人間・かぐや姫の愛と苦悩の物語
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誰もが一度は聞いたことがあるであろうおとぎ話「竹取物語」。
日本最古の物語として高校の古典の授業で習った人も多いのではないでしょうか。
授業で習ったかぐや姫は、月に還ることになるまでは、特に大きな喜怒哀楽を表すこともなく、どこかクールな印象がありましたよね。
そのかぐや姫に生命を吹き込み、豊かな感受性を持つ「人間・かぐや姫」を誕生させたのが『かぐや姫の物語』と言えるでしょう。
この映画のかぐや姫は、転げまわって笑い、美しいものを見ては目を輝かせ、自由を奪われれば怒る。
飾り物のお姫様ではない、私たちと同じ一人の人間として描かれています。
そんなかぐや姫の人生は、どのように展開していくのでしょうか。
製作費50億円、製作年月8年をかけて、丁寧に愛情をかけて育てられた「人間・かぐや姫の物語」。
早速あらすじや見どころをみていきましょう。
あらすじ
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山へ入り竹を取って小物を作って売りながら、生計を立てている竹取のおきな(おじいさん)。
彼はある日、光る竹を見つけ、おそるおそる割ってみると、中に小さな女の子が入っていました。
おじいさんは女の子を天からの授かりものと思い、おうな(おばあさん)とともに大切に育てます。
女の子は近所の子どもたちと野山を駆け回り、木の実を取って食べたり、川で遊んだり、自然と一体になって生き生きと過ごします。
貧しかった竹取のおきなは竹の中から黄金を見つけ、たちまち裕福になりました。
そこで里山を離れて都に大きなお屋敷を建て、おうなと「かぐや姫」と名づけられた女の子とともにそこで暮らすようになりました。
美しく成長したかぐや姫は五人の貴族から求婚されます。
しかし、誰とも結婚したくないかぐや姫は、「到底手に入れることのできない宝物を持ってきた人と結婚する」と、五人それぞれに欲しい宝物を指定します。
なんとしてでもかぐや姫と結婚したい貴族たちは、必死になって宝物を得ようとしますが…。
「一人の人間としてどのように生きたいか」について、明確な自分の考えを持っているにもかかわらず、思い通りにいかない人生に苦悩するかぐや姫。
『かぐや姫の物語』は「竹取物語」の枠組みをほとんど変えずに、そんなかぐや姫の等身大の姿を鮮やかに現代によみがえらせた、まさに不朽の名作と言えるでしょう。
次にこの映画の見どころを三つ紹介していきます。
思い通りにいかない人生の苦悩に共感
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かぐや姫は類まれな美しさと財力を持ち、都に来てからは高貴な人のたしなみとして琴を奏でられるようになります。
かぐや姫は新しい環境に適応するために、努力できる人でもあるのです。
そして、おきなやおうなに愛され、里にいたときの友達にも愛されています。
それでも、本当は里山の自然の中で家族や友達と一緒に暮らしたいのに、それができず、苦悩する人生を送っています。
「ここは自分の居場所ではない」と絶望し、死んだような眼をして生きていくかぐや姫。
誰かがかぐや姫に悪意を持っているからこんな環境になってしまったのではなく、むしろ彼女の幸せのために用意された環境なのに、そこになじむことができずに苦しむかぐや姫。
その様子は現代にも通じる悩みのようにも、感じられるのではないでしょうか?
