裏の顔カップリング曲にこそ魅力が満載
ポルノグラフィティの楽曲の内、多くの歌詞を手がけて来たギタリストの新藤晴一いわく、シングル曲はバンドにおける表の顔、カップリング曲は裏の顔だそうです。
シングル曲は万人受けが良く、バンドの看板のようなものですから、表の顔というのはよく分かります。
看板があってこそ、自分らしい楽曲を作ることができます。
そういう意味では、カップリング曲にこそ、バンドの魅力が詰まっているのかもしれません。
表の顔を知って興味を持ち、裏の顔を見てさらに深みにハマる。
それこそが、音楽の楽しさではないでしょうか。
『アポロ』でデビューを果たし『ミュージック・アワー』『サウダージ』『アゲハ蝶』とヒット曲を連発してきたポルノグラフィティ。
そんな彼らだからこそ、あえてカップリング曲に目を向けることで、新たな魅力に出会うことができます。
では、ポルノグラフィティが放つ、裏の魅力へと迫っていきましょう。
「東京」を舞台にしたストーリー
『別れ話をしよう』は、2001年6月27日発売された6枚目のシングル『アゲハ蝶』に収録されたカップリング曲です。
このシングルには『別れ話をしよう』の他に表題曲の『アゲハ蝶』と『狼』という、夏にぴったりのアッパーチューン2曲が収録されています。
唯一、落ち着いたテンポの楽曲となっているのが『別れ話をしよう』です。
また、このシングルには一貫したテーマが添えられており『アゲハ蝶』は叶わぬ恋、『狼』は本能的な愛、『別れ話をしよう』は終わっていく恋が歌われています。
このことから男女の恋愛がテーマとなっていることが、分かります。
では『別れ話をしよう』で描かれる終わっていく恋とは一体どのような歌詞なのか、さっそくみていきましょう。
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「東京」ってにおいのする この暗いBarで
別れ話をはじめよう…バーボンかなぁ…ここは
この店を選んで 良かったと思った
テーブルのキャンドル 君を淡くぼかして
≪別れ話をしよう 歌詞より抜粋≫
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イントロからどこか哀愁が漂い、歌い出しから登場する「東京」が象徴的に使われています。
「東京」ってにおいのするバーと表現することで、聴き手が思うままに東京らしいバーを想像できます。
曖昧な表現により、かえって想像力をかき立てる仕掛けがさすがです。
薄暗く、おそらく客もまばらな落ち着いたバー。
その一角で別れ話を始める男女。
「この店を選んで良かった」と思う理由が、店内の薄暗さ。
この背景には、別れを切り出すことへの罪悪感や迷いが滲み出ています。
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できるなら涙など 見ないで済む方がいい
キモチガユラグ
あんなにも焦がれた 君の瞳が恐い
さまよう視線 遠く遠く遠く
≪別れ話をしよう 歌詞より抜粋≫
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もしも彼女の涙を見てしまったら、せっかく固めてきた決意が揺らいでしまう。
だから涙は見たくないなんて、勝手な言い分です。
それでも許せてしまうのは「キモチガユラグ」という歌詞が利いているからかもしれません。
あえてカタカナで表記することで「僕」の感情の揺らぎが、ストレートに伝わってきます。
その感情の揺らぎは、別れという決断を覆すほど大きなもので、不安要素なのでしょう。
誰だって、かつて愛した人の涙を見るのは辛いものです。
だからこそ、彼女の表情をぼやかしてくれるキャンドルにほっとしているのです。
「君の瞳が恐い」という歌詞が、移ろいゆく愛情の脆さを物語っています。
好きだった気持ちが薄れ、別れを告げる時には瞳を見ることができない。
残酷ですが、人の心というのはそういうものです。
自分勝手さと未練
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この煙草を消したら 席を立とう
二人の時間が終わる 灰になってく
空のグラスに目配せをするパーテンダー
少し迷って「同じのを」と答えた
≪別れ話をしよう 歌詞より抜粋≫
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帰りたいのに帰れない、断りたいのに上手く言葉が出てこない、ただズルズルと時間を過ごしてしまうもどかしさを、見事に表現した歌詞です。
「この煙草を消したら」と思いながらも、バーテンダーの声かけに、ついおかわりを頼んでしまう「僕」。
席を立ったら2人の関係が終わると考えると、優柔不断になってしまうのも無理はありません。
自分から別れ話を切り出しておきながら身勝手ですが、少なからず愛情が残っているからこそ、2人の時間を終わらせることができないのです。
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このこおり溶けるまで 恋人でいようよ
モウヒトトキ
今日までは愛する人 店を出たら遠い人
微笑みさえ 消すのは僕
≪別れ話をしよう 歌詞より抜粋≫
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残りわずかな時間だけでも恋人でいようとする「僕」の心情が痛いほど伝わってきます。
未練がましく繋ぎ止めるのには、彼女への懺悔もあるのでしょうか。
すっぱりと別れを告げてくれない中途半端な優しさが「君」にとって、どう映っているのか疑問です。
なかなか話が進まないもどかしさが、この楽曲全体を包み込むけだるさとリンクします。
彼女の視線を避けて、涙を見ないふりして、微笑みまで消して、ようやく2人の時間は終わりを迎えます。
まとわりつく嫉妬心
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いつかまた誰かと恋におちるんだろう
君の幸せを願うのは嘘じゃない
その唇を その髪を その乳房を
奪う誰かに嫉妬する勝手な僕
≪別れ話をしよう 歌詞より抜粋≫
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これから別れる恋人に、新たな恋人ができたら。
自分から別れ話をしておきながら、今度は嫉妬心が芽生えます。
自分の前でしか見せなかった表情や透き通る髪、しなやかな身体。
いつか現れるであろう自分以外の誰かに奪われる妄想をすでに掻き立てます。
「僕」が想像する未来は、かつて「僕」と「君」が過ごした過去でもあるのでしょう。
自ら手放す相手に嫉妬する、それを勝手だと知りながら止められない弱さが表れています。
「東京」が意味するもの
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また巡り逢うには 東京は広すぎる
ココデオワカレ
さっきまで愛した人 今はもう遠い人
じゃあ さよなら
ねぇ…恋人
≪別れ話をしよう 歌詞より抜粋≫
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ここでも「東京」が印象的に登場します。
人が蔓延る町だからこそ、今別れを告げたら、もう二度と会えない。
そう自分に言い聞かせることで、恋人への未練を断ち切ろうとしているようにも見えます。
こうしてみると『別れ話をしよう』における東京には、実在する町というよりは「トウキョウ」という抽象的なものとして存在しているのではないでしょうか。
人口が圧倒的に多く、行き交う人は名も知らぬ人ばかり。
そんな大都市を代表する「東京」は、別れたらもう二度とは会えない、永遠の別れを象徴しているのでしょう。
ポルノグラフィティは広島出身ですから、東京はまさしく大都会。
地方の人間目線で描かれた「東京」は、どこかよそよそしく、だからこそ都会を象徴する場所として、まさに最適なのです。
「僕」が恋い焦がれた人と別れを告げる場所が東京でなければならないのは、溢れかえる人の多さを理由に、永遠の別れができるからではないでしょうか。
「東京」というものを印象的に描き出した、傑作の楽曲だといえます。
TEXT 岡野ケイ