歌詞から導き出されたのは、あるSNSの存在
「テレキャスターボーイ」や「エゴロック」など、たった60秒という短い時間で人々の心を魅了する楽曲を生み出し、人気ボカロPとなった「すりぃ」。
そんな彼を代表するボカロ曲の1つ『ジャンキーナイトタウンオーケストラ』は、ある「SNS」を題材に作られたと、その歌詞とMVに詰め込められた細かい世界観により考察されています。
はたしてその楽曲の内容はどんなものなのか。
その歌詞の意味を紐解きましょう。
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8番線中央通り、蝉時雨のオーケストレーション
とんがってスパイダー、モラル、同調現象、戦場
数学的カリスマ気取り、チャイナホワイト、快楽、道化
4畳半ミュージック、アルコールとキャスター、売春劇
≪ジャンキーナイトタウンオーケストラ 歌詞より抜粋≫
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攻撃的な言葉が無秩序に並べられた歌詞は、多くの人々の意見が飛び交うSNSの荒れ模様を表現しているようです。
しかし後半には、どこか音楽関係で繋がりのある言葉も並べられています。
MVの中でも、ギターを弾くようなポーズをする主人公らしき男が描かれている為、これらはこの楽曲の主人公自身に関係がある言葉なのかもしれません。
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Oh… 陽性?陰性?インテリぶる男性
だったらなんだってんだ
Oh… 造詣、どうせ、チラつかせてバンザイ
さっさと落ちてしまえ
≪ジャンキーナイトタウンオーケストラ 歌詞より抜粋≫
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続く歌詞もやさぐれたものとなっており、「インテリぶる男性」「造詣」「チラつかせてバンザイ」という歌詞からは、SNS内で自分の持てる知識をひけらかしている人達の言葉を前に心がすさんでいる様が窺えます。
と、知識をひけらかす、ということから一つのSNSの存在が頭に思い浮かびます。
それが「Twitter」です。
Twitterは、多くの人々の言葉が行き交うSNSです。
知識をひけらかすことはもちろん、様々な人達の言葉が載せられるので、出だしの歌詞のように無秩序で混沌とした場所にもなります。
またMV内では、主人公の男の手と思われる手のひらに数字が表現される瞬間があります。
最初は0ですが、楽曲が進むごとに増える数字は、Twitter内のフォロワーの数を示しているようです。
更にサビでもこんな歌詞が歌われています。
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アーユーレディー
ジャンキーナイト、しょうもなくて
片目で123
ドゥーユーワナ
キャンディーナイト、情もなくて
奏でるワンモアタイム
イカセテノーノーノー
どーでもいいこと呟いてんな
≪ジャンキーナイトタウンオーケストラ 歌詞より抜粋≫
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注目は「呟いてんな」という最後の歌詞。
呟くは、Twitterでは、自分の言葉をTwitterに書き込むことを表す言葉です。
また、サビ中にMV内で踊っているナース服を着た女性の指先をよく見ると、Twitter内にて呟きを拡散する時に使用する「RTボタン」の形にそっくりなポーズを取っています。
他にも目の中に、呟きを評価する「いいね」のボタンと同じマークが映し出されたりと、度々Twitterを暗示するようなシーンが挟まれています。
これらの情報から考察するに、この楽曲が歌う「SNS」はどうやら「Twitter」を指し示しているのではないでしょうか?
「売れないミュージシャン」が「存在の証明」の為に起こしたこと
手のひらの数字が0であったところから察するに、きっと主人公は「売れないミュージシャン」なのでしょう。Twitterを通しても目立つ成果を得られない現状に嫌気がさしているのかもしれません。
そしてそんな彼が取った行動が、同じく1番にて歌われているこちらの歌詞です。
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繰り返しの午後、煙る街
因果応報さ
一切も合切も灰になって
存在の証明
≪ジャンキーナイトタウンオーケストラ 歌詞より抜粋≫
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どうやら主人公は街を燃やしてしまったようです。
MVでも主人公がライターを使って火を放ったと思われるシーンが流れます。
その光景に多くの視聴者からは、ネットでいう「炎上」を表しているのではないか、という考察が飛び交っています。
また、それを肯定するかのように、2番ではこのような歌詞が歌われています。
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病弱な少女が独り、誰もが目を合わせぬように
何度もジーザス、白昼堂々、シャブ、ランデブー
何者にもなれずに今も、何者にもならずに問うか?
