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「PLACEBO」米津玄師と野田洋次郎が紡ぐ恋は、走り出したら止まらない

米津玄師が2020年にリリースしたアルバム『STRAY SHEEP』。数多くのヒット曲と並んでRADWIMPS・野田洋次郎とのコラボ曲『PLACEBO』が話題を呼んでいます。今回は、そんな楽曲の歌詞に注目し、意味やメッセージを独自の視点で徹底解説します。

「PLACEBO」驚きのコラボに話題沸騰


2020年8月5日に発売された『STRAY SHEEP』。

今や邦楽・ポップスシーンを牽引する存在となったアーティスト・米津玄師の2年半ぶりのオリジナルアルバムとなっています。

ドラマ主題歌を含む数多くのヒット曲が収録され、早くも名盤の風格を漂わせていますが、その中でもひときわ注目を集めた一曲が『PLACEBO + 野田洋次郎』です。

国民的知名度を誇るバンドへと成長したRADWIMPSのボーカル・野田洋次郎をゲストに迎えた楽曲とあって、発売前から大きな話題になりました。

巧みに絡み合うふたりの声の魅力や、スマートにまとめられたダンスサウンドの意外性に加えて楽曲の人気を支えているのは、まっすぐな気持ちが乗せられた歌詞。

米津玄師が『PLACEBO』で紡いだ歌詞には、どのようなメッセージが込められているのでしょうか。

もう戻れない、運命的な「恋」


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熱っぽい夢を見てしまって 君のその笑顔で 絆された夕暮れ
≪PLACEBO + 野田洋次郎 歌詞より抜粋≫
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楽曲の幕開けを飾るのは、心の中に燃える情熱を感じさせるような、こんな一節です。

「熱っぽい夢」という歌い出しのフレーズは、ぼーっとしながらも火照っているような、あるいは何かに心を奪われてしまった状況を思い起こさせるのではないでしょうか。

また、「心を動かされる」の意味をもつ「絆(ほだ)される」という言葉からも浮かぶ通り、歌詞の主人公は「君」に心を奪われてしまったことがわかります。


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この想い気の迷いだって 笑えないよ全然
袖が触れてしまった
≪PLACEBO + 野田洋次郎 歌詞より抜粋≫
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そうして芽生えた心が「気の迷い」ではないことを改めて確認する主人公。

恋の感情が、自分の理性的な部分とはおかまいなしにどんどんと膨れ上がっていく様子が歌詞の中にしっかりと落とし込まれていますね。

また、ここでは自身の運命的な出会いを「袖が触れ」たと表現しています。

そのままの意味で捉えると「君」と物理的に袖が触れ合った瞬間を描写していることになります。

しかし、人との縁は全て前世からの深い因縁が関係しているという意味のことわざ「袖振り合うも多生の縁」をもじったフレーズであると考えられます。

ゲストに迎えた野田の存在に加えて「前世」というキーワードが揃えば、思わず浮かんでくるのはRADWIMPSのあの大ヒット楽曲ですね。

もちろん、かなり飛躍した考察ではありますが、そんな言葉遊びにメッセージが隠されているかもしれない、とすら思わせる米津の歌詞の奥深さが光った一節といえるのではないでしょうか。

巧みなセンスで描く歌詞の面白さ


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走り出したハートを攫って 繋いでいけビートの端くれ
薫る胸に火を灯せ 踊り明かそう朝まで
≪PLACEBO + 野田洋次郎 歌詞より抜粋≫
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一度恋に落ちてしまったら、なかなか理性では押さえ込むことが難しいものです。

そんなどうしようもない感情のエネルギーが「走り出したハート」という言葉に表現されています。

そして韻を踏むように配置された「ビート」というキーワードは、二つの意味があります。

この楽曲のノリノリなサウンドにも効いている「リズム」としての意味の他に、心臓がドキドキと動く「鼓動」を表す単語です。

ふとした言葉に何重もの意味を持たせて歌い上げる米津の高い作詞センスがここでも発揮されていますね。

そして続く歌詞では、気持ちの高ぶりを「踊り明かそう」という言葉に変換しています。

ここで、この楽曲を作り上げているダンサブルなサウンドが恋に燃えている主人公の高揚感を表現したものであったことがわかりますね。


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しなり揺れるランウェイの先へ 僕の心連れてってくれ
触れていたい 揺れていたい 君じゃないといけない この惑い
≪PLACEBO + 野田洋次郎 歌詞より抜粋≫
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続いて登場する「しなり揺れるランウェイ」というキーワードを、やや難解に感じた人も多いのではないでしょうか。

