デビュー20周年を迎えても失わない「少年らしさ」
ポルノグラフィティは、1999年9月8日に『アポロ』でデビューを果たし、2019年に20周年を迎えました。
2004年にメンバーのTamaの脱退はあったものの、その後は岡野昭仁・新藤晴一の2人で安定的に活動を続け、キャリアはベテランの域に達しています。
人気も知名度も高く、ファンもたくさんいる中でポルノグラフィティが瑞々しさを失わないのは、彼らの持つ少年性でしょう。
いくつになっても、少年のような無邪気さがあり、それが歌詞やMC、インタビューなどの言葉の端々に現れています。
キャリアはベテランなのに、どこか親しみやすさを感じられる秘密は、彼らの飾らない性格と少年らしさにあるのでしょう。
ポルノグラフィティが魅せる「大人の恋愛」
年を重ねても変わらない少年ぽさが魅力のポルノグラフィティといえば、『アゲハ蝶』や『サウダージ』『メリッサ』のように、アップテンポでノリのいい曲、というイメージが強いかもしれません。しかし、ポルノグラフィティの楽曲には、大人の恋を歌ったじっくりと耳を傾けたくなる楽曲も数多く存在します。
そこで今回は、報われない愛を歌った楽曲から、表現者としてのポルノグラフィティの魅力に迫っていきます。
「瞳の奥をのぞかせて」
『瞳の奥をのぞかせて』は、2010年2月10日にリリースされ、大人の恋を描いたドラマ『宿命 1969−2010〜ワンス・アポン・ア・タイム・イン・東京〜』の主題歌になった楽曲です。ただ美しいだけではなく、時に恐ろしい愛の姿を切り取ったドラマの主題歌にふさわしい、大人の恋愛を描いた『瞳の奥をのぞかせて』。
楽曲では、2人だけの愛の世界が歌われながらも、それが平穏な愛ではなく、いつ壊れてもおかしくない、もろくてアンバランスな愛であることが表現されています。
朝、たった1人でベッドの上で目覚める女。
ワイングラスや置き手紙など、愛する人の形跡は残っているものの、姿はどこにもありません。
夜は2人の愛を深める時間。しかし、どれほど愛を語り合っても、目が覚めれば1人残されるのです。
どれほど愛されようと、どれほど愛そうと、2人の愛は通い合うことはないのでしょう。
情熱的な愛を交わした後に残る白々しい朝。自分以外の人の元へ帰って行く恋人。
虚しさを抱えながらも、壊れるその瞬間まで精一杯愛そうとするけなげさ。
ドラマでは、出世欲のために捨てられた女の復讐劇が描かれていますが、愛とは決して美しいばかりのものではありません。
愛を独り占めできないと分かった時、愛が他の女に向いていると知った時、醜い嫉妬の炎に包まれるのでしょう。
『瞳の奥をのぞかせて』では、決して本心を見せない男に心底惚れてしまった女性の悲しさ、それでも愛し続けてしまう痛さを見事に歌い上げているのです。
そんな悲恋を歌った楽曲ですが、MVでは恋愛要素は描かれていません。
岡野昭仁と新藤晴一がテーブルの前に座り食事をするシーンと、スタンドマイクを使った歌唱シーン。
どちらも非常にシンプルで、どこか芸術作品を感じさせるような洗練された印象です。
バイオリンの音色が美しくももの悲しい、『瞳の奥をのぞかせて』という楽曲の世界観と、見事にマッチ。
歌詞の世界観とは異なる、独特の世界観をぜひ堪能してみてください。
「ジョバイロ」
『ジョバイロ』は、2005年11月16日リリースの楽曲です。
秋という季節感にぴったりの、届かない恋を歌い上げたこの曲は、ドラマ『今夜ひとりのベッドで』の主題歌になりました。
『瞳の奥をのぞかせて』同様、報われない恋を歌った楽曲ですが、『瞳の奥をのぞかせて』のどこか許されざる関係を連想させるのに対し、『ジョバイロ』は純粋な片思いを描いた、切なさの際立つ楽曲になっている点が特徴です。
