「その気」があるのは自分だけ?
「君」とやたら目が合ったり、自然と身体が触れ合ったり。些細な仕草に魅入られて「もしかして、あの人は自分に気があるんじゃないか」と思った経験はありませんか。
そうなってしまうと「君」の仕草や行動すべてが、全て自分に向けられたモノとしか思えなくて、頭から離れなくなってしまいます。
でも「君」は、そんなつもりは全くなくて。
求めているのは自分の方なのに「本気じゃないならやめてくれよ」なんて「君」の素っ気ない態度にズレたことを言ってしまう自分に情けなくなる。
そんなやるせない恋愛の温度感を、痛くなるくらい鮮やかに描写したのが、RADWIMPSの『そっけない』です。
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届きそうで 届かなそうな
ありえそうで ありえなそうな
君の仕草の一部始終 脳で解析フルスピードで
試されてたりするのかな それなら臨むとこだけど
≪そっけない 歌詞より抜粋≫
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「君」の仕草が何を意味しているのか。
遊びなのか本気なのか。
その思いを知る為に、一瞬で頭をフル回転させる。
自分からは決して切り出さないけれど「君がその気なら、俺もそのつもりになるよ」なんて脳内で情けないポジティブ思考をしてしまう男の女々しさをよく表しています。
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遊ぶだけの 相手ほしさならば どうぞ他をあたってよ
君の分厚い恋の履歴に残ることに
興味なんかないよ 君のたった一人に なる以外には
≪そっけない 歌詞より抜粋≫
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意気地が無いくせに遊びには興味がなくて、「君」の正式な恋人になることを願っている純情感にとてもリアリティを感じます。
ちょっとダサくて情けないけど、芯には真っ直ぐな思いを秘めている主人公を描いているからこそ、『そっけない』は多くの方に支持されているのでしょう。
口をついて出る未練の言葉
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なんでそんなに
素っ気ないのさ そっぽ向いてさ 君の方から誘ったくせに
俺じゃないなら早く言ってよ そんなに暇じゃないんだ
ちょっとひどいんじゃない あんまりじゃない
≪そっけない 歌詞より抜粋≫
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二人の間に何があったのかはわかりません。
しかし「俺」が本気で愛した途端に「君」の態度が「そっけない」ものになった、ということはわかります。
頭では自分が勝手に恋をしただけだと理解しつつも「俺じゃないなら早く言ってよ」と「君」の冷たい態度に悪態をついてしまう。
失恋を受け入れられず「ちょっとひどいんじゃない。あんまりじゃない」と「君」を責めてしまう言葉は、多くの人に刺さるはず。
「そんなに暇じゃないんだ」と強がった皮肉も、切なさを一層引き立てます。
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恋がなんだかもうわからないんだ
君が教科書になってくれるかい
「いいよ」って 君が言うなら 暇はいくらでもあるから
≪そっけない 歌詞より抜粋≫
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「君」の仕草から何一つ気持ちを読み取れなかった自分の能力のなさに気付いてしまったら「恋がなんだかもうわからないんだ」と考えてしまっても仕方ありません。
「君」の為なら何だって出来る覚悟があることを「暇はいくらでもあるから」とは遠回しにしか伝えられない弱さが、「君」が「そっけない」原因かもしれませんね。
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難しく絡み合う世界で 胸を張って言えること
絡まったままのこのイヤホン 一瞬でほどくような魔法
それが君だとか言ったなら 鼻でまた笑われてしまうかな
≪そっけない 歌詞より抜粋≫
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この「イヤホンの絡みを一瞬で解くような魔法」のたとえはどうにもダサく思えます。
意図的にダサい表現にすることで、主人公のかっこよさを排除し、平凡で冴えない男を演出しているのでしょう。
「俺」と「僕」の境界線
この楽曲の歌詞は、主人公の目線で、語るように話し言葉で書かれていますが、途中で一人称が変化しています。「俺」から「僕」へ、その意味は?
もちろん、主人公が交代したり、別の人物が登場したわけではありません。
主人公の心情が変化し、それが一人称に表れているのです。
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酔ってなら伝えれるかな やっぱりそれじゃダメなのかな
振りしぼるだけの勇気が 僕にはまだあったかな
≪そっけない 歌詞より抜粋≫
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このフレーズ以降、一人称は「僕」に変わります。
「酔ってなら伝えられるかな」と思うも、それでは意味がないことを理解している「僕」は勇気を振り絞る決断をします。
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だから今すぐ
こっち向いてよ こっちおいでよ
いい加減もう諦めなよ 一秒も無駄にはできない
You know our time is running out baby
もっと近くで もっと側で
この視界からはみ出るくらいに
君だけで僕を満たしたいの
「いいよ」って 君が言うまで
君と今日は キスをするまで
ここから動かないから
≪そっけない 歌詞より抜粋≫
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これまで「なんでそんなにそっけないのさ」と駄々をこねるような事しか言えなかった「俺」が、素直に「君」を想う気持ちを伝える時、一人称は「僕」に変わりました。
傷つくことを恐れていた臆病な自分が、痛みを受け入れる覚悟をして、真っ直ぐな想いを伝えられるようになった。
弱気な主人公に感情移入させ共感を得るだけでなく、主人公の成長と愛に対する情熱を限りなくリアルに描き出していることが『そっけない』の魅力と言えるでしょう。
「君と今日はキスをするまでここから動かないから」という言葉で歌詞が終わるなんて、冒頭からは想像出来ませんよね。
TEXT 富本A吉