ファッションショーでモデルが歩く「ランウェイ」

このキーワードが表すものは、さまざまな考えができます。

華やかなオーラをまとった「君」をモデルにたとえたのかもしれません。

あるいは、登場するモデルが自分とは遠い存在に見えることから「手の届かない恋」のもどかしさと重ね合わせたのかもしれません。

いずれにせよ、ここでは「僕の心」を連れていって欲しい、という無邪気でまっすぐな願いが語られています。

「君じゃないと」ダメだ、とまで言わせるほどに「僕」の恋が真剣なものであることがわかります。

「罠」だとしても、落ちるしかない


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今だんだん恋になっていく ときめいていく
思いがけぬ とんだランデブー
どんどんハイになっていく 洒落込んでいく
甘い罠に やられていく 落ちていく
≪PLACEBO + 野田洋次郎 歌詞より抜粋≫
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楽曲が盛り上がりを迎えるサビでは、一転してシンプルな表現が使われており、「君」に吸い込まれるように引き寄せられていく「僕」の様子が描かれます。

ときめく「僕」の様子に続いて、デートを意味する単語の「ランデブー」が登場。

熱烈なアプローチが成功したのでしょうか。

大好きな「君」との約束をゲットした「僕」のドキドキ感が、エネルギッシュな歌詞表現によって聴き手の心にも迫ってきますね。

思いがけず恋に落ちた相手と、なんだかうまくやれているという幸せな高揚感が、メロディに乗って次々と語られていきます。

本当は「甘い罠」かもしれないけれど、「落ちていく」ことしかできないという恋の力強さには、きっと多くの人が思い当たる経験なのではないでしょうか。

現実味のある歌詞が聴き手の心をゆさぶります。

恋がもつ圧倒的なエネルギー


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いつかの偶然 確かめたいね (いつかの偶然 確かめたいね)
解き明かしたい 未踏のミステリー (気づかないグラビティー)
元のように 戻れないね (元のように 戻れないね)
どっか行こうぜ 冗談みたいに (背反のアイロニー)
≪PLACEBO + 野田洋次郎 歌詞より抜粋≫
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続く2コーラス目では、いよいよゲストボーカルの野田が登場。

米津とはまた違ったアプローチの歌声で聞こえてくる歌詞が、新鮮な楽しさを与えてくれます。

運命的な出会いを「いつかの偶然」と表現する主人公。

ふたりが巡り合った奇跡のような出来事と、それに付随する高揚感を「確かめたい」と語っています。

しかし、時間は秒単位にどんどん進んでいくもの。

いくらがんばっても、過去に戻ることはできません。

恋が始まった時の楽しさは格別で、時間を戻すことができないからこそ、今この時を楽しもう。

そんな、「僕」のポジティブな気持ちが「どっか行こうぜ」のセリフに表れています。

そして、楽しかったあの頃に戻りたいという気持ちと戻れないという事実が「背反」、つまり対立していて相容れないことであると気づくのです。

過去の思い出に浸るのもいいけれど、今を生きているふたりなのだから、今を楽しんで前に進んで行こう、というメッセージが込められているのではないでしょうか。


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それは一つのコメディ または二つのトラジティ
どちらでも構わない君と二人ならば
それは一時のクレイジー 揺り返していくサニティ
何もかもが いつの間にか 変わり果てる魔法
≪PLACEBO + 野田洋次郎 歌詞より抜粋≫
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続くこちらの一節は、そんなささやかな悩みに加えて、この恋に対する「僕」の考えが描かれています。

