ポルノグラフィティが描き出す近未来
『空想科学少年』は、2001年2月28日発売の2枚目のオリジナルアルバム『foo?』に収録された楽曲です。
個性的なイントロはテンポもよく、一度聴いたら耳から離れません。
作詞を担当したのはギタリストの新藤晴一。
近未来と少年を融合させて描いた歌詞は、彼にしか表現できない世界観となっています。
他にも近未来を描いた楽曲は多数存在しており、2ndシングル『ヒトリノ夜』では空飛ぶ車、17thシングル『ネオメロドラマティック』では感情の消えた町が登場します。
まるでSF小説のような世界観と、岡野昭仁のリズミカルな歌声。
それだけで「作り物」を「本物」に変えてしまう力に圧倒されます。
そんな彼らが描く近未来の楽曲の中から『空想科学少年』の歌詞の内容に触れていきましょう。
子供心に抱く理想の未来
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ラララ 僕が大人になる頃には
さらに科学は理想の世界を創る
ララ 呼吸をしない犬はもういるから
僕自身もまもなくロボットになれる
≪空想科学少年 歌詞より抜粋≫
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子供の頃、近未来についてあれこれ想像を膨らませた人は少なくないでしょう。
今よりもっと科学が発展したら世界はどんな風に変わるのか、人はどんな生活を送るのか。
そんなことを空想して、胸をときめかせた人もいるかもしれません。
「呼吸をしない犬」というのが現実世界とリンクしていてとてもリアルです。
実際に、科学は現在も進歩を続け、犬型ロボットや介護ロボットといった、人の心を豊かにする機械が数多く生み出されています。
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ハートも鉄になるのさ
傷ついたら取りかえよう
あの子のことも忘れれる
≪空想科学少年 歌詞より抜粋≫
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心を持たない犬型ロボットが存在するなら、人間の心が鉄に変わるのもそう遠くない未来なのかもしれません。
少年が心を持たない人間に期待を寄せる理由は、傷つかないためといった単純明快な子供らしい発想。
気になる「あの子」にフラれてしまったのか、すでに彼氏がいたのかは定かではありませんが、幼い恋心が傷を負ったことは確かです。
幼少期の失恋は、あとになって思えば甘酸っぱいものです。
しかし今を精一杯生きる子供にとってみれば、とても辛いものでしょう。
だからこそ、犬型ロボットのように、心を持たない人間になりたいと願うのです。
まるで機械を修理するように、傷ついた心も簡単に修理できるように。
幼い心が追い求める「Utopia」
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Utopia
感情なんてもういらないよ 大嫌いさnothing nothing
曖昧に濁した答えもやさしさなのかな?
Utopia
丈夫な心が欲しい 痛いのはもう嫌なんだ
トビラを開けて下さい 穏やかな明日へ
純情をぶつけた見返りが Monkey Dance!
≪空想科学少年 歌詞より抜粋≫
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『空想科学少年』のサビには何度も「Utopia」が登場します。
繰り返し登場することで、聴く人の耳に残る「Utopia」という響き。
それが意味するのは、ただ失恋の痛みから解放されたいだけの幼稚な心が求める理想郷ともいえる逃げ道です。
好きなあの子に思いを告げたのに、返ってきた答えはとても曖昧。
それは好きな人がいるからなのか、単純に「僕」が好みではないのか。
答えをぼやかした理由が彼女の優しさから来るものなのかどうか、考えあぐねてしまいます。
しかしどちらにしても、幼い「僕」には受け止めきれないものだったのでしょう。
「丈夫な心が欲しい、痛いのはもう嫌なんだ」という歌詞に、純粋な恋心を打ち砕かれた「僕」の嘆きが滲み出ています。
コンプレックスのない世界
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ラララ 街は生身では危険すぎる
もはやここに温もりなどはない
ルックスも選べれるのさ
これでコンプレックスとお別れ
みんないっしょ同じ顔
≪空想科学少年 歌詞より抜粋≫
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「あの子」にフラれたのは、顔が原因なのか、性格なのか、それとも好きな人がいたのか。
理由は「あの子」にしか分かりません。しかし、年頃になるとコンプレックスが嫌でも気になるものです。
ましてや、好きな子に振り向いてもらえなかったとあれば、自分のルックスに自信を失ってしまうこともあるでしょう。
“もっと科学が発展した世界なら、そんな悩みもなくなるのではないか。”
“みんな同じ顔なら、誰も傷つかないんじゃないか。”
そんな希望を抱いてしまうところに幼さを感じます。
まさに『空想科学少年』ですね。
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Utopia
あの子ももういらないよ 雨の中でnothing nothing
うつろう人の気持ちに期待などしない
Utopia
そこには探している完全な自由があって
僕には名前もなくて僕は誰かで
紛れてく 消しさってくれるよ Monkey POW!
≪空想科学少年 歌詞より抜粋≫
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地球上の人間が同じ顔になれば「あの子」に執着する必要もありません。
また、自分を好きになってくれない人になんて興味はない、という強がりにも聞こえます。
「僕には名前もなくて僕は誰かで」という歌詞に「個」を失う気楽さと怖さを感じます。
自分というものを消し去って「誰か」になることで、心の痛みから解放されたい。
そんな願いがとても痛々しくもあり、少年らしさなのです。
新藤晴一が描く少年の心
『空想科学少年』は、タイトルにもある通り、少年が思い描く未来の世界を歌っています。
まだ幼さの残る少年であるが故に、願いはどれも小さく、可愛らしいものばかり。
自分の身に起こったことを心で受け止めきれず、戸惑ったり傷ついたりする感情を、思春期の少年らしい繊細さで描き出しているのです。
それなのに、どこか物事を冷静に受け止める視線もあります。
新藤晴一を通して描かれる少年の子供らしさと大人っぽさの混在。
心を持たないロボットを連想させ、いかにも進歩した世界に誘い込みながら、実際にはただ、傷つきたくないだけという人間臭さを対比。
未来っぽさと人間らしい生身の心を融合させた、新藤晴一ならではの世界観なのです。
作詞という形でポルノグラフィティらしさを確率してきた新藤晴一の圧倒的な表現力に触れられる、名曲のひとつといえます。
TEXT 岡野ケイ