都会の喧騒に、オルタナティブ暴走、炎上劇
Oh…原罪、制裁、全世界に冤罪
だったらなんだってんだ
Oh..,売名、延命、村八分で絶命
さっさと落ちてしまえ
≪ジャンキーナイトタウンオーケストラ 歌詞より抜粋≫
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注目は「炎上劇」という言葉。
先刻の1番の光景と繋がりを感じる言葉です。
前脈の「都会の喧騒」というのがTwitterを暗喩する言葉ならば、続く「オルタナティブ暴走」とは、主人公自身が我慢ならずに炎上を起こしてしまったことを指し示しているようにも感じられます。
すると、誰にも自分の歌を聴いて貰えない現状に限界を迎えた主人公が、その「存在の証明」をするために炎上劇を起こした、という物語が見えてきます。
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エテ公回しの猿踊り
奴らは潔癖だ
諸行も無常に燃え上がって
パラノイア革命
≪ジャンキーナイトタウンオーケストラ 歌詞より抜粋≫
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まるで人を見下すような言葉で続く歌詞。
自分の起こした炎上で集まる注目に優越感を覚えているようです。
MVの中でも増え始める数字に笑っており、その姿はまるでSNSという薬に捉われた薬中毒者(ジャンキー)。
数字に踊らされていく主人公。
その結末はどうなってしまうのでしょうか。
SNSに振り回された男が選んだ結末
「炎上」をやりすぎたのか、間奏シーンで犯罪者として追いかけ回され出す主人公。手のひらの数字も段々と減っていってしまいます。
そんな主人公の内情を表現するかのように、続くCメロでもこのような歌詞が歌われています。
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アスファルトに寝転ぶ幽霊ボーイ
スラム、街道、ネオン、危険、暴人
どこにも行けないまま
強がって笑っても泣いてんじゃん
ならばったりここらでやめにしよう
ほらパッパルラルラ
残りの人生相談なんてやめな
地団駄を踏んでいけ
美徳の幻想なんて語っても
二枚舌少年法
≪ジャンキーナイトタウンオーケストラ 歌詞より抜粋≫
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数字を気にするばかりで、本音を語ることを忘れてしまった主人公。
しかし、おかげで本当に大事なことを思い出したようです。
忘れていた自分の本音、やりたかったことを思い出し、数字に振り回されるのはやめようと決意したようです。
炎上目当ての人生なんてやめ、地団駄を踏みながらも、自身の実力で生きることを選んだようです。
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アーユーレディー
ジャンキーナイト、しょうもなくて
片目で123
ドゥーユーワナ
キャンディーナイト、情もなくて
奏でるワンモアタイム
イカセテノーノーノー
ラクガキ、胎動、自己嫌悪の
渦巻くプライド、がなる現象
馬鹿だらけ世界で歌ってんだ
≪ジャンキーナイトタウンオーケストラ 歌詞より抜粋≫
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1番と同じ内容の大サビ。
しかし、最後は新しい言葉が付け足されており、主人公が心を新たに入れ替えた様子が感じ取れます。
しかしそれに反し、MVの最後ではTwitterに呟かれたこの一連のありさまに対して「いいね」を押した人が、すぐに画面を切り替えるさまが描かれています。
この一連の物語も、他者から見れば「いいね」を押すだけで満足してしまう程度の、「どうでもいい呟き」の一つでしかないという表現なのでしょう。
一概にハッピーエンドとは言えない物語の終わり。
SNSが様々な問題を生み出す可能性があることを表しているではないでしょうか。。
TEXT勝哉エイミカ