「海街diary」とは
画像引用元 (Amazon)
映画『海街diary』の原作は『BANANA FISH』『カリフォルニア物語』『YASHA −夜叉−』などで有名な吉田秋生による少女漫画。
『ラヴァーズ・キス』とのクロスオーバー作品で、2006年8月号~2018年8月号まで、雑誌「月刊フラワーズ」にて不定期連載されました。
家族の絆を描いた、切なく優しい物語で、第11回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、マンガ大賞2013、第61回小学館漫画賞一般向け部門受賞作です。
2015年に実写映画化され、2017年には舞台化もされました。
実写映画は第68回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、上映後にスタンディングオベーションが送られたことでも話題になりました。
さらに第39回日本アカデミー賞では、最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀撮影賞・最優秀照明賞の4冠に輝いた他、数多くの優秀賞を受賞しています。
四人姉妹の共同生活…
鎌倉に暮らす香田家の三姉妹、しっかり者の長女・幸、明るく奔放な次女・佳乃、マイペースな個性派の三女・千佳。
ある日、祖母の残した鎌倉の家で暮らしていた3人のもとに、父の訃報が届きます。
実は、三姉妹の父は15年前に女と出て行き、母も再婚して家を去っていたのです。
葬儀に出席するため山形へと向かった3人は、そこで腹違いの妹である14歳の少女すずと出会います。
実母はすでに他界し、父の3番目の妻である陽子を気遣いながら気丈にふるまうすず。
そんな彼女の涙を見た幸は、別れ際に、すずに鎌倉で一緒に暮らそうと誘いかけます。
そうしてすずは、香田家の四女として、鎌倉へやって来ることになるのです。
異母妹を迎え、4人そろっての新しい暮らし…。
それぞれの複雑な想いが浮かび上がる姉妹の共同生活を通し、家族の絆が描かれていきます。
山場がないのに引き込まれる!
映画『海街diary』には山場らしい山場がほとんどありません。
オムニバス形式に近かった原作マンガを再構成し、アレンジさせた本作は、四人姉妹の日常と気持ちの移ろいが淡々と描かれているだけです。
しかし、役者陣の演技とセリフ回し、そしてカメラワークが素晴らしく、ありふれた日常にぐっと入り込んで見入ってしまいます。
画像引用元 (Amazon)
過剰な演出がなく、自然体に感じられるところもこの作品の魅力の一つでしょう。
まるでドキュメンタリーを見ているかのように、四姉妹の日常が観ている人の心に刺さります。
それでいて「生きてる者はみんな手間がかかる」「神様っていうヤツに腹が立つ」などの名セリフ。
『海街diary』を観れば、人生とはままならないものであり、だからこそ生きることは愛おしく喜びに満ちていると、実感を持って感じられるのではないでしょうか。
さすがドキュメンタリー番組出身の是枝監督が作り上げた作品ですね。
スタッフもキャストも素晴らしい!
映画『海街diary』は『そして父になる』『誰も知らない』などを手掛け、国内外に高い評価を受ける是枝裕和が監督を担当。
撮影は国内外で数多くの賞を受賞している瀧本幹也、照明は『そして父になる』を手掛けた藤井稔恭が担当しました。
≪キャスト≫
香田幸(三姉妹の長女):綾瀬はるか
香田佳乃(三姉妹の次女):長澤まさみ
香田千佳(三姉妹の三女):夏帆
浅野すず(三姉妹の異母妹):広瀬すず
佐々木都(三姉妹の母):大竹しのぶ
椎名和也(医師、幸の恋人):堤真一
二ノ宮さち子(海猫食堂の店主):風吹ジュン
福田仙一(山猫亭の店主):リリー・フランキー
菊池史代(大船の大叔母):樹木希林
日本映画界を代表する女優たちが四姉妹を演じていますが、彼女たちの美貌よりもむしろ、その演技力にため息をつきたくなります。
第39回日本アカデミー賞で綾瀬はるかは優秀主演女優賞、長澤まさみと夏帆は優秀助演女優賞、広瀬すずは新人俳優賞を受賞しました。
透明感のある、優しい映画の空気感を体現する演技が素晴らしいですよ。
脇を固める豪華キャスト陣の演技にも魅了されますね。
サントラは菅野よう子
映画『海街diary』の音楽は、エンドロールも含め、菅野よう子が担当しました。
菅野よう子は、国内にとどまらず海外からも高い評価を受ける音楽プロデューサー。
『カウボーイビバップ』や『攻殻機動隊』などを手掛け、アニメサントラの潮流を変えたと言われる人です。
また、東日本大震災の際には発生翌日に応援ソングをYouTube上で公開し、NHK東日本大震災プロジェクトのテーマソング「花は咲く」を作曲。
連続テレビ小説『ごちそうさん』、大河ドラマ『おんな城主 直虎』の音楽を担当しました。
実は、是枝裕和監督に菅野よう子を推薦したのは長澤まさみなんだとか。
長澤まさみは「五感で作品を記憶させてくれるような菅野さんの映画音楽が大好きで、いつか彼女の音楽が付いた映画に出てみたかったんです」と語っています。
『海街diary』の空気感は、菅野よう子の音楽に負うところも多いでしょう。
彼女が作り上げた音楽は、自然の音とほどよく交じり合い、意識せずともごく自然な感じで耳に流れ込んできます。
悪目立ちせず、作品と一体化したBGMが秀逸です。
音楽の完成度が非常に高い作品と言えるでしょう。
作品を観た後にサントラだけ聴くと、余韻に浸ることができ、心が癒されるのでおすすめです。
家族を再確認できる物語
『海街diary』は心あたたまるとても優しい物語です。
四姉妹それぞれに抱えるものがありながら、人を思いやる心を忘れず、未来へと足を踏み出していきます。
少しセンチメンタルなラストも味わい深いものがあります。
「家族というものは特別な存在なんだ」ということに改めて気づかされますね。
原作も映画も、それぞれに感動を呼び起こしてくれる素晴らしい作品ですよ。
ぜひ『海街diary』をご覧ください。
TEXT 有紀