どの歌にも「最後的には前を向いて欲しい」願いを込めています。
──まずは、アルバム『Rose Quartz』を作るにあたっての想いから聞かせてください。
CHIHIRO:わたしの場合、最初にアルバムのタイトルを決め、そこから制作に向かう形を取ることが多いんですね。今回も、「もうおしまい」と「My Life」の2曲が先に生まれた時点で、『Rose Quartz』というタイトルにしようと決めていました。
──『Rose Quartz』とは、「恋愛成就の意味を持つパワーストーン」の名前。その言葉を選んだ理由も気になります。
CHIHIRO:「恋が上手くいきますように」という願いは、わたしがいろんな恋愛曲を書いてく中でつねにメッセージとして含んでいること。その想いに『Rose Quartz』の意味が重なったことから、この言葉をタイトルにしようと決めました。
──アルバム『Rose Quartz』に収録した10曲には、10人の恋する女性のいろんな恋愛物語が、まるで短編映画のように描き出されています。どの女性も最終的には幸せをつかもうとしていくのですが、そこへ至るまでの過程に描き出したのは、とても悲しい恋の経験が多いですよね。
CHIHIRO:わたしがデビュー以来多く発表し続けてきたのが、失恋や叶わない恋など、いわゆる「泣き歌」と呼ばれる切ない曲たち。わたしの場合は「悲しいなぁ」「失恋してしまいました」ではなく、「そこからどうやったら前を向いていけるのか」という想いを大事にしながらいつも歌詞を書いています。
わたしはどんなに悲しい歌だろうと光が差すように書けば、どの歌にも「最後的には前を向いて欲しい」願いを込めています。
相手に気を使いすぎて「別れたいけど」言えない関係が何年も続いてしまう人生って、わたしはもったいないと思います。
──CHIHIROさんの書く歌に登場する女性たち、男性に都合良く振り回されてしまう傾向も強くないですか?。あえてきつい言葉で言うなら、女性に対して「ひどい男たち」ばかりというか…。CHIHIRO:多いです(笑)。失恋の歌の場合、そういうことをぼやかして表現する内容が全体的に多いですけど。わたしはそこじゃなく、本当に心の痛い部分やつらい想い、都合よくされて悩んでいることなど、人に相談したくても言えない本心をリアルに書くことを大事にしています。
──男性側って恋愛に対してどこか優柔不断というか、真剣に向きあわず、恋愛してゆくことで満たされてしまう場合も多いです。だけど女性の場合、何時だってゴールを見据え、真剣に恋へ向きあいますよね。そこの意識差によって、男性に振り回されてしまうことも出てくるんでしょうね。
CHIHIRO:女の子にとっては結婚は一つのゴールだし、向けて好きな人を探せば、真剣にそこへ向きあいますよね。だけど男性の恋愛の場合、そこまで真剣に向きあってない場合もあるように、結果的に女性が「都合のいい子」状態になってしまうんです。
つまり、最初から恋愛に対して温度差が出てしまって、どう頑張っても叶わない恋になってしまうんですよね。
そういう恋愛を長く続けるのって、女性にとっては大切な人生の時間だから、「叶わない恋にすがり続けるのではなく、目覚めさせ、次の恋に進んで欲しい」とわたしは思ってしまいます。だから、「もうおしまい」や「冷たくしないでよ」のような歌を書いてしまうんだと思います。
──「もうおしまい」では、その感情をとてもリアルな表現を用いて歌っていますよね。
CHIHIRO:「この恋こそ運命だ」と思い、ずっと今の恋が成就することを願いながら付き合ってきたけど。その想いは違ってた。でも、なかなかその関係を終わらせる勇気が出ない…。だからこそわたしは、女性の自立してゆく意識をもっと押してあげたいんです。
わたしのもとには、ファンの方々から「7年間片思いをしています」「6年間都合の良い関係を続けながら、今も抜けだせません」など、いろんな相談ごとが届きます。
女の人の人生って、男性以上に期限があると思うからこそ、無駄になる恋愛は長く続けて欲しくないなとわたしは思ってしまいます。世の中的にも、一歩引いてる女性のほうが可愛く見えるのかも知れないですけど。
わたしは「自分の人生は自分が主人公」であって欲しいと思っています。でないと、本当の幸せってつかめないような気がするんです。それこそ、相手に気を使いすぎて「別れたいけど」言えないとか、そういう関係が何年も続いてしまう人生って、わたしはもったいないと思います。
──たとえ、お互い好きな感情があっても、結婚などのゴールが見えないのであれば踏ん切りをつけたほうが良いのはわかります。
CHIHIRO:その答えがわかっていながらも、そこに触れてしまうのが怖くて言えない女の子は、実際に多いと思います。
──CHIHIROさんも、そこは一緒の気持ち?
CHIHIRO:わたし、そういうことを考えてしまう時間が無駄と思うし、相手に振り回され続けてしまうのは嫌な性格だから、思ったことはすぐに言いますね。
──女性の場合、好きになったら男性の色に自分を染めてしまう人も多くないですか?
CHIHIRO:わたし、アメリカに4年間住んでいた経験があります。アメリカの女の人たちって、男性に対しておどおどしないというか、何事もはっきり口に出して言うんですね。みんな、自分の人生観や価値観を持っている。
だからこそ、相手に何を言われようが、自分が信じていることであれば、その意志を変えることはない。それで喧嘩になろうと、それでも自分の意志を押し通すのが向こうの女性たちなんですね。わたしは、その生き方に影響を受けました。
自分を一歩引いて男性に合わせる生き方も、日本の女性の良い面だというのはわたしも理解しています。でも、それによって曖昧な恋愛に陥ってしまうのは、とてももったいないと思います。
そういう気持ちもあって、わたしはアメリカの女性たちのような、自分の意志を曲げない生き方を選んでいるんだと思います。
恋愛に悩んでいる人たちに聞いてもらい、何かしら心の指針になれたらなと思います。
──アルバムには切ない歌が多いですが、中には「Chu」のような幸せ満載な歌も収録。この歌に記した、「こんな歌が懐かしくなる日が来ても」の一節が好きなんです。
CHIHIRO:互いに、おじいちゃんおばあちゃんになっても「Chu」に描いたような関係のまま仲良く過ごせていたら…。それが、本当の理想の恋だとわたしは思っています。
──「Chu」には、KISSを交わす音も収録しています。その音、かなり濃密じゃないですか?