「ここは自分の居場所ではない」と感じていながらも、自分の居場所が作れなくて悩んでいる人はたくさんいるでしょう。
そして、自分の幸せを阻んでいるのが、誰かの悪意ではなく善意というもどかしさ。
気持ちの行き違い。
かぐや姫が私たちと同じように幸せを求めて苦悩する一人の人間として描かれ、大きな共感を呼んでいます。
そのリアリティがこの映画の見どころの一つと言えるでしょう。
地球で生きることは「罰」なのだろうか
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『かぐや姫の物語』のキャッチコピーは「姫の犯した罪と罰。」ですが、果たして地球で生きることは「罰」なのでしょうか。
作中のかぐや姫には次から次へと悲しいことが起こります。
願いはことごとく叶わず、少しずつ諦めて現実を受け入れていかなければなりません。
そこだけを見ると、まるでかぐや姫は「罰」として地球で過ごしているかのようですが…。
しかし、幸せに輝く時間も少なからずあったのです。
周囲の人から愛され、束の間ではあるけれど特別に想っていた男性と心を通わすこともできました。
かぐや姫はきっと地球で過ごした日々を、罰だとは思っていないでしょう。
だからこそ、月へ還るのをあんなにも悲しんだのではないでしょうか。
苦しみがあるからこそ、喜びが輝く
この映画で表している月は「天国」の象徴なのでしょう。
月へ還ったら苦しみも喜びも感じられなくなります。
苦しみから解放されるのは一見良いことのようにも思うでしょう。
しかし、それでも月に還るのを悲しんだかぐや姫が私たちに伝えようとしているのは、「苦しみも喜びも両方あってよいのだ。苦しみがあるからこそ、喜びが輝くのだ」という人生の全てを肯定する在り方なのではないでしょうか。
この力強い人生の全てを肯定する在り方が、『かぐや姫の物語』の二つ目の魅力であり、見どころと言えるでしょう。
豪華キャストが高畑監督のもとへ集結
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三つ目の見どころはキャストの豪華さです。
ひたむきに生きるかぐや姫役には数百人のオーディションから選ばれた、朝倉あきが務めました。
かぐや姫を熱愛する「ととさま」竹取のおきな役に、この映画が遺作となった故・地井武男。
いつもかぐや姫にそっと寄り添う優しい「かかさま」竹取のおうな役に宮本信子。
幼いころのかぐや姫を守ってくれた幼馴染のお兄ちゃん「捨丸」役に高良健吾など、豪華なキャストが物語の世界に観る人を惹きこんでいきます。
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音楽を担当したのは、宮崎駿監督や北野武監督の作品をはじめとした数々の映画音楽、テレビドラマやCM音楽などで活躍する久石譲。
高畑監督と久石譲のお互いの熱い希望が叶って、初めてタッグを組むことになりました。
最後のシーンで流れる月の住民たちが奏でる音楽は、この世のものではないような不思議さに溢れていて印象的ですよね。
インターネット上でこの最後の音楽の不思議さについて、大きな話題となっていました。
包容力に満ちた主題歌「いのちの記憶」
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全てを受け入れる包容力に満ちた主題歌は、二階堂和美の『いのちの記憶』です。
「いのちの終わりを迎えること」すら静かに受け入れ、きっとまたどこかで会えると歌うこの曲を聴いていると安らぎに満ちた気持ちになれますよね。
「母親の胎内にいたときはこんな感じだったのかな」と感じたのは、この曲を収録したときに二階堂和美のお腹に赤ちゃんがいたからかもしれません。
懸命に生きた生命が輝くから「かぐや姫」
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この映画のラストは、人それぞれいろいろな受け止め方ができるでしょう。
しかし、かぐや姫が与えられた環境の中で懸命に生きて、その生命が輝いていたのは確かなことではないでしょうか。
かぐや姫には意思が宿っていました。
もしも彼女が明確な自分の考えを持たず、物質的な豊かさと高貴な身分欲しさに、好きでもない貴族に身を任せることのできる女性だったら、もっと幸せを感じることができたのかもしれません。
それでも、「どんなに深く苦しんでもそれは人生の色彩の一つであり、苦しみがあるからこそ喜びも際立って輝くのだ」と気づいたかぐや姫の人生は、輝かしいものだったのだと言えるでしょう。
「おうちでの楽しみ方」が注目されている時期ですが、おうちで『かぐや姫の物語』を鑑賞してみてはいかがでしょうか。
TEXT 三田綾子