リアルな日常のシーンはどこか切ない
2020年10月にリリースされたクリープハイプの『モノマネ』は、劇場アニメ『どうにかなる日々』の主題歌として話題を呼んでいます。尾崎世界観が作詞作曲をしたこの楽曲は、誰もが経験したことがあるような身近な日常を生々しく描いたクリープハイプらしい作品です。
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シャンプーの泡 頭に乗せて ふざけるから
楽しくなって よそ見するから ほらリンス忘れてる
≪モノマネ 歌詞より抜粋≫
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『モノマネ』というタイトル、一見なんのことかよく分からないと感じますが、歌詞を読んでいくと”恋人との付き合いの長さと深さ”を意味しているのではないかと思えてきます。
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いつもとおんなじ道を歩いて いつもとおんなじ空を見る
同じキーホルダーをつけた鍵は何から何までそっくりだった
おんなじ家に帰る幸せ おんなじテレビで笑う幸せ
このモノマネ全然似てないね 下手だって 馬鹿にしてたけど
似てないのは もしかしたらひょっとしたらひょっとした
≪モノマネ 歌詞より抜粋≫
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繰り返される”いつもおんなじ”という歌詞からは、おなじ生活を共にしてきた親密さが感じられます。
生活を共にすることで似たもの同士になってきた。
でもそれは『モノマネ』であって本当の自分ではない。
そのことに気づいてしまい、決別する2人の姿が浮かんでくるようなフレーズも歌詞には描かれています。
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いつもとおんなじ道を歩いて いつもとおんなじ空を見る
同じキーホルダーをつけた鍵は何から何までそっくりだった
おんなじ家に帰る幸せ おんなじテレビで笑う幸せ
このモノマネ全然似てないね 下手だって 馬鹿にしてたけど
似てないのは もしかしたらひょっとしたらひょっとした
≪モノマネ 歌詞より抜粋≫
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クリープハイプの名曲「ボーイズENDガールズ」の続編?
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シャンプーの泡 頭に乗せて ふざけるから
楽しくなって よそ見するから ほらリンス忘れてる
それから体 洗い流せば おんなじ匂い
嬉しくなって でもその分 小さくなる石鹸
いつもとおんなじ道を歩いて いつもとおんなじ空を見る
同じキーホルダーをつけた鍵は何から何までそっくりだった
≪モノマネ 歌詞より抜粋≫
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『モノマネ』のメロディーや歌詞に、なぜか懐かしさを感じる人も多いのではないでしょうか。
シャンプー、匂い、おんなじ空、キーホルダー。
これらはクリープハイプの名曲『ボーイズENDガールズ』にも登場するワードです。
こちらが『ボーイズENDガールズ』の歌詞です。
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いつでもあなたのそばに居たいとか同じキーホルダーをぶら下げて
離れていても心は近くだって思ってたいの
おんなじ空を見ていたい今日もおんなじ空を見上げたい
あなたとあなたとあなたとあなたとあなたと
シャンプーの匂いが消えないうちに早く会いに風が吹いても大丈夫だよ
≪ボーイズENDガールズ 歌詞より抜粋≫
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タイトルを”AND”ではなく”END”にすることで、この曲に登場する男女がいつか終わるということを示唆しているのだとしたら、『モノマネ』で描かれる世界は『ボーイズENDガールズ』の続きなのかもしれません。
「モノマネ」というタイトルに込められたメッセージ
『モノマネ』のMVでは、恋人たちが仲良さそうに過ごすシーンと、チャップリンのような化粧を施した男性が異性と楽しそうに過ごす女性を見つめるというシーンで作られています。
おんなじ時間を過ごして知っている気になっていた恋人のことを、実は全く理解できていなかった、似た者同士だと思っていたパートナーが全然知らない人のようだった。
この映像は、まるで2人の距離が遠くなる、別れを決定づける瞬間を描いているようですね。
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違うところに怒る不幸せ 違う気持ちを許す幸せ
あたしのこと全然見てないじゃん もういいって不貞腐れてたけど
見てないのは もしかしたらひょっとしたらひょっとした
でもあなたが笑ってたから何も知らないあたしはただ笑ってた
≪モノマネ 歌詞より抜粋≫
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“何も知らないあたしはただ笑ってた”という歌詞には、相手のことを知った気になっていただけだったという意味が込められているのではないでしょうか。
そして、”知った気になっていた”ことを『モノマネ』というタイトルに繋げているのかもしれません。
失恋の辛さが凝縮されたラストシーン
MVの最後は、男性が大泣きするシーンでエンディングを迎えます。
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ある晴れたそんな日の思い出 どこにでもある毎日が
今もどこかで続いてるような 気がして 探して
全然似てない 今更泣いても酷いモノマネだな
やっぱり似てない 今更泣いても酷いモノマネだな
≪モノマネ 歌詞より抜粋≫
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2人がおんなじ空を見上げていた日を感じさせるような、”ある晴れた日の思い出”を今でも探してしまう、恋を引きずり失恋に苦しむ姿が描かれているようです。
しかし、楽曲は“酷いモノマネ”という2人の関係性の悪さを感じさせるフレーズで締めくくられています。
思い出を引きずるようなラストではなく、より距離が遠ざかるように終わる。
もう元に戻ることはないという決意や諦め、少しの強がりといった、誰もが経験したことのある失恋の辛さを表現しているのかもしれません。
聞いているだけで泣きたくなるような生々しい世界観の楽曲でリスナーの心を掴み続けるクリープハイプ。
これからどんな世界を見せてくれるのか、ますます楽しみになる1曲です。
TEXT 阿部仁美