「summertime」はTikTokがきっかけで世界中でヒット
ここ数年、バンド系を中心にポップミュージックの流行をガラッと塗り替えた印象の強いジャンルである、シティポップ。
オシャレな音像と、踊りたくなるようなビートの楽しさが特徴で、2010年代における邦楽シーンの一時代を築いたと言っても過言ではないでしょう。
その中で独自のサウンドを追求し続けるバンドcinnamonsとevening cinemaが、2017年にコラボリリースした楽曲『summertime』が人気を急上昇させています。
そのきっかけのひとつとなったのは、撮影した動画に好きな曲を載せて投稿することができるアプリ「TikTok」。
たくさんシェアされることで知名度を上げ人気を獲得するという、TikTok発のアーティストも近年少なくありません。
『summertime』もそのひとつで、印象的な歌い出しの歌詞「君の虜」をそのまま使った「Kimi No Toriko」の愛称で海外のTikTokユーザーからも親しまれています。
YouTubeに投稿されている公式MVは2020年9月現在1000万回を超える再生回数を記録しており、その爆発的なヒットを象徴していますね。
MVのコメント欄をのぞいてみると「なんだか懐かしい気持ちになる」「夏を感じる」といったコメントが寄せられています。
夏をおしゃれに演出する歌詞が楽曲の魅力の一つとなっていることがわかりますね。
今回は、そんな歌詞に注目して、楽曲のもつ世界観を探ってみましょう。
夏を舞台に「君」との恋を描く
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君の虜になってしまえばきっと
この夏は充実するのもっと
≪summertime 歌詞より抜粋≫
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『summertime』の幕開けを飾るのは「君の虜」という言葉が印象的なこちらの一節です。
きらびやかで明るい夏の情景を舞台に、恋の気持ちを描いたこの楽曲。
思いを寄せる「君」のことを好きになってしまえば、もっと「夏は充実」するのに、と悩む様子からスタートします。
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もう戻れなくたって忘れないで
何年経っても言えない 後悔したって構わない
でも言葉はここまで出てるの ねぇサマータイム
海岸通りを歩きたい ドライブだってしてみたい
ただ視線を合わせて欲しいの ねぇサマータイム
≪summertime 歌詞より抜粋≫
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歌詞の主人公は「何年」も自分の想いを伝えられていないことがわかります。
ずっと友達として接してきたのでしょうか。
次第に膨らんできた恋心がとうとう爆発寸前となり「後悔したって構わない」と考えるほどに思い詰めています。
好きの気持ちを伝えたいけれど、もしも受け止めてもらえなかったらこの楽しい毎日はなくなってしまう。
そんな葛藤の中で「言葉はここまで出てる」と言いたくても言えないギリギリの状態となった主人公。
この気持ちに共感できる方も多いのではないでしょうか。
複雑な恋心に思わず胸を焦がしてしまいますね。
海岸沿いを歩いたり、ドライブをしたり、そんな夏らしいデートを夢見る主人公。
すぐ近くにいるのに、ただの友達止まりのままの「君」に「視線を合わせて欲しい」と願うその姿はとてももどかしく、切ないものとなっています。
あと一歩が踏み出せない
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噂のドリーミンガール、忘れないで
でも気持ちを伝えてしまえばいつか
この夢は覚めてしまうだろうな
≪summertime 歌詞より抜粋≫
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主人公は恋が始まるかもしれないドキドキ感と同時に、気持ちを伝えることの怖さも抱えています。
思い切って自分の本心を相手にさらけ出してしまったら「夢は覚めてしまう」かもしれないと悩んでいます。
それもあと一歩を踏み出せない理由の一つになっているのかもしれません。
好きな人ができたときに、その想いを伝えるべきかどうか、悩んだ経験のある人もきっと多いとおもいます。
好きだと伝えなければ、友達のままだけど、もしも断られてしまったらと思うとなかなか言い出せない。
あるいは、もう出来上がっているこの関係を崩したくない。
そんなふうに、先が見えずに不安になった記憶にきっと心当たりがあるでしょう。
誰しもが持つ恋の悩みをおしゃれな舞台で演出して見せる『summertime』の歌詞。
それはたくさんの人の淡い記憶を呼び起こし、感化していきます。
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でも気持ちを伝えてしまえば いつか
この夢は覚めてしまうだろうな
青い影が揺れる街角
≪summertime 歌詞より抜粋≫
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楽曲を締めくくる歌詞では、あふれ出る想いをぐっとこらえて夏の美しさを言葉に表現しています。
「青い影」という言葉は、いったいどんなものを表した表現なのでしょうか。
夏の「街角」にたたずんで風景と溶け合う「君」の姿の美しさでしょうか。
あるいは自分の中で芽生えてきた、恋に踏み出すことに対する後ろ向きな気持ちを言い換えて表現したのかもしれません。
夏の思い出を呼び覚ます
甘酸っぱい、ひと夏の恋。
あとになって思い返してみれば、決してうまくいったとは言えないけれど、なりふりかまわず頑張っていたことがどこか懐かしい。
そんな思い出が、うだるような暑さや日差しの強さと一緒に風景となって記憶され、ノスタルジックな夏の香りとともによみがえる。
『summertime』は素敵な思い出を聴き手の心に描いています。
そしてそれを支える夏らしいサウンドも相まって、夏ソングの新しい定番として聴き継がれるような一曲となっているように感じられます。
ぜひあの時の夏を思い出しながら、聴いてみてくださいね。
TEXT ヨギ イチロウ