辿り着くのは、どこか切ない夏の始まり
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月が白く翳る朝
顔を擦る小さな猫
待ち合わせの街灯は
青い光ぶら下げ佇む
≪夏模様の猫 歌詞より抜粋≫
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『Official髭男dism』は今や日本を代表するバンドの1つで、キャッチーな歌詞と完成度の高いサウンドで熱狂的な支持を集めています。
彼らの楽曲『夏模様の猫』は、2020年8月5日に発表した『HELLO EP』に収録されているサマーナンバーです。
優しい歌声に乗った歌詞はどこか感傷的で、遠い記憶の初夏の日へ私達を連れ出してくれます。
そして、月がまだ空に残る初夏の夜明けから物語は始まります。
多くは語らずシンプルな言葉で夏の始まりを感じさせる詩に、染み込んでいるのは夜明けの空気かもしれません。
待ち合わせをしているのが人ではなく猫、と言う点もとても興味深いですね。
それがこの曲を、純粋でとても無垢なものに演出している様に思います。
また、ここで登場する「青い光をぶら下げている街頭」は、島根県の松江市にある「菅田公園」の犯罪抑制で青く光る街灯からインスピレーションを得たそうです。
夏を心から待ちわびる純粋な歌詞に釘付け
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この街を出て海が見える場所へ
夏の匂いを嗅ぎに行こう
抱き上げて自転車のカゴの中
君を乗せて旅に出るんだ
≪夏模様の猫 歌詞より抜粋≫
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そして2人、正しくは1人と一匹は、訪れたばかりの夏を探しに街を出るのです。
夜明けに海へ出かけて行くなんて、とても心が踊る歌詞ですね。一日の始まりから、夏を迎えに行こうとしているこの歌詞の主人公は、とても夏を心待ちにしていたのかもしれません。
潮風と朝の空気が混じった心地良い匂いは、想像するだけでたまらない気持ちにさせます。
そして自転車のカゴの中に入れた猫は、大切な友人や恋人のメタファーかもしれません。
主人公は自分の大切な存在を、美しい夏へ連れ出してあげたいのではないでしょうか。
一瞬で過ぎる夏への切なさに胸が掴まれる
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汗ばむ季節に置いて行かれぬように
ペダルを漕いだ
鈴の音は凛と響く朝
≪夏模様の猫 歌詞より抜粋≫
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長かったはずの夏休みは、駆け足で過ぎて行くものです。
主人公が、駆け出したばかりの夏に追いつこうとしている歌詞に、どこか焦燥感を覚えます。
それは決して悲しいものではありません。太陽に合わせて移ろう光の様に、追いつけないとわかっていても夏を追いかけずにはいられない純粋な気持ちに思えます。
ここで響く鈴の音は、おそらく猫の首輪のものでしょう。
猫なりの返事の様で、なんだか心が暖かくなりますね。
明け方の少し冷たい空気に響く凛とした音と、夏への旅立ち。
切なさの中にある前向きな心を表した美しい歌詞に、駆け出したくなる様な清々しい気持ちにさせられます。
景色が思い浮かぶ様な素晴らしい歌詞と、切なさを含むメロディーが私達に遠い日の初夏を思い出させてくれる曲に、繊細な感受性が垣間見えます。
そんな心を掴む歌詞も彼らの魅力の1つかもしれませんね。
そこには年齢は関係なく、どんな人も共感できる様な言葉達が溢れているのです。
是非、終わりゆく夏の日に、この曲で感傷旅行に出かけてみてはいかがですか?
TEXT 宮本采佳
Official髭男dism (オフィシャルヒゲダンディズム) 山陰発4人組ピアノPOPバンド。2012年6月7日結成、島根大学と松江高専の卒業生で結成されており、愛称は《ヒゲダン》。このバンド名には髭の似合う歳になっても、誰もがワクワクするような音楽をこのメンバーでずっと続けて行きたいという意思が···