海にも雪が降るって知ってる?
「空から降ってきた雪が海の中でも見える」わけじゃない。海の中がプランクトンの死骸などで作られた雪のように白い粒でいっぱいになるのだ。
マリンスノー。
それは海だけでしか見ることのできない幻想的な光景。スキマスイッチ10枚目のシングル『マリンスノウ』は、そんな海に降る雪を歌った楽曲である。
恋愛の楽曲をいくつか発表している彼らだが、この楽曲は初めてと言っても良いくらい主人公に最後まで光が当たらない楽曲である。言ってしまえば、大失恋。その経験から心のベクトルが前へ向くのではなく、後ろへ後ろへ下がっていく内容だ。救いがないわけだが、マリンスノーに重ねた描写を考えると「光を排除したからこそ見ることができた深海の美しい世界」が内包されている。
つまり、気分転換をしたい人にはオススメできないが、落ち込んでいる時に聴けばとても共感できる楽曲なのだ。
スキマスイッチ「マリンスノウ」
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僕は孤独の海 放りだされて もうさ 溺れてしまうのかなぁ
とはいえ這い上がれない どうせ堕ちるなら朽ちて 深海魚のエサになれ
君のこと 空気みたいだと思っていた 失くしたら息苦しくて
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マリンスノーはただ漂っているようにみえて徐々に沈んでいっており、やがて深海まで堕ちていくという。そうしたら、もう2度と上がってくることはない。この楽曲の主人公である“僕”は、歌詞を見るからにマリンスノーのような存在である。今まで隣にいてくれた彼女が、いなくなってしまったからだ。
“体がただ沈んでゆく 遠ざかっていく空 群青に埋まっていく”
“僕らもっと色濃くまざりあえていたなら…”
“君のいない海を逃れようとしたけど 想い出の重さで泳げない”
空が現実だとするのなら、海は“僕”と彼女だけの世界。空気のような彼女は彼にとって傍にいることが当たり前で、大切な人だった。そんな相手がいなくなって、平気でいられる人はいない。彼女と過ごした海で生きていくのは、苦しいだけでなく幸せだった頃のことばかり思い出して辛いものだ。
しかし、彼は海から逃げることはできないまま沈んでいくことになる。彼女との想い出は“僕”を悲しくさせるだけだが、ここにいればずっと想い出に浸っていられるからだ。現実へ向かっていけば、彼女のいない未来を生きていかなければいけない。だからこそ彼は現実を生きるでもなく、海を泳ぐことでもなく沈むことを選ぶのだ。
聴けば聴くほど気持ちが暗くなっていきそうだが、この楽曲にも優しさはある。沈んでいく“僕”は最後、マリンスノーのように深海の底に辿り着くことだろう。それはまるで、海が彼を受け入れてくれたようではないか。
彼女と一緒にいることはもうできないけれど。
彼は、孤独から救われたのだ。
TEXT:空屋まひろ