名作ドラマシリーズの製作チームが日本の闇を描く
2008年公開の映画『誰も守ってくれない』は、犯罪者の妹となった少女と彼女を保護する刑事の逃避行を描く社会派ヒューマンドラマです。
君塚良一監督をはじめとする大人気ドラマシリーズ『踊る大捜査線』のスタッフが、10年間もの構想を経て製作しました。
容疑者家族の保護にスポットを当て、マスコミやネットの糾弾の恐ろしさをテーマとしています。
知られざる日本の闇を取り上げたことから、第32回モントリオール世界映画祭で専門家たちが絶賛し、最優秀脚本賞を受賞しました。
日本人として見逃してはいけない本作のあらすじや見どころを紹介します。
映画「誰も守ってくれない」のあらすじ
家族崩壊の危機に直面していた刑事の勝浦。
中学生の娘の発案で仲直りのための家族旅行を計画していたものの、直前で小学生姉妹の惨殺事件が起こり、休暇は取り消しに。
彼は上司から、同僚の三島と容疑者家族の保護にあたるよう指示されます。
初めての職務に何から保護するのか疑問を持ったものの、その答えはすぐに明らかになります。
犯人である18歳の少年が逮捕されると、その妹の船村沙織を含む家族がマスコミや世間からの注目を集めるようになりました。
マスコミを振り切って沙織の事情聴取をしようとしますが、すぐに居場所を特定されてうまくいきません。
三島が少年宅の家宅捜索に加わることになったため、勝浦は沙織を自身のアパートに匿います。
ところが、彼女の携帯電話を取りに少年宅へ向かうと母親が自殺を図り、死亡してしまいました。
交際相手からの連絡で母親の死を知らされた沙織は、誰も守ってくれない現実を知り、口を閉ざします。
一方、ネット上では「だいまじん」と名乗る人物らによって、沙織や彼女を匿う勝浦の個人情報が晒されていました。
豪華キャストによるリアルな演技が胸を打つ
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本作の主演を務めるのは、日本映画界の名優である佐藤浩市です。
不満や苛立ちを隠さない現実的なキャラクターを等身大に表現し、リアルで人間味を感じさせる主人公を好演しています。
ヒロインとなる容疑者の妹を演じるのは、ドラマ『14才の母』での演技が高く評価された志田未来です。
明るい学校生活から一変、追われる身になった思春期の少女の微妙な心情を丁寧に演じています。
互いに心に闇を抱える2人が事件を介して徐々に心を通わせていく様子が、巧みな演技で見事に映し出されています。
さらに松田龍平、石田ゆり子、佐々木蔵之介、佐野史郎、木村佳乃、柳葉敏郎という豪華キャストが出演。
リハーサルからカメラを回し続けるセミドキュメンタリー風に仕上げているため、キャストの表情や仕草がよりリアルに切り取られています。
事件の裏に潜む社会問題と生き方を考えさせられる重厚ストーリー
本作では、ネットやSNS上での誹謗中傷が問題化される今、理不尽な現実と、それに流される人の弱さがはっきりと描かれています。
近年、容疑者家族のみならず被害者家族さえ好奇の目に晒される問題が多発しているのが現状です。
さらに、全く関係ない人がデマで苦しむ事態にまで陥っています。
糾弾が過激化する理由は、行き過ぎた正義感や好奇心、ストレス解消など様々あるでしょう。
しかしどんな理由があるとしても、他人を誹謗中傷していい理由にはなりません。
気軽に考えを発信できる場が増えているからこそ、自身の言葉が人の人生を狂わせてしまうかもしれないという事実を、誰もが理解する必要があります。
そして、自身の知識やマスコミの情報をすべて鵜呑みにせず、常に正確な情報だけを取り入れていきたいものです。
また、すべてを失ったように思えた沙織への勝浦の言葉は、多くの人の心に刺さるでしょう。
彼は彼女を守る任務を与えられていますが、いつまでもそばで守っていられるわけではありません。
だからこそ、まだ15歳の少女である彼女に強く生きるよう励まします。
守ってもらうのではなく、自らが自身と家族を守るという堅い意思を持つことが大切だと熱く教えています。
つらい状況の中では、生きるのが難しく感じることもあるはずです。
しかし、沙織にとっての勝浦のように、生きる力になってくれる人が必ずいます。
そんな確信と生きる勇気がもらえる作品です。
「あなたがいるから」は聴く人の心を癒やす主題歌
本作の主題歌は、イギリスのソプラノユニットのリベラが歌う『あなたがいるから(You Were There)』です。
君塚監督が以前からリベラの透明感のある歌声を気に入っていたそうで、登場人物たちを癒やすような音楽を主題歌にしたいという思いからリベラにオファーしました。
制作されたこの楽曲は、ピアノによる荘厳なメロディがゆったりと心地よく流れるクラシック曲です。
歌詞には、常にそばにいて自身を見守ってくれる温かな存在について描かれています。
その存在があるからこそ、強く生きられるという想いの深さが感じ取れるでしょう。
そして、繊細な歌声はまさにエンジェルボイスで、そのハーモニーが歌詞の美しさをより引き立てています。
物語の中で傷を負っている登場人物たちだけでなく、聴く人すべての心まで包み込み、赦しを与えてくれるような穏やかな主題歌です。
映画「誰も守ってくれない」でネット社会の真実を見つめよう
映画『誰も守ってくれない』は、見逃しがちな現代社会の真実を映し出す作品です。
ネットの利便性の裏には人の弱さと恐ろしさが潜んでいて、人を傷つける武器にさえなり得ます。
未成年だとしても罪を犯せば償うことは当然ですが、過剰な糾弾に晒される容疑者家族も、ある意味で被害者なのです。
容疑者家族の緊迫した日常を描く本作は、誰もがネットを介していつ加害者や被害者になってもおかしくないことを伝えています。
映画『誰も守ってくれない』を観て、日本社会の真実を見つめ直しましょう。
TEXT MarSali