鋭い歌声から放たれる歌詞の内容は?
空白ごっこは、インターネットシーンで活躍するメンバーから生まれた音楽ユニット。
作曲をkoyoriと針原翼(はりーP)の2名が務め、ボーカルのセツコが作詞を担当しています。
彼らが2020年の3月末に発表した『雨』は、激しいロックなバンドサウンドを基盤に、美しいピアノの旋律と言葉にならない心情を吐き出すような歌詞が特徴の楽曲となっています。
この記事では、ガラスの破片のように聴く者の胸に突き刺さる歌詞の内容を考察していきます。
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6月 雨降り 包み込んだ体温に目をつむる
ああ 見失っていた 遠ざかっていた 今日もまた
わたしが壊したものたちを 数え終える日は来ないでしょう
食べ残した罰が転結あたりで殴った 殴った
死んだ魚の目のフリは いかにも得意なんです
なんて ひどいね ごめんね
≪雨 歌詞より抜粋≫
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結論を先に書くと、この歌詞は殻にこもって素直になれない自分がその殻を破るまでを描いた物語でしょう。
このフレーズからは自分に対する卑下や忌避感のようなものを感じます。
「目をつむる」は見ないフリをしたということでしょう。
誰かが抱きしめてくれたり、気にかけてくれたにも関わらず、その温情を無視してしまった。
その行為を「見失ってしまった」「遠ざかっていた」と間違った選択だったと過ちを認めています。
「私が壊したものたち」は、このような自らの過ちを指しているのでしょう。
そして「数え終わる日が来ない」ということは、自らの過ちは数えきれないほどにあると言っているのです。
「食べ残した罰」も同様に私が犯した誤ちの一つとみていいでしょう。
「転結あたりで殴った」というわかりにくい表現がありますが、この「転結」とは起承転結の転結を指し、物語の後半部分という意味でしょう。
つまり、犯した過ちが後になって罰として自分に返ってきたということです。
最後の2行も意味が捉えづらいですが、これも自分の悪い部分のうちの一つでしょう。
「死んだ魚の目」はぼんやりと覇気がなく、うつろな目をする人のことをいいます。
このフリが得意ということは、本来は違うのに意図的にそういう人間を演じてきたということではないでしょうか。
つまり、ここまでのフレーズに描かれていた過ちは、それが悪い行為だと自覚しつつも行ってきたと白状しているように思えます。
そんな自分を「ひどいね」「ごめんね」と言った後には次の歌詞が続きます。
重要人物?あなたとは
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声が 声が 堰を切ってわたしを鮮明に
色付けんだ 曝け出したって そこにあなたがいるか保証ない
ねえ怖いな 怖いな 引き止めていたはずの感情
止まらなくなったならば もう バイバイです
≪雨 歌詞より抜粋≫
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自らの殻を破り、これまで隠していた感情や言葉を吐き出す場面です。
「私を鮮明に」とあるように、一度吐き出した感情は私がどんな人間であるかがはっきりわかるほど、とめどなく溢れ出して止まらなかったということでしょう。
同時に自分を全て曝け出すことに恐怖も感じています。
この恐怖は一体何に対する怖れなのか。
それを読み解くポイントは「あなた」にありそうです。
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霞んでいっちゃうあなたに やさしくありたいだけなの
薄めてしまったおもいに やさしくなりたいだけなの
≪雨 歌詞より抜粋≫
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続く歌詞では再び「あなた」が登場します。
ここで「あなた」が霞んでいく存在、つまり別れゆく人なのだということがわかりますね。
恋人との別れか、友人や大切な人との死別か。
現時点ではそれはわかりません。
ですが「あなた」に対して「やさしくありたい」という言葉と先程の歌詞から、そう思ってはいるものの、全てを曝け出すことを怖れてしまっているということがわかります。
様々な過ちを繰り返してきた自分が「あなた」のためにその過ちを認め変わろうとしているのです。
「あなた」についての歌詞を追いましょう。
過去の自分と決別し、変化を求める
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声が 声が 苦し紛れ心に気づいて 行かないでよ
となりにいてよって 口に出すにはもう遅かった
ねえ怖いな 怖いな むき出していたはずの反抗
できなくなったなら わたし もう
≪雨 歌詞より抜粋≫
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「行かないでよ」「隣にいてよ」は「あなた」に対する言葉でしょう。
しかし「口に出すのはもう遅かった」と「あなた」との別れは既に訪れていました。
「むき出していた反抗」とは、先に述べた誤った行為を指しているようです。
反抗という言葉が使われていることからも、意図的に良くない人間を演じていたということがわかります。
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雨粒 弾いた音に 影まで重ねて消したい
だめだと わかっていても やわらかい顔をしていたい
あなたが気づかなくても わたしがわたしになれなくても
何でもない
≪雨 歌詞より抜粋≫
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歌詞の最後には、願いや覚悟ともとれる歌詞が綴られています。
「だめだとわかっていても」は、あなたに伝わらないことを意味しているのでしょう。
「あなたが気づかなくてもわたしがわたしになれなくても、やわらかい顔をしていたい」ということです。
この歌詞では「わたし」の様々な行動や感情が描写されてきましたが、最後の願いは「やわらかい顔をしていたい」。
つまり、前半で述べたような「死んだ魚の目」をして生きるのではなく、優しく良い人間でいたいということでしょう。
これまでの考察をまとめると「あなた」と一緒にいた期間には「わたし」は素直になれず、冒頭で説明したような行動をしていたようです。
そして「あなた」との別れの後、かつての行動が間違っていたと気付き、自分に素直になろうとする。
これがこの物語の大筋でしょう。
先に書いたようにこの歌詞中の言葉は捉えどころが難しいものが多く、敢えて曖昧な部分を残して聴く者にその意味を委ねているように思えます。
「あなた」との関係性もハッキリしません。
「あなた」がかつての恋人だと捉えると、当時の自分の恋愛に対する姿勢を悔やみ、もっと素敵な自分になろうとしているようにも見えます。
「あなた」は人ではなく、自分の人生に影響を与えた出来事と捉えることもできるでしょう。
「なりたい」などの言葉が多く含まれることから、自分自身のアイデンティティについて問いかける内容にも思えます。
ですが、この楽曲が前に進もうとする姿を描いているのは間違いありません。
この記事を参考に、ぜひ自分なりの解釈をして空白ごっこの世界観を楽しんでみてください。
TEXT 富本A吉