ワードセンス抜群の歌い出し
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君の着信に 開く封筒は
踊り叱る 赤い絵文字が
あの日隠し事 したのばれたから
謝り方 考えなきゃな
≪折り合い 歌詞より抜粋≫
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こんな一節で始まる『折り合い』。
2020年6月に突然発表され、話題を呼んだ星野源の新曲です。
幕開けを飾る「君の着信」というキーワード。
おそらく歌詞の主人公には親しい間柄の友人、あるいは恋人がいるのでしょう。
日常的に電話をし合うような仲の良さであることも匂わせる表現となっています。
そして続く「開く封筒」という表現。
物理的な封筒である可能性もゼロではありませんが、ここではその後に続く「絵文字」という言葉からおそらくメッセージアプリのことを指しているのでしょう。
アナログな表現で独自のスローな雰囲気とオシャレ感を醸し出す作詞術が光っていますね。
どうやら「隠し事」がばれてしまったことで相手を怒らせてしまった主人公。
些細な日常の喧嘩の様子が聴き手の脳裏に浮かびますね。
さらにリアルさを増す描写力
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いつもの 僕らを
見ればまあまあ 平和なんだろう
可愛げのある危機と
そうじゃない方 胸に抱いて
≪折り合い 歌詞より抜粋≫
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続く一節で描かれるのは楽曲全体のテーマにもなっている「日常」についての歌詞。
「いつもの僕ら」が「まあまあ平和」という表現には、思わずはっとさせられますね。
時には喧嘩や言い合いもあるけれど、小さな幸せが積み重なっている日常の素晴らしさ。
そんな誰しもに当てはまるような普遍的な感情をぎゅっと詰め込んだ表現になっています。
しかし一方で、どうしても真剣に向き合わざるを得ない問題も浮かび上がってくるのが人生というもの。
笑い話にでもなるような「可愛げのある危機」だけでなく、深刻な壁に直面してしまうのではないかという不安もあるでしょう。
そんな人生の厳しさも「そうじゃない方胸に抱いて」という言葉に凝縮して描いている歌詞の現実感ある鋭さが、多くの人の心をつかんで離しません。
幸せだけではなく、時には苦労や困難も経験することが「人生」であり「日常」なのだと歌っているような思考がとてもリアルですね。
タイトル「折り合い」の意味とは?
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愛してるよ君を
探してるよいつも
他人のようで違う
2人の折り合いを
愛してるよ君を
探してるよいつも
家族のように映る
2人の折り合いを
≪折り合い 歌詞より抜粋≫
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この一節で初めて登場する「折り合い」という言葉。
関係性や着地点といったような意味を持つそうで、楽曲全体のテーマを見事に表現したキーワードとなっています。
「愛してる」とストレートな言葉を放ち、「2人の折り合い」を探していると述べる「僕」。
血はつながっていないかもしれないけれど、ただの他人ではないような関係性にある2人。
共に人生を歩むことは、共に紡ぐ人生という物語の着地点を探す行為でもあります。
そして、まさにその人生こそが、前段で語ってきた「ありふれた日常」の毎日。
独自の情景描写で深めた聴き手のイメージを、楽曲全体のメッセージへとつないでいく。
その流れは非常にスムーズで、見事に楽曲の完成度を高めています。
続く「家族のように映る2人の折り合い」という表現。
そこにあるのは、誰よりも信頼し合い、寄り添い合う2人の姿。
それは2つの人生の姿、と言い換えてもいいかもしれません。
そんな星野源の『折り合い』は、今日も多くの人々の日常をそっと彩っています。
TEXT ヨギ イチロウ