日本アカデミー賞10冠を果たした傑作!
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2011年公開の映画『八日目の蝉』は、誘拐事件をベースに母親という存在を描いたヒューマンサスペンス作品です。
原作は角田光代の同名小説。
誘拐や不倫、カルト教団という扱いにくい要素を大胆に盛り込んで読者の心を掴み、2010年にはテレビドラマ化も果たしています。
そんな人気小説を、成島出監督の演出と奥寺佐渡子の脚本で女性の内面を浮き彫りにする映画に仕上げました。
深い人間模様を描く映画としての魅力が評価され、日本アカデミー賞では10冠という快挙を成し遂げています。
多くの人の心を揺さぶる本作のあらすじや見どころを、動画と共に紹介します。
映画「八日目の蝉」あらすじ
1995年、野々宮希和子は自身が犯した誘拐事件の裁判に立っています。
彼女は会社の同僚で既婚者の秋山丈博と不倫関係にあり、やがて妊娠。
喜ぶ彼女に反し丈博は産むことを認めず、人工中絶をした彼女は二度と子供を産めない体になってしまいました。
彼と妻の恵津子との間に生まれた子供を一目見たいと考えた希和子。
ところが目の前にした赤ん坊の笑顔を見て衝動的に連れ去ってしまいその日から誘拐犯として逃げることになります。
赤ん坊に「薫」と名付け、共に小豆島へと赴いた2人は、複雑な事情を抱える女性たちが集まる宗教団体「エンジェルホーム」に身を置き、そこで親子として過ごしていました。
しかし薫が4歳になる頃、警察に見つかった希和子は逮捕され、薫は元の生活に戻ることになります。
事件解決から17年が経ち、「薫」こと秋山恵理菜は今や21歳の大学生です。
実の両親と過ごしながらもうまく馴染めず、世間からの中傷で受ける苦しみを希和子への憎しみでごまかしながら、心を閉ざしたまま大人になりました。
ある日、一人暮らしを始めた恵理菜の前にルポライターを名乗る安藤千草という女性が現れます。
例の誘拐事件についてしつこく聞こうとする千草にいら立ちながらも、恵理菜は不思議と彼女を拒むことができずにいました。
そんな中、自分の妊娠に気づく恵理菜。
その相手は家庭を持つ男でした。
嫌悪していた希和子と同じ立場になった自分に戸惑いながら、千草の手を借りて自身の過去と向き合うことにします。
かつて母と信じていた希和子と過ごした小豆島を訪れた恵理菜は、記憶の奥底に眠る真実を知ることになるのでした。
豪華キャストが様々な女性像を熱演!
監督が「女性を描く映画」として作り上げた本作は、女優陣の引き込まれる演技が映し出されています。
主人公の恵理菜役を演じるのは、子役から活躍する人気女優の井上真央。
自身の殻を破りたいという思いで「裸でぶつかっていきたい」と撮影に挑んだそうです。
これまでの勝ち気な女の子のイメージを一新させ、複雑な環境にいる女性の繊細な心情を細やかに演じています。
本作のもう1人の主人公である希和子を演じるのは、演技派女優の永作博美。
彼女自身がプライベートでも母親になり、子供の扱いが分かっていたことが希和子を演じる上で役立ったそう。
母親としての愛情がにじみ出る様々な表情が魅力的です。
そして2人の人生を取り巻く女性たちには、小池栄子、森口瑤子、余貴美子、市川実和子、風吹ジュンなど豪華キャストが集結。
様々な角度から女性という存在の本質を表現し、内面の美しさと恐ろしさを映し出します。
見どころは母親の愛を感じるストーリー
本作の最大の見どころは、深く考えさせられるストーリーです。
物語は恵理菜の視点で、自身と希和子の歩みを交互に描いていきます。
そこには女性の持つ愛ゆえの哀しみと強さがよく表されています。
誘拐という間違った方法を取ったとはいえ、希和子は恵理菜を自分の娘として深く愛していました。
本気で幸せにしようとする彼女の真っ直ぐな姿勢に胸を打たれる人も多いでしょう。
だからこそ、恵理菜にもその記憶が深く刻まれていたのではないでしょうか。
血の繋がりがあってもうまくいかない関係もあれば、血の繋がりがなくても実の親子以上に大切に想い合える関係もあります。
本当に重要なのは血の繋がりや過ごした時間ではなく、心の繋がりなのかもしれません。
過去と向き合って答えを出した恵理菜の言葉がそのことを教えてくれます。
当たり前すぎて素通りしてしまう親子の関係や家族との向き合い方、本当の幸せについて改めて考えるきっかけになるでしょう。
また、過去の記憶をたどっていく中で描かれる小豆島の風景もストーリーの魅力を支えています。
懐かしさを覚える穏やかな田舎の景色が過去と現在を結び合わせ、すべての真実を包み込むように心に優しく響く作品です。
「Dear」は深い愛を歌う主題歌
本作の主題歌は、中島美嘉が映画のために描き下ろした『Dear』です。
この楽曲は活動休止から復帰後初のシングルで、杉山勝彦とタッグを組み作られた、映画のメッセージにマッチする美しいバラード曲となっています。
しっとりとしたイントロから始まるメロディは、様々な楽器の音色が重なり合い、音の深みと力強さを感じられるでしょう。
もう会うことができない大切な人から受けていた愛に気づくというストーリーの歌詞には、切なさがこみ上げます。
その一方で見えてくる、受けた愛を胸に新たな人生を進んでいこうとする前向きな気持ち。
柔らかくも説得力のある歌声がメッセージを高らかに歌い上げ、聴く人の気持ちを前向きにしてくれる1曲です。
PVはセピア色のレトロ感のある風景に鮮やかな青い蝶が飛ぶ幻想的な世界観が演出されており、楽曲の魅力をより一層感じやすくなっています。
映画から家族について考えよう
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映画『八日目の蝉』は、すでに親である人やいつか親になる人たちに観てほしい作品です。
子供が生まれれば親にはなれますが、子供と良い関係を築けるかはどれほど愛を示すかにかかっていることを教えてくれます。
そして、家族を裏切る軽率な行為が大切な人たちを傷つけてしまうという事実も、強烈に伝わってくるでしょう。
家族は1人で作れるものではなく、大切な人と関係を築いて作り上げるものです。
本作を観て、親になることの責任や家族の在り方についてそれぞれの立場でじっくり考えてみてください。
TEXT MarSali