」のように感じられます。
しかし実は、主人公は胸の内にある思いを隠していたのです。
歪な擬音が表す、主人公の本音
----------------
ねぇ 後悔はどこにあるの 九回転のピルエット
トゥシューズぬいだ素足の 歪な叫び
≪バレリーコ 歌詞より抜粋≫
----------------
バレエ用の靴「トゥシューズ」は特殊な形状の為、足を傷付けやすい靴となっています。
「ぬいだ素足の 歪な叫び」というのは、そのような傷だらけの状態を指しているのでしょう。
そして、その傷に関係していると思われるのが「後悔」という歌詞です。
どうやら主人公は胸の内に「後悔」を抱えていたようです。
思えば先刻の「もう限界だ」という台詞の後に、もう一度同じ歌詞が歌われていますが、主人公の心情を歌っているのではないでしょう。
つまり主人公も、限界が来ている事がわかっていたのです。
「後悔」とは、今の現状を悔やんでいる様子なのでしょう。
しかし限界が来た理由は、わからないまま。
だから「先輩」の涙の理由にも、気づけなかったのでしょう。
そんな彼女の歪さは、サビでも表現されています。
----------------
ねぇ ディン・ディン・ダン♪ さあ踊りましょう
じょうずに飛び跳ねて エッサホイサ
劣等感 ほら恥ずかしい それも人生だ
≪バレリーコ 歌詞より抜粋≫
----------------
2番大サビで、バレエを踊る主人公が歌われていますが、その擬音はバレエの静けさとはかけ離れた歪なもの。
「純情少女」のような容姿でありながらも、正反対の本性である主人公自身を表現しているのでしょうか。
主人公が本当は、自分自身に「劣等感」や「恥ずかしさ」を感じている事がわかります。
しかしやり直す事はできません。主人公は「先輩」と別れる事を選びます。
----------------
ねぇ グッバイ最後に踊りましょう
もっともっと激しく エッサホイサ
絶頂感 今この瞬間 すべて完璧だ
うわばきでシャル・ウィ・ダンス
≪バレリーコ 歌詞より抜粋≫
----------------
最後にもう一度踊る=恋人としての営みをしたのは、本当は「先輩」と別れがたいといった心境があったのかもしれません。
ですが、今更純情ぶるにはあまりにも遅かった為、いつも通りの自分を装ったのでしょう。
同時に「先輩」が自分の事を後腐れなく捨てれるようにと、敢えていつも通りを演じたのかもしれません。
穢れた少女が唯一見せた純粋な恋心だったのだとすると、これがこの楽曲を「品のあるエロい曲」に見せているのかもしれませんね。
そしてバレエを題材にした映画「ブラック・スワン」から引用したという「今 この瞬間 すべて完璧だ」という歌詞から、彼女が完璧に自分を演じきった事がわかります。
再び誰かをダンスに誘う様子から、主人公はこれからも「先輩」と同じような関係を誰かと築き続けていくのでしょう。
「純情少女」であった頃には、もう二度と戻れないとわかっているから。
TEXT 勝哉エイミカ