DECO*27珠玉のGUMI曲が初音ミク曲としてリメイク
ボカロ全盛期の2010年、ボーカロイドといえば初音ミクが主流だった中でGUMIの人気に火をつけたボカロ曲が『モザイクロール』です。
作詞作曲を手がけたのは、今なお最前線で活躍するボカロPのDECO*27。
キャッチーでかっこいいバンドテイストの音楽とDECO*27らしい歌詞が注目を集め、GUMIオリジナル曲として初の1000万回再生を記録したボカロファンにはおなじみの神曲です。
オリジナルPVも当時定番だった一枚絵の画像を用いる手法ではなく、akkaとmirto制作のアニメーション動画が用いられていることも高い評価を受け、その後この楽曲をモチーフとした小説や漫画も登場しました。
そんなファンの心を掴んで離さない原曲のリリースから11年が経った2021年10月8日、リバイバル版『モザイクロール(Reloaded)』として初音ミク歌唱バージョンを公開。
MVには今やDECO*27の楽曲には欠かせない八三のイラストが使用されています。
すでにGUMI曲と初音ミク曲を聴き比べしたファンも多いのではないでしょうか。
歌唱するボーカロイドが違うと楽曲のイメージも変わりますが、このリバイバル版では一部歌詞も変更されていて、より違いを感じられるでしょう。
変更点にも注目しながら、歌詞の意味を考察していきます。
「きみ」と「あたし」を巡る解釈とは
----------------
とある言葉がきみに突き刺さり
傷口から漏れ出す液を“愛”と形容してみた
思いやりの欠如と形だけの交尾は
腐れ縁のきみとあたしによく似ている
それでも「好き」とか
≪モザイクロール (Reloaded) 歌詞より抜粋≫
----------------
冒頭の歌詞から楽曲の切ないイメージを伝える歌詞となっています。
原曲では登場人物の表現に「君」「キミ」「アタシ」という表記が使われていましたが、今回はすべてひらがな表記に統一されていますよね。
表記が違うことで、原曲は「君」と呼ばれる男性、そして主人公の女性「アタシ」と彼女の中にいる「キミ」という存在が関わっていると考察できました。
しかし、この楽曲ではひらがな表記しか出てこないので、原曲と同じ観点で考えると全体を通して「きみ」と「あたし」は同一人物と解釈できそうです。
恋愛が絡む曲ではなく冒頭から自分自身と向き合う曲と考えると、一層雰囲気が違って聴こえますね。
他人からかけられた、もしくは「あたし」が放った「とある言葉」に傷つく「きみ」。
言葉が刺さるのは心なのでやはり「きみ」は「あたし」の中の相反する人格を表していて、「傷口から漏れ出す液」は涙のことを指していると思われます。
傷ついて流す涙を「愛」と表現するのは、それだけ主人公が誰かを愛したい、誰かに愛されたいと願っているからなのかもしれません。
続く「思いやりの欠如と形だけの交尾」というフレーズは、男女の冷めた関係性を物語っています。
恋人という関係にはあるものの、自身の快感のみを追う情事は愛が伴わず相手への思いやりもありません。
一方「腐れ縁のきみとあたし」は両方とも自分でありながら、心の中で二つの思いがせめぎ合って対立しています。
とはいえ、どちらもそんな思いの通わない相手を前にしながらも、恋人や腐れ縁という関係から愛情を捨てることができないでいます。
原曲にあった「(笑)」の文字がなくなっていることからも、より切実な気持ちが伝わってきますね。
変更歌詞は過去曲のオマージュ?
----------------
終わる頃にはきみに飽いてるよ
愛か欲か分からず放つことは何としようか
≪モザイクロール (Reloaded) 歌詞より抜粋≫
----------------
2番の「終わる頃にはきみに飽いてるよ」というフレーズは、次の「愛か欲か分からず放つ」の歌詞と合わせて考えると、おそらく1番の「交尾」に掛けた歌詞。
その行為に愛がないと知りつつ少しの望みをかけて応じてしまう女性も、終わってしまえばやはり愛なんてなかったのだと現実を突きつけられて飽き飽きしてしまいます。
そんな様子は「あたし」と「きみ」の関係と重なるでしょう。
思いをぶつけ合うのが相手への愛ゆえなのか自分の考えを押し通したいという欲からなのか分からないまま、結局分かり合うことはできないのだと感じてがっかりしていると言えます。
----------------
きみがくれた涙はあたしが飲み干すから
「弱虫でもいい」と甘い嘘をくれたら 逃げ出せたのかな
≪モザイクロール (Reloaded) 歌詞より抜粋≫
----------------
この部分が完全オリジナルの歌詞ですが、DECO*27自身の過去曲の歌詞をオマージュしているようです。
前半の歌詞は『愛迷エレジー』の「溢れるなら零れるなら このアタシがその涙を飲み干そうか」のフレーズを連想させます。
また、後半の「弱虫でもいい」と「甘い」という言葉は『弱虫モンブラン』の歌詞になぞらえたものでしょう。
冒頭で「きみ」が流してくれた涙を、主人公は自分が受け止めたいと思っています。
だから「きみ」には嘘でいいから「弱虫でもいい」と自身を受け止めてほしいと願っています。
現実が生きにくいのは、自分の中に矛盾した気持ちがあるから。
もしその気持ちが尊重し合えたなら、こんな現実から逃げ出すことができたのではないかと考えているようです。
----------------
「愛した」って言うのですか? しがみついて藻掻くことを
殺したっていいじゃないか きみが嫌うあたしなんて
「愛した」って言うのですか? しがみついて藻掻くことを
殺したっていいじゃないか きみが嫌うあたしなんて
愛したっていいじゃないか 縛り 誰も触れないよう
これも運命じゃないか 消える消える とある愛世
≪モザイクロール (Reloaded) 歌詞より抜粋≫
----------------
ここでは「しがみついて藻掻くこと」、つまりただ執着することが愛と言えるのかと問いかけています。
そして「きみ」に対して、嫌っているならいっそ「殺したっていいじゃないか」と投げやりな態度で接していることが窺えますね。
最後のサビはその「あたし」への返答と考えられます。
自身の自由で生死を決めることができるのなら「愛したっていいじゃないか」。
MVで描かれているイラストも、ハサミを持った初音ミクが自分を傷つけようとするのを止める手が「きみ」だと解釈できます。
「きみ」は考えが違っても「あたし」の存在を肯定したいと思っているのでしょう。
たとえ縛りつけることになるとしても二人でひとつでいることが運命だから、どちらも消えることは考えられないのです。
最後の「愛世」という言葉はDECO*27による造語です。
愛のある世と捉えることもできますが、耳で聞くと命令形で「愛せ」と告げているようにも聞こえます。
弱い部分も矛盾した気持ちもひっくるめて、自分自身を愛してあげようというメッセージが感じられますね。
二曲の「モザイクロール」はどちらも神曲!
DECO*27の『モザイクロール(Reloaded)』は原曲の魅力をそのままに、ニュアンスの違う新しい楽曲として生まれ変わっています。変更歌詞に過去曲が用いられているのも、11年の活動があったからこそ生まれたアイディアです。
ぜひリバイバル版も繰り返し聴いて、原曲との違いを楽しんでくださいね。