心がざわつく!復讐を決意した女教師による命の授業
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映画『告白』は、2010年に公開されたミステリー・サスペンス作品です。
原作は、人気作家・湊かなえのデビュー作にしてベストセラー小説の『告白』。
発売された2008年には小説推理新人賞、翌年には本屋大賞など、名だたる賞を受賞し話題となりました。
そんな「イヤミスの女王」と呼ばれる湊かなえを代表する1作を、独特な世界観を見せつける中島哲也による監督・脚本で、新たなエンターテインメントに仕上げています。
深刻なストーリーと過激な描写で、R15+の年齢制限が設けられている『告白』。
あまりに恐ろしい内容なのに不思議と魅了される理由を、あらすじや見どころから紹介します。
静かなホームルームから始まる教師の復讐
とある中学校で、年度末の終業式が行われた3月25日。
1年B組の37人の生徒にとっても、いつもと変わらない1日になるはずでした。担任の森口悠子が話し始めるまでは。
彼女は、3月いっぱいで教師を辞めることを生徒たちに告げます。
いつも無表情で淡々と仕事をこなす彼女を好意的に見ていない生徒からは、喜びの声が挙がりました。
生徒のそんな反応にも、顔色ひとつ変えず、最後のホームルームを使って「命の授業」を始めるのでした。
授業の中で、自身がシングルマザーであることと、そうなった経緯について語り出します。
そして自身の娘、愛美が学校のプールで遺体となって見つかった出来事について触れます。
その出来事は事故として処理されたものの、彼女は確信していました。
娘はこのクラスの生徒によって殺されたのだと。
彼女は、当時13歳の少女が家族を青酸カリで殺害した通称「ルナシー事件」を引き合いに出します。
その犯人同様に目の前の生徒たちが「14歳未満の者は処罰の対象にならない」という少年法に守られている事実を告げました。
娘を殺した2人の犯人を、彼女はあえて名前を伏せてA、Bと呼びます。
しかし、生徒たちがその2人を特定するのに時間はかかりませんでした。
そこから、彼女の復讐の幕が開きます。犯人にはじわじわと、しかし着実な恐怖と疑念の日々が待ち受けているのです。
映画の恐ろしさを引き出す俳優陣に注目
本作はデリケートで扱いにくい問題取り上げています。
そのため、ストーリーの空気感を一層高めるキャスト陣の演技に注目が集まりました。
主人公の森口悠子役を演じたのは、女優や歌手として世界的に評価されている松たか子。
常に冷静で、表情を変えることなく淡々と語るという難しい役どころを見事にこなし、復讐者としての冷徹さと決意の堅さを演じきりました。
殺害される彼女の娘である愛美役を演じたのは、当時5歳の天才子役・芦田愛菜。
出演シーン自体は少ないですが、小さな表情1つからも演技力の高さが窺えます。
そして、ストーリーの中心となる1年B組の生徒役には、橋本愛、のん、三吉彩花、西井幸人、藤原薫、井之脇海などが共演しました。
現在、映画やドラマでお馴染みのキャストたちですね。
人の心理面が丁寧に描かれている作品なので、1人1人の演技に注目すると内容をより深く掘り下げることができるでしょう。
入り混じる狂気に震える!
本作の主人公は教師であると同時に、愛する子供を失った1人の母親です。
一般的なミステリー作品とは異なり、映画冒頭で犯人は明らかになります。
そして主人公が学校を去った後の、犯人を含めた生徒たちの後日談が語られる形式でストーリーが進みます。
つまり、主人公は早々に教師というしがらみから抜け出て、憎しみを抱く母親として行動を起こしているということです。
生徒たちの日常が進む中でふと登場する主人公は、教師の時と変わらず何があっても冷静に見えます。
しかし、人間的な部分を見せるシーンもあり、いつもは本来の悲しみや怒りを押し殺していたことに気付かされます。
子供を愛する母親として、罪の重さを知らしめるために犯人を心理的に追い詰めていく様子は、観る人に身近さと現実感を与えるでしょう。
舞台が中学校の1クラスであることも、ストーリーの肝と言えるでしょう。
学校という閉鎖的な空間で、生徒たちは思春期特有の純粋が故の残酷さを抱え、思いのままに行動を起こしてしまいます。
それは大人たちがかつて通ってきた道であり、今の子供たちが見ている景色です。
そのため、嫌悪するような出来事が次々と起こりますが、遠い出来事のようには感じられません。
自分がその場にいたらどうだろうかという視点で、ストーリーにのめり込んでいくでしょう。
また映像は終始、青みがかった暗い色彩をしています。
その風景が映画の不穏な雰囲気をさらに引き出しています。
同時にどこか美しく幻想的な印象さえ与えているところも、本作の特徴です。
だからこそ、重たく過激なシーンが多いのにもかかわらず、気持ち悪さや苦手意識を感じることなくストーリーに集中できます。
登場人物たちの背景や心情が明らかになっていく中で、一体誰が悪なのかを考えさせられます。
主人公の最後の一言を聞く時、何が真実かを改めて考えることになるでしょう。
主題歌「Last Flowers」はRadioheadファン歓喜の1曲
映画主題歌は、Radioheadが歌う『Last Flowers』です。
Radioheadとはイギリスが誇る5人組のカリスマ的ロックバンド。
実験的な音楽で業界に大きな影響を与えたグループです。
主題歌に決まった『Last Flowers』は、2007年に発売されたアルバム「IN RAINBOWS」の、オフィシャルサイト限定ボックスのみに収録されていた幻の楽曲です。
曲を聴いた中島哲也監督が気に入り、熱烈なオファーによって主題歌に起用されました。Radioheadにとっては、日本映画に楽曲提供するのはこれが初めてです。
暗く重々しいピアノの音色が曲をリードし、静かに溶け込むようにギターの音が重なります。
歌詞は孤児院をイメージして書かれたそうで、そこにひとりぼっちでいる子供の恐怖感や不安感が描かれています。
そんな頼りない心情を、ボーカルのトム・ヨークの切なく祈るような歌声が代弁。
寂しげなのに不思議な温かみがあり、歌詞の先に希望を感じられるでしょう。
メロディ自体はごくシンプルにすることで、歌声が鮮明に心に残る楽曲となってぃす。
映画の中に漂う、逃れられない現実と罪への無力さ。そこから抜け出したい気持ちとマッチして、世界観を引き立てます。
Radioheadファンのみならず、映画を観る人すべてを引き込む美しい主題歌です。
映画「告白」で犯罪が生む痛みに触れよう
映画『告白』は、衝撃のストーリー展開と巧みな演技で見せる人の狂気に引き込まれる作品です。
近年、いじめや少年犯罪、学級崩壊など、学生たちの間では目を覆いたくなるような事件が頻発しています。
子供たちは傷付けられた時の痛みを知らずに育ち、無邪気な残酷さで容易に人を傷付けてしまうのです。
しかしそれは、現代の子供たちを育て見守る親世代の大人たちも、忘れてはならない点です。
犯罪によって刻まれる痛みや1つしかない命の重さを、決して軽く見てはいけません。
強いメッセージ性で衝撃を残す映画『告白』の罪が生む、悲しい連鎖の結末を見届けてください。
TEXT MarSali