2019年80年代風アイドルというコンセプトで、ソロプロジェクトをスタートさせた彼女から、新曲が届いた。
シンガーソングライター加藤登紀子氏の「時には昔の話を」のカバーだ。
女優としての顔も持つ加藤氏。スタジオジブリ制作の長編映画『紅の豚』に登場するシャンソン歌手、マダム・ジーナの声を務めた。
そのエンディンディングテーマが「時には昔の話を」である。
これまでの作品とは、ガラリと変わったジャンル、哀愁あるバラード曲を、新井ひとみはどう解釈し、自分の歌にしていったのか。
そこには、楽曲に対するリスペクトがありました。
新井ひとみの歌への純粋な思いは、キラキラ眩しくて、他人を元気にしちゃうくらいのエネルギーがあったのです。
親衛隊もびっくり!?
──「時には昔の話を」は、加藤登紀子さんのカバー。まずは今回、シングルになった経緯を教えてください。新井ひとみ:1stシングルで『デリケートに好きして』、2ndシングルに『少女A』を出させていただいて、次は何をしようかなって考えていた時に、スタッフさんが曲の候補を出してくれたんです。5曲くらいあって、全部カラオケで歌ってみたんですね。
候補曲に出してもらった時に、初めて「時には昔の話を」を聴いたんですけど、この曲の歌詞が、今の状況……みんなに会えないとかっていうのと重なって、個人的にグッときたんです。で「私、この曲を歌いたいです」って言ったんですね。最終的に「時には昔の話を」に決まったんですけど、決まった時はとても嬉しかったです。あと、『少女A』を選んだ時もそうだったんですけど、親衛隊の皆さんにも、びっくりしてもらいたいなって思ったんですよね。
──いいですね、ファンの方を親衛隊って呼ぶ形。そこも80年代そのものですね。
新井ひとみ:(笑)。そうですよね。バラードっていうのでもびっくりさせたかったんです。今までは可愛くてポップな曲、力強くてポジティヴな曲とか歌っていたんですけど、バラード曲って歌ったことが無かったから、私にとっても挑戦だったんです。でも、皆さんもこのびっくりを楽しんでくれたらいいなと思いました。
歌詞の中の「写真」に共感
──歌詞を自分なりに解釈して、そこに思い入れがあった。歌詞を理解して歌うのは、新井さんにとって大切なこと?新井ひとみ:そうですね。私、歌うことが大好きなんです。でも歌う前に、必ず歌詞を自分の中に一旦入れるようにしています。今回の曲は、昔の思い出を振り返っている内容に共感して。私の両親が、私の昔の写真をちゃんととってくれていて、実家に帰った時には、毎回それを観るっていうのが定番になっていて。もう、本当に何回も見ているんですけど。
──ご両親がちゃんとアルバムにしてくれてるんだ。
新井ひとみ:そうなんです。
──素敵なご両親ですね。宝物だよね、そのアルバム。
新井ひとみ:そうなんです!
──小さい頃からの写真はもちろん、東京女子流でデビューしてからの写真も?
新井ひとみ:はい、そうです。ちゃんと歴史を追って。
──その写真を見ながらどんなことを思うの?
新井ひとみ:「あぁ、こんなに小さかったんだ」とか「この時は、こんな風だったんだ」とか、昔を振り返ることが多いですよね、やっぱり。『時には昔の話を』の歌詞に「一枚残った写真をごらんよ」って言葉があるんですけど、歌っていて「私も写真見てるな」とか思うから、気持ちも感情もよくのるというか。共感出来るところがあるんです。
──例えば、歌詞の中に「なじみのあの店」とかあるじゃないですか。そうすると、自分の中で通っていたお店が浮かんだり?
新井ひとみ:はい、その通りです。
──その共感力とイマジネーションはすごいですね。特技のレベル。
新井ひとみ:でも、「時には昔の話を」の歌詞の中には、自分で経験したことが無いことも、たくさんあるので、「あぁそういうこともあったのか、私だったらどうなのかな」とか、想像しながら歌うんです。
歌詞から起伏を感じて
──では、この「時には昔の話を」の中で、歌詞を見ていいなと思った部分と、自分が歌ってて1番感情が入るなって部分を教えていただけますか?新井ひとみ:あぁ、それは、どっちも共通するところがあって。この曲の歌詞って「そうだね」とか「どこかで」とかって言葉