極寒を生き抜いたタロとジロ!苦難と奇跡の歴史から学ぶ
1983年公開の映画『南極物語』は、1950年代に実際に起きた南極観測隊と樺太犬の奇跡の実話に基づく作品です。
『キタキツネ物語』で知られる蔵原惟繕が監督を務め、史実な創作を織り交ぜてドキュメンタリー風に仕上げました。
その感動的なドラマは多くの人から注目され、当時の日本映画歴代興行収入で1位を記録。
その後、日本のテレビドラマや海外の映画でリメイクされるなど、世界的に高く評価される1作となりました。
ただ、本作の奇跡のような出来事の裏に、人々の苦難やタロとジロの想いなど、数々のドラマが隠されていたのです。
日本人ならぜひ観ておくべき、日本の名作である本作のあらすじや見どころを紹介していきましょう。
南極に取り残された樺太犬たちの壮絶な1年
昭和32年、海上保安庁の観測船「宗谷」は、11人の第1次南極観測隊員と19頭の樺太犬を乗せ、南極のオングル島に設置された昭和基地へ向かいました。
翌年に行われる本観測のため、彼らはここで越冬生活を送るのです。
隊員の潮田暁と越智建二郎の仕事は犬係で、犬ぞりとして仕事を共にする樺太犬たちが南極の過酷な環境の中でも生き抜けるよう、愛を持って厳しく躾けていました。
そのおかげで、昭和基地で生まれ育ったタロとジロの2頭は隊員を危険な状況から救い、隊員と樺太犬の間には良い関係が生まれていました。
その年の暮れ、第1次越冬隊が次の隊との交代の準備を始めていた頃。
空輸用の小型飛行船が基地に到着し、天候悪化のために今日中に第1次越冬隊の引き揚げ作業を完了するようにとの命令が伝えられました。
突然のことに戸惑いながらも、すぐに第2次越冬隊が到着する予定だったため、樺太犬たちを首輪と鎖で繋いだまま、餌だけ与えて隊は引き揚げました。
第2次越冬隊の準備は万端だったものの、いつになっても天候が回復せず、ついには越冬をあきらめることに。
潮田と越智は基地に残してきた樺太犬を助けたいと願うものの、続く悪天候と燃料不足のためにかないません。
その頃、基地で隊員たちの帰りを待つ樺太犬たちは、空腹と寒さに耐え切れず、少しずつ数が減っていってしまいます。
取り残されてから1年後、第3次越冬隊として昭和基地を訪れた潮田と越智が見た奇跡を見届けてください。
昭和の名優たちの熱のこもった演技は必見!
昭和を代表する映画と言える本作では、日本の名優たちの演技に魅了されます。
主役の潮田役に高倉健、彼の理解者である越智役に渡瀬恒彦と、実力派俳優がメインキャストを演じています。
2人は実際に犬ぞりの技術訓練を受けたそうで、訓練の成果を作中で華麗に披露。
極寒のロケでありながら、監督の要望に真摯に応えて撮影に挑んだ熱意は、魂の込められた演技に反映されています。
また、夏目雅子や荻野目慶子など、女優たちの好演も見逃せません。
そして何より、本作の真の主役とも言える犬たちの行動1つひとつが、力強さと切なさを感じさせます。
史実に基づくリアルな描写から学ぶ人として大切な観方
本作の見どころは、過去のつらい出来事を正面から描いているところです。
タロとジロの奇跡的な生還という感動的な場面だけを、大々的に取り上げているわけではありません。
犬たちが自然の脅威によって傷ついたり、人間の決定で多くの命が犠牲になったこともしっかりと描かれており、この出来事の残酷さが心に刺さります。
だからこそ、過酷な状況を生き抜いたタロとジロの強さにも注目できるでしょう。
タロとジロが生き残れたのは、賢さや生存本能が飛び抜けて良かったのではなく、隊員たちを強く信頼し、必ず迎えに来てくれることを信じ続けていたからではないでしょうか。
現在、多くの動物たちが虐待されたり捨てられてしまうことが、日本のいろんな場所で起こっています。
しかし、動物たちから愛される立場の私たちは、同じだけ愛し、大切に世話をし続ける責任があることを忘れてはいけません。
そして、苦難に直面する時に本当に大切なのは、自分や他の人を信じ、必ず苦難から抜け出せるという確信を持つことだということもこの映画からは学べます。
ただ悲しんだり感動するのではなく、どんな教訓が得られるかを考えながら観ると、より多くの魅力に気付けますよ。
また、南極が舞台の物語だからこそのスケールの大きな映像にも惹き付けられます。
ロケハンには第一次越冬隊に参加していた菊池徹も加わり、より実際の景色に近づけようと、カナダの北極圏を中心に撮影が行われました。
作中では静けさに包まれた広大な景色が何度も映し出され、取り残された犬たちの気持ちを、わずかながら感じ取ることができるでしょう。
また、本作は映画界で初めて、実際のオーロラを映像で作品に取り込むという偉業も成し遂げています。
本物の南極の景色の中に入り込んだようなリアルな描写で、タロとジロの生き様をドキュメンタリーのように映し出します。
「Theme From Antarctica」は壮大な景色を思わせるテーマ曲
本作で音楽を担当したのは、映画『炎のランナー』の音楽を制作し話題を呼んだヴァンゲリスです。
全編を通して彼の美しく透明感のある音楽が流れますが、特に注目してほしいのがテーマ曲である『Theme From Antarctica(南極物語のテーマ)』。
テレビ番組などでもよく使われている楽曲なので、聞き覚えがある人も多いのではないでしょうか。
琴をイメージしたシンプルな演奏をベースにしているため、日本人が心地よく感じるメロディとなっています。
そこに、さらにシンセサイザーによってパーカッションなどの様々な音をプラスし、南極の壮大な景色とマッチする音色に。
豊かさと過酷さを備えた自然が持つ美しさを見事に捉えた名曲です。
「南極物語」は後世に残したい名作映画!
実話に基づく映画『南極物語』は、決して幸せな感動だけの作品ではありません。
映画の中で描かれる過去の悲痛な現実には、将来に同じ過ちを犯さないために重要なことが描かれているのです。
そして、過酷な環境を耐え抜いたタロとジロのように、希望を信じ続けることの価値に気付かされるでしょう。
壮大なエンターテインメントとしてだけでなく、強いメッセージを伝える教訓的な物語としても、これからの世代に残していきたい名作です。
TEXT MarSali