『ジョバイロ』では、ある女性を愛してしまった男性の、決して届かない恋に苦しむ姿が歌われています。
自分がその女性に抱く想いが恋であると気づいた瞬間は、きっと幸せに包まれたことでしょう。
しかし、その思いが決して相手に届くことはない、報われない愛だと分かった瞬間、世界は様相を変えます。
距離感も、会話も、ふとした仕草も、手に届かないものならば、ただ苦しいだけなのでしょう。
この楽曲は、好きな人に「好き」という気持ちを伝えたいと願いながら、それが独りよがりの恋であることを自覚してしまう男性の、救いようのない切ない想いが歌われています。
「私は踊る」という意味のある『ジョバイロ』。それはピエロのように滑稽な姿なのでしょう。
叶わぬ恋を前に、滑稽に踊り続ける男を、優しく照らし出す月。
『ジョバイロ』における月は、太陽のように明るくないものの、確かな光で足下を照らしてくれる、癒やしの存在です。
戯曲のような世界観を「月」というモチーフを使って美しく、幻想的に描き出す新藤晴一の作詞センスはさすがです。
PVは女性目線で描かれ、ヒロインの座を巡る攻防や好きな人との距離、相手役をライバルに奪われる悔しさなどの女性ならではの感情が、演劇の世界に合わせているのが見事ですね。
ポルノグラフィティが得意とするラテン調で、悲しくもついつい耳を傾けたくなる楽曲。ぜひ、PVと合わせてチェックしてみてください。
「Part time love affair」
『Part time love affair』は、2016年11月9日リリースのシングル『LiAR/真っ白な灰になるまで、燃やし尽くせ』に収録されている楽曲です。
この楽曲も『瞳の奥をのぞかせて』同様、許されざる恋を連想させます。
2人の愛を育んでいると思いきや、1人の女性に2人の男性という、なんとも複雑な関係性。
愛しい人と会える時間に幸福感を頂きながらも、幸福の影には常に違う男の影。
なんとも不安定で報われない恋をしているのです。
他の男の影がない女性と健全な愛を育めばいいのに、それができないもどかしさ。
人を好きになることの難しさと、逃れられない切なさ。
そしてひとときの忘れがたい幸福という、アンバランスで歪な愛を見事に歌の世界で表現しています。
一途に王子を愛して、最後は泡となって消えた人魚姫の物語を彷彿させる歌詞もあり、そのせいか報われない恋なのにどこか美しさを感じさせる点も秀逸です。
出口のない、愛の呪縛の中でもがく男の悲恋。
新藤晴一が紡ぐ言葉の世界を堪能できる、珠玉の1曲といえるでしょう。
表現者・新藤晴一の魅力
さて、ここまで紹介した3曲はすべて、ギターの新藤晴一が作詞を担当しています。
デビュー当時からポルノグラフィティの楽曲の大半を作詞してきた新藤晴一。
彼の文章には独特の空気感があり、他のどのバンドにも似ていない表現方法を持っています。
だから初めて歌詞を耳にした時、聴く人の心に引っかかるのでしょう。
3曲とも報われない愛を描いていますが『瞳の奥をのぞかせて』では、本心を魅せない人を愛してしまった苦悩や孤独、抑えきれない激情を女性目線で。
『ジョバイロ』では、好きな人に「好き」という気持ちを伝えられないまま愛がどんどん育ってしまう、奥手な男性の悲しみを。
そして『Part time love affair』では、二股をかけられていることを知りながら、恋心を捨てられない男の虚しさと切なさを。
戯曲のような世界観で美しく彩ったり、人魚姫の物語を彷彿させる世界観であったり、新藤晴一の紡ぎ出す歌の世界には、唯一無二の存在感があります。
聴いた人の心に心地よく刺さり、そして抜けない。
それこそがポルノグラフィティの、そして新藤晴一の楽曲の魅力といえるのではないでしょうか。
TEXT 岡野ケイ