外出自粛期間に制作された『されどBGM』
中毒性の高いキャッチーなフレーズを持つ楽曲を数多く生み出してきた4人組バンド・フレデリック。今作『されどBGM』は、6月にVo&Gt.三原健司がTwitterに1コーラスだけ投稿した楽曲が、急遽配信リリースされたものです。
新型コロナウイルスの渦中、外出自粛期間中に制作された今作に込められたメッセージを、歌詞に焦点を当てて考察していきます。
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もうすぐで もうすぐそこで 光は変わる
だからもう少し もうあと少し こっちにおいでよ
もうすぐで もうすぐそこで 痛みは消える
だからもう少し もうあと少し 手を伸ばしてみてくれないか
≪されどBGM 歌詞より抜粋≫
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『されどBGM』は、変化を促すかのような投げかけの歌詞から始まります。
「光は変わる」「こっちにおいでよ」には、このままでは危うい状況に陥ってしまう人物を救うために手が差し伸べられているようにも感じます。
「痛みは消える」からは、過酷な状況下から救い出すための声援と捉えられます。
どちらも対象に変化を意識させ、より良い状況に向かわせるための言葉だと言えます。
この楽曲がコロナ渦中で生み出されたことを鑑みると、外出自粛などによるストレスを抱え、我慢をしている人々に向けた励ましの言葉ではないでしょうか。
それを彼らなりに、出来るだけ多くの人々に届くように描いたのがこのフレーズだということです。
繰り返される「されどBGM」に込められた意味とは
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身を任せて ただビートに乗って
身を任せて 今を揺らせ
たかがBGM されどBGM
たかがBGM されどBGM
≪されどBGM 歌詞より抜粋≫
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サビで繰り返される「たかがBGM されどBGM」というフレーズ。
タイトルにもなっているこの言葉には、一体どんな意味が込められているのでしょうか。
そもそも、この「たかが」「されど」は含みを残した言い回しに聞こえますね。
この言い回しに近いものに「1円を笑うものは1円に泣く」があります。
これはわずかな金銭も軽んじてはいけないという戒めを持つことわざです。
つまり、1円はとても重要であると言っているのです。
このことからこのフレーズではBGM、そして人生が重要だと言っているのでしょうか。
人生が重要で大切なのはわかりますが、BGMが重要と言われてもいまいちピンと来ませんよね。
これはおそらく”BGMと人生”が重要だという意味ではなく”BGMから人生まで”という意味。
普段は注目されないBGMのような事柄から自分の人生まで、そこに重要度の序列はなく全てが大切なんだという意味を持っているのではないでしょうか。
そう考えると、この歌詞に込められた本当の意味も自然と見えてくるようになります。
フレデリックからのメッセージ
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たかが人生で されど人生です
揺らして揺らして
≪されどBGM 歌詞より抜粋≫
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レイテンシーとは、データ転送を要求してから実際にデータが送られてくるまでの待ち時間を指すコンピュータ用語です。
このことから1行目の歌詞は、距離が遠ければ遠いほど待ち時間やズレが生じてしまうということを意味しています。
前述した”BGMから人生まで”がこの楽曲のテーマだとすると、このフレーズの意味もわかりやすいのではないでしょうか?
ニュースで流れる遠い国で起こった戦争や災害、悲しい出来事のほとんどを私たちの人生とは無関係に思えてしまうものです。
知らない人間の死には涙がでないように、自分との距離が離れているほど、リアリティは薄れていきます。
大流行した新型コロナウイルスについても、はじめのうちは自分とは無関係だと捉えていた人が大多数でしょう。
しかし、その脅威が猛威を奮い感染者数が増加し、緊急事態宣言や外出自粛など自分の生活に関わるようになって、その恐ろしさに気付くのです。
自分の人生に関わってきて、やっと人はその出来事が現実であると自覚することが出来ます。
これは仕方のないことで、自覚出来ないことは悪だということは決してありません。
ですが、今回の新型コロナウイルスの場合のように、その脅威にいち早く気付けた方が良い場合もあります。
この一件で自覚することが出来たのなら「絶やさぬように 耳を澄ましてみてくれないか」と彼らは言っているのではないでしょうか?
”BGM”のような気付きにくい存在にも、自分の”人生”と同じくらい目を向けて欲しい。
これが『されどBGM』に込められたフレデリックからのメッセージでしょう。
TEXT 富本A吉