儚いからこそ尊い！美しい青春の終わりを描く音楽映画
2019年公開の映画『さよならくちびる』は、女性ギターデュオの解散ツアーの模様を映し出すロードムービーです。
塩田明彦監督による完全オリジナル脚本で制作され、自身初の音楽映画となっています。
音楽映画にはグループの結成や成長などが描かれることが多いですが、この作品はグループの終わりの時間にスポットを当てているのです。
主人公たちと同世代の人も、かつて青春時代を送った人も、それぞれの心に刺さる切なさが描かれています。
音楽の美しさに触れる本作のあらすじや見どころを、動画と共に紹介します。
それぞれの想いが交差する人気ギターデュオの解散ツアー
同じバイト先で知り合ったハルとレオ。
ハルからの声がけでレオは音楽の楽しさを知り、ギターの腕前も上達していきます。
音楽を通して互いの孤独を埋めていた2人は、「ハルレオ」として路上で歌うようになり、やがてライブハウスを満員にするほどの人気ギターデュオに成長。
ローディとして元ホストのシマが仲間に加わり、音楽界を突き進んで行っていました。
しかし、そんな人気絶頂の彼女たちが、突然解散ツアーをすることに。
音楽を作ることで自身を輝かせるハルと、カリスマ性のある歌で周囲を惹き付けるレオ。
そして、想いを隠し続けながら2人を支えるシマ。
解散ツアーの移動中はシマを通してしか話そうとしないのに、揃いのつなぎで歌い出せば息がぴったりと合う2人に、解散の時が迫ってきます。
固く結ばれていたはずの絆が綻んでしまったのはなぜなのか。
全国7都市を回るツアーのラストである函館で、ハルレオの最後のライブが幕を開けます。
若手実力派俳優の演技に圧倒される！
本作は映画界を支える若手実力派俳優たちの共演が、大きな話題を呼びました。
ハル役を門脇麦、レオ役を小松菜奈が演じています。
W主演の2人は、数ヶ月にわたり基礎からギターを学び、歌もギターも吹き替えなしで撮影に挑んだそうです。
演技面では印象の異なる2人のキャラクターの内面が、繊細な演技で表現されていて、ストーリーに深みを出しています。
そして、ハルレオをローディとして助けるシマ役には、成田凌が抜擢されました。
2人への複雑な感情を持ちながらも、歳上男性の落ち着きあるシマの魅力を最大限に表現しています。
等身大の若者たちの姿に共感できる音楽映画
本作のストーリーには、青春時代や恋のもどかしさ、切なさが詰め込まれています。
音楽ユニットの解散ツアーという設定で、初めから険悪なムードで映画が始まるのが印象的です。
ロードムービーらしい移り変わる景色の中で、なぜ解散を決意したのかが少しずつ明らかになっていきます。
激しい演出やはっきりと考えを伝えるセリフは少なく、ストーリーは淡々と進んでいきます。
しかし、その静けさこそが現実の人間関係です。
想いが伝わらないもどかしさや意図と反したすれ違いに悩むのは、誰でも同じことではないでしょうか。
表情や行動に意外な想いが垣間見えるところも、等身大のリアルな人物像が感じられ、多くの人が感情移入しながら共感できるでしょう。
そして、本作で欠かせないのは、主人公たちを繋ぐ音楽。
特に別れを惜しむファンたちの寂しさが漂うライブシーンの臨場感と歌声の美しさは、心に刺さります。
夢を追っていたはずの彼女たちの解散ツアーは、夢への挫折や青春の儚さばかりを映しているように思うかもしれません。
しかし、終わりが見えているからこそ出せるしがらみのない真っ直ぐな演奏は、音楽という夢を追うことの素晴らしさを伝えているようです。
1つの形が終わりを迎えるとしても、それまで得た楽しさや絆がすべて失われるわけではないことを、本作から感じ取れるはずですよ。
どの世代の人でも青春の輝きを味わえるでしょう。
「さよならくちびる」は映画の世界観を物語る主題歌
本作の主題歌は、作中でハルレオが歌う表題曲『さよならくちびる』です。
この主題歌のプロデュースは秦基博が担当しています。
ギターデュオであることを意識し、シンプルなコードの演奏が重なる美しい響きを重視したメロディ。
歌詞には、解散という別れを決めた2人の関係性が描かれています。
別れを惜しむ寂しさと、出会えたことの喜びがストレートに感じられるフレーズで、作中の切ない雰囲気を引き立てるでしょう。
そして、ハルレオのピュアな歌声のハーモニーが音楽に乗り、歌詞に込められたメッセージが一層鮮明に伝わってきます。
PVでは楽しそうに過ごす3人の姿と、切ない表情で身を寄せる様子が対比するような映像作品となっています。
本作の中で明確には語られない、彼女たちの本音を表した楽曲です。
あいみょん提供の挿入歌も必見！
本作では、主題歌だけでなくあいみょんが楽曲提供した、2曲の挿入歌にも魅了されます。
脚本に登場する「誰にだって訳がある」は、すべての人が抱える事情まで包み込む温かみのある楽曲。
様々な事情がありながらも、自分なりに懸命に生きることを肯定してくれる優しさを感じられます。
もう1曲は監督から「突然大変なことが起こっても乗り越えていく覚悟の歌」、というリクエストに応えて制作された「たちまち嵐」。
困難が必ずあるものの、前向きに先を見据えるパワフルな楽曲です。
どちらの曲も、ギターの音色に合うエモーショナルな雰囲気が漂います。
CDや音楽配信サービスでも聴けるので、映画だけでなく音楽もじっくり聴いてみてくださいね。
「さよならくちびる」は青春の喜びを思い出せる傑作！
画像引用元 (Amazon)
門脇麦と小松菜奈がギターデュオを演じる映画『さよならくちびる』は、あらゆる世代の人に刺さる作品です。
伝えたい気持ちはあるのにどう伝えればいいかわからない歯がゆさや、どこを目指せばいいのか分からなくなる不安感は、きっと多くの人が経験してきたことでしょう。
とはいえ、その経験を経なければ得られない大切なものがあることは、誰もがわかっているはずです。
本作はそんな切なくも喜びの多い青春の模様を、リアルに映し出しています。
映画『さよならくちびる』を観て、もう一度青春の心地よさを感じてみませんか。
TEXT MarSali
