武藤彩未の「レトロPOP」
幼少期にモデルとして芸能活動を開始し、キッズグループ「可憐Girl’s」、アイドルグループ「さくら学院」での活動を経た後、ソロシンガーとしてスタートした武藤彩未。
抜群の歌唱力と表現力を持つ彼女の原点は、松田聖子をはじめとする1980年代のアイドルたちです。
彼女の父親が競走馬の調教師のため、厩舎近くの物音を立てられない環境で育った彼女。
その中で音楽に触れられた場所は、主に外出する時の車の中でした。
そこで流れていたのが、両親が好きだった80年代アイドルの曲。こうして、武藤彩未の中に80年代のDNAが受け継がれたんですね。
彼女の新曲『マーマレード』も、歌謡曲とJ-POPの魅力が重なった、彼女ならではの「レトロPOP」と呼ばれる楽曲。
作詞は彼女自身が作ったものを、作曲の御供信弘と話し合って完成させたそうです。さっそく歌詞を見ていきましょう。
マーマレード色の風景が広がる歌詞
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川沿いの道を歩く
二人の手重なってゆく
瞳に映る夕焼けは
今日もきれいで
≪マーマレード 歌詞より抜粋≫
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冒頭のフレーズからは、夕焼けに包まれた学校からの帰り道、川沿いの道を並んで歩く男女の姿が思い浮かぶでしょう。
歩くたび触れ合う手が少しずつ重なっていく。
照れながら見上げた彼の瞳は、夕日が写り込んでキラキラと輝いている。
『マーマレード』という曲の始まりにピッタリの、オレンジ色の風景が一瞬にして目の前に広がるような歌詞ですよね。
少女漫画のような世界に胸キュン
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片耳ずつのイヤホン
同じ曲口ずさみ
思い出のプレイリストで
胸が高鳴り弾む
≪マーマレード 歌詞より抜粋≫
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1つのイヤホンを2人で片耳づつ分けあって同じ曲を聴く。このシチュエーションは、女子中高生の夢ではないでしょうか。
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星明かり灯り出した
明日はどこへ行こうか
これからも二人の未来
おそろいでありますように
≪マーマレード 歌詞より抜粋≫
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やがて夕日が沈んで夜空に星が瞬き出し、それぞれ家路へと向かう二人。
星空の下、明日を楽しみにしながら歩く女の子の表情が思い浮かぶような歌詞です。
作詞をする際、映画や友人のストーリーをモチーフにして、楽曲の世界を作り上げていくという武藤彩未。
『マーマレード』も、少女漫画のような世界観に引き込まれますね。
憧れの作詞家は松本隆
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代わり映えない毎日にも
幸せひとつひとつ
すれ違い泣いていた夜さえも
愛おしく思えるよ
≪マーマレード 歌詞より抜粋≫
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これまで、恋する女の子の幸せな時間を描いていた『マーマレード』。
しかし、このフレーズで思い出を歌っていたのだと気づかされるでしょう。この恋は、既に終わっていたんですね。
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もしも願いが叶うのなら
時計の針戻して
≪マーマレード 歌詞より抜粋≫
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「時計の針戻して」という表現は、松田聖子の『時間の国のアリス』の中の「魔法の時計逆にまわせば」という歌詞を連想させるのではないでしょうか。
80年代アイドルの中でも、特に松田聖子に憧れているという武藤彩未。
彼女にとって『時間の国のアリス』を含む、松田聖子の多くの楽曲を手がけた作詞家、松本隆は「神」のような存在だと語っています。
幸せの絶頂から、恋が終わった後へと視点が変化していくこの曲の歌詞には、松本隆のストリー性豊かな歌詞と共通するものがあるのではないでしょうか。
武藤彩未のプロ精神
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一日の終わりに思い出すよ
君の隣で
胸に抱いてた
オレンジ色の気持ち
≪マーマレード 歌詞より抜粋≫
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「オレンジ色の気持ち」とは、恋している時の甘い喜び、酸っぱい切なさ、そして、すれ違うほろ苦さを意味しているような気がします。
その気持ちを1日の終わりに大切に思い出す光景で幕を閉じるこの曲は、多くの人に恋愛の甘酸っぱさを思い出させてくれるでしょう。
2020年3月にリリースされたミニアルバム『MIRRORS』から作詞に挑戦し、作曲の前にまずは「歌詞を極めたい」と語る彼女。
妥協することなく1つづつ自分のものにしようとしている姿には、松田聖子にも通じるプロ精神を感じます。
これからどんなアーティストになっていくのか楽しみですよね。
TEXT 岡倉綾子