CHIHIRO:楽曲を作る中、KISSの音も入れようと思い、いろんな音素材を集めた中からわたしが選んだのが海外の方の濃厚なKISSの音。そのほうが印象深く響くだろうと思って選びました(笑)。
──CHIHIROさんの書く恋愛の歌には、いろんなシチュエーションが描き出されています。もちろん、CHIHIROさんというフィルターを通して書いているように、どの歌にもCHIHIROさん自身の想いを投影していると思います。そのすべてがCHIHIROさん自身の体験談なのでしょうか?それとも、先にも言ってたように、いろんな恋愛の相談事も参考にしているのでしょうか?
CHIHIRO:わたし自身もいろんな恋愛を経験してきたように、みずからの体験を元に書いていますけど。同時に、みんなが悩み考えている恋愛意識も、そこへ重ね合わせて書くこともしています。
ただし、わたし自身がどんな悲しい恋の結末だったとしても前を向きたい性格だし、そこを大事に書きたいので、かならず歌の最後には希望を込めています。
もちろん、人によっては悲しいままの気持ちに浸りたい方もいると思います。ただ、わたしに関しては、最終的には前へ進める歌にしたいなと何時も思っています。
──「My Life」にも、楽しいだけじゃない毎日を送りながらも、希望を見出そうと前向く姿を映し出していますもんね。
CHIHIRO:人生って、楽しいだけじゃなくて、つらいこともいっぱいあるじゃないですか。そのつらいこともしっかり書かないと、それは嘘っぽい歌になってしまいます。だからこそ「My Life」もそうだし、わたしの歌にはつらい感情や苦労してゆく姿なども描き出していくわけなんですよね。
──それこそが、リアルですからね。
CHIHIRO:そう思います。女の子って、結婚を求めて恋愛をする子もいれば、まわりが結婚してゆくからわたしもしなきゃいけないと思ってしまうとか、世の中の価値観に合わせなきゃいけないなど、いろんな考え方の人たちがいます。
でも、誰だって人生の主人公は自分だからこそ、やりたいことは自分で決めるべきだし、自分の進みたい道へ進むべきなんです。恋愛も人生も、主人公は自分。
だからこそ、自分の気持ちにぶれないで生きて欲しい。そういうときは、このアルバムをいろんな恋愛に悩んでいる人たちに聞いてもらって、恋のお守りのような存在になれたらなと思います。
──アルバムの最後に、心友(歌詞の表記)に送ったウェディンイグソングの「幸せになってね」を収録。最後に、しっかり幸せでアルバムを終えるところも良いですね。
CHIHIRO:「幸せになってね」はウェディングソングという形を取っていますけど、すべての女性に伝えたい前向きな想いでもあったことから、やはり最後はこの歌にしました。
このアルバムが、恋したときのお守りになれたら。
──アルバムへ収録した中から、この歌詞を聞いて欲しいというのがあれば、ぜひお願いします。
CHIHIRO:「もうおしまい」に書いた「必死に握った細い細い糸は 赤い色じゃなかった」のところです。「この恋こそ運命だと思って一生懸命に赤い糸を握っていたけど、やっぱり違ってました」「この歌を聞いて、すごくハッとさせられました」など、この歌の、その部分に「わかります」と共感してくれる女性ファンの方がとても多いんです。
わたし自身も、その言葉はとても嬉しかったです。誰もがそうだと思いますけど、自分がその恋の当事者だと、なかなか客観的に現状を分析するって難しいんですよね。そういうときに、この歌を通して自分を客観視するなど、今の恋について気づくことが生まれたならわたしは嬉しく思います。
もう1曲あげるなら、「君はOUT」に書いた歌詞。ここには、浮気やウソを繰り返すダメ男に注意して欲しいどころか、ダメ男に騙されないで!と、気持ちを一切隠すことなく書きました。
直接相手に言えないときは、この歌を相手に聴かせてあげてください!!
──完成したアルバム『Rose Quartz』、今のCHIHIROさんにとってどんな作品に仕上がりました?
CHIHIRO:『Rose Quartz』には「恋が成就する」だけではなく、「自分を肯定してあげる」や「自分を愛してあげる」「ネガティブな感情を取り払う」という意味もあります。
わたしは、「誰かのことを好きになる前に、まずは自分を愛してあげて」「ネガティブに自分を評価せずに、もっと自分を認めて。そうすることでポジティブに生きられるから」と捉え、それらを10曲のラブソングたちに詰め込みました。それをしっかり表現できたアルバムになったと思います。
今は、SNSなどを通して他の人の考え方がいろいろ見えやすい時代。だからこそ、どうしてもそこと比べ「わたしなんか」と思ってしまう人たちも多いです。
でも、自分を肯定してあげるのはすごく大事なこと。誰かに好きになってもらいたいのなら、まずは自分が自分のことを好きでなきゃ本当に魅力的な人にはなれないと思います。
『Rose Quartz』はパワーストーンのようにお守りとして使われているもの。このアルバムも、恋したときのお守りになれたら嬉しいです。
TEXT 長澤智典