主人公は足りない何かを探すバックパッカー
大人気アーティスト「Eve」の新作MVが、2020年5月22日に公開されました。公開された楽曲『いのちの食べ方』は、同年2月にリリースしたばかりのアルバム『Smile』に収録された楽曲です。
人気アニメーション作家「まりやす」とタッグを組んで制作されたMVは、不可思議な生き物たちが存在する世界を舞台とした物語。
このコラムでは「時間の使い方はいのちの食べ方に等しい」と述べたEve自身の楽曲へのコメントも踏まえた上で『いのちの食べ方』の歌詞の意味を考察していきます。
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足りないもの探して バックパッカー
かっとなっては やっちまった
≪いのちの食べ方 歌詞より抜粋≫
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歌の主人公は何か「足りないもの」を探しているようです。
続く「バックパッカー」も低予算で国外を旅行する人を指す用語であり、ここから彼が「足りないもの」を見つける為に旅をしている事が想像できます。
しかし、それがなかなか見つからない事も、同じく1番で歌われています。
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その感動はまた走り去った
これじゃないと あれじゃないと 焦りだけが募るようだ
隣に握りしめる手が欲しかった
温もりを知らぬまま
≪いのちの食べ方 歌詞より抜粋≫
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見つからないまま、焦りだけが募る主人公。
どうやら主人公は「温もり」を知らない孤独な人間なのでしょう。
その孤独は2番でも歌われています。
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その滑稽さだけが残った
お気に入りの カトラリーは 至福だけを運ぶようだ
テーブルをみんなで囲みたかったんだ
ナイフを突き立てては
≪いのちの食べ方 歌詞より抜粋≫
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主人公は誰かと一緒に食事を取る事もできなかったようです。
その孤独を辛く思っていた事もその口調から察する事ができますね。
なぜ主人公は独りぼっちになってしまったのでしょうか。
主人公が孤独な理由
それを解くヒントと思われる歌詞が出だしにありました。----------------
かっとなっては やっちまった
≪いのちの食べ方 歌詞より抜粋≫
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どうやら主人公は短気なようです。
「やっちまった」という歌詞からは主人公が感情的に動く自分をコントロールできていない様が推測できます。
さらには2番にこのような歌詞があります。
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現実との狭間で泣いて
腹を裂かれるこの思いで
飲み干した言葉の棘が刺さる
≪いのちの食べ方 歌詞より抜粋≫
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主人公には何か「飲み干した言葉」があるようです。
もしかしたらそれは「感情を上手くコントロールできない為、気持ちを言葉に直すのが苦手」といった意味を表しているのかもしれません。
それを証明するかのように続く歌詞でもこう歌われています。
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君の喉仏を裂いて
指先を湿らせたんだ
フォークの使い方なんて
誰にも教わらなかった
≪いのちの食べ方 歌詞より抜粋≫
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彼が裂いた「喉仏」は、声帯に関わってくる体の一部です。
声帯からは「言葉」という単語を連想する事もでき、これがさきほどの「飲み干した言葉」という歌詞になんらかの関わりがあるように感じますね。
誰かと食事をするという事は会話をする必要が出てきます。つまり「言葉」が必須となるのです。
主人公は自分の感情を言葉で上手く伝えられないが故に、他の人達と食事をする事ができなかったのではないでしょうか。
とすると、この食卓の風景は、そんな主人公の他者とのコミュニケーションの光景を比喩したものと捉える事ができます。
つまり、主人公が孤独であるのは、自身の性格故のようです。
主人公が探している「足りないもの」は、そんな自身の欠点を補う為の手段の事を指しているのかもしれません。
しかし主人公がそんな主人公が切り裂いた喉仏は自分のものではなく、なぜか「君」のものでした。
はたしてこの「君」とは何者なのでしょうか。
「君」の正体と歌詞に秘められたSOS
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夜が明ける前に酔いを醒まして
時間がないんだ君には
盲目でいたいの 退屈な今日を
超えていきたいんだきっと
≪いのちの食べ方 歌詞より抜粋≫
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サビの歌詞によると、どうやら「君」には「時間がない」ようです。
この「時間」の意味を考えてみると、Eveが語っていた「時間の使い方」という言葉が思い浮かびます。
「時間の使い方はいのちの食べ方に等しい」この「食べ方」という事は「命」を食べる=「命」を消化する、という風に捉える事が出来ます。
すると「時間がない」という歌詞は「”君”の命の終わりが近い」といった意味がある可能性が見えてくるのです。
それでも「退屈な今日」を超える為に何かに盲目でいたいと「君」は思っている事も、主人公目線で歌われています。
なぜ主人公は「君」の想いを知っているのでしょうか。
ヒントは同じくサビの歌詞にありました。
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声が届くまで想いをぶつけて
ふらふらになってしまうまで
僕らにそれを忘れることを許さないから
考えることすらやめてしまいな
≪いのちの食べ方 歌詞より抜粋≫
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注目の歌詞は「僕ら」。
主人公と「君」が一緒に扱われています。
同じ括りという事は、もしかしたら「君」も主人公と同じような境遇の人物である可能性が考察できます。
だから「君」の気持ちが主人公にはわかったのかもしれません。
そしてそんな「君」の正体に纏わると思われる最大のヒントが、楽曲の最後に歌われています。
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僕が食べる前に僕を見つけて
≪いのちの食べ方 歌詞より抜粋≫
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なんと主人公が自分で自分を食べてしまっています。
どういうことなのでしょう。
ここで思い出すのがさきほどの「君」の喉仏を裂いた主人公です。
もし食卓の歌詞が主人公のコミュニケーション能力の現れだというのなら、この描写は「飲み干した言葉」を見つける為に喉仏を裂いた、と解釈する事はできないでしょうか。
するとここから「君」の正体が「飲み干した言葉」、他人に言葉で伝えられなかった「僕自身の感情」である可能性が見えてきます。
つまり「君」と「僕」は同一人物だったのです。
この最後の歌詞は、主人公が己の感情をまた飲み干してしまう前に誰かに本当の自分を見つけてしいという、主人公なりのSOSの歌詞だったのかもしれませんね。
TEXT 勝哉エイミカ