歌詞では、「コメディ(喜劇)」と「トラジディ(悲劇)」という言葉が、ここでも対立の構図になって登場します。

これはおそらく、ふたりの恋そのものを表現した歌詞であると考えられます。

恋の行方が、末長く一緒にいられる「コメディ」ならば、それはふたりが共有するから「一つ」の記憶。

反対に、恋の結果がすれ違いに終わってしまう「トラジディ」ならば、それはふたりがそれぞれの人生で抱えて歩いていく「二つ」の記憶となります。

本当ならば「トラジディ」の可能性については考えたくありませんが、「僕」はそれが起こりうることも承知の上で「構わない」と結論づけています。

「僕」にとっては、この恋はまさに「魔法」です。

何気ない日常を色鮮やかに彩ってくれる「君」と一緒にいられることが何よりも幸せであると考えているのでしょう。

いつか「サニティ(正気)」を取り戻し冷静になってしまう可能性もきちんと受け入れつつ、「一時のクレイジー」である恋の楽しさに身を委ねているのではないでしょうか。

たとえ過去に恋愛がうまくいかなかった経験から失恋の痛みを学んでいたとしても、今まさに舞い込んできたこの恋愛の楽しさには叶わない。

そんな、恋愛感情が持つ計り知れないエネルギーを歌詞に乗せているようです。

「恋」が「愛」に変わっていく瞬間


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気持ち前に突っ込むステップで 飛ばしていけスイートな宇宙へ
待ちに待った宵の果て 踊り明かそう朝まで
きらり照らすリップで酔わせて とこしなえに誘ってくれ
触れていたい 揺れていたい 君じゃないといけない この惑い
≪PLACEBO + 野田洋次郎 歌詞より抜粋≫
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恋が持つ爆発的なエネルギーを感じている「僕」は、とにかくふたりで未来へと進んでいくことに夢中です。

湧き上がってくる気持ちを表現するように「前に突っ込むステップ」で「踊り明かそう」と誘っています。

「宵の果て」や「リップで酔わせて」から想起されるのは、ダンスフロアのようなきらきらとした夜の空間。

「僕」が「君」と過ごす日常の楽しさをどれだけ色鮮やかに感じているかがわかる一節となっています。


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今だんだん愛になっていく 騒めいていく
鉢合わせの とんだピーカブー
燦々照り出していく 謎めいていく
甘い罠に やられていく 落ちていく
≪PLACEBO + 野田洋次郎 歌詞より抜粋≫
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雰囲気をそのまま残し突入する二度目のサビでは、一コーラス目の「ハイになっていく」と引っかけて「愛になっていく」様子が語られます。

とにかく「君」のことが大好きな「僕」。

初めの頃は「かわいい」「なんだか気になる」といった、シンプルな恋の感情を抱いていたのでしょう。

その後お互いを知り、多くの時間を共有する中で「大事」「愛おしい」という感情が生まれてきたはずです。

それはまさしく「愛」に近い気持ち。

ふたりが過ごしてきた楽しい記憶が積み重なり、相手への視点が変化してきたことがわかります。

英語圏で「いないいないばぁ」を意味する「ピーカブー」のキーワードも取り入れつつ、ふたりが偶然出会い、共に歩み、「やられていく」過程が、聴き手にもはっきりと伝わってきますね。

恋の引力が聴き手の心をもゆさぶる


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今だんだん恋になっていく ときめいていく
思いがけぬ とんだランデブー
今どんどんハイになっていく 洒落込んでいく
甘い罠に やられていく 落ちていく
≪PLACEBO + 野田洋次郎 歌詞より抜粋≫
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最後のサビでも一コーラス目のフレーズを繰り返し使い、「僕」の気持ちに対する印象を深めて楽曲は締めくくられます。

楽曲全体をおさらいしてみると、会話のような歌詞であることが多いデュエットのスタイルを取り入れながらも主人公は「僕」ひとりであるのが印象的。

リストは米津玄師、野田洋次郎のふたりですが、あくまで1つの物語が語られています。

そんな『PLACEBO』を通して語られていたのは、とにかくシンプルな「恋がもつ引力」ではないでしょうか。

ふとしたきっかけで恋に落ち、とにかく好きになって、そこに運命的な力さえを感じる「僕」の姿。

それは、恋をしたことがある、あるいは今まさにしているという人にはきっと心当たりがあるはずです。

人は誰しも、恋をすれば夢中になってしまうもの。

時には現実的な問題や辛い状況があれど、シンプルな恋の気持ちはそんなことはおかまいなしに湧き上がってくるのではないでしょうか。

一度走り出してしまったら、なかなか止まれないのが恋の特徴ですよね。

誰もが夢中になる「恋の引力」の力強さと、恋に落ちる楽しさ。

『PLACEBO』は、自分の心に秘められたそんな気持ちを思い出させてくれる一曲に仕上がっています。

恋愛ソングの新たな名曲として、たくさんの世代に聴き継がれるでしょう。


TEXT ヨギ イチロウ

ハチ名義でボカロシーンを席巻し、2012年本名の米津玄師としての活動を開始。 2018年、TBS金曜ドラマ「アンナチュラル」の主題歌として「Lemon」を書き下ろし“ミリオン”セールスを記録。「第96回ドラマアカデミー賞」にて最優秀ドラマソング賞を受賞。日本レコード協会にて史上最速の300万DL認定···

ロックバンドRADWIMPSのボーカル、ギター、ピアノとしてほぼ全ての楽曲の作詞作曲を手掛ける。 ジャンルという既存の枠組みに捉われない音楽性、恋愛から死生観までを哲学的に、情緒的に描いた歌詞で、思春期を過ごす世代を中心に大きな支持を受けている。 アニメーション映画『君の名は。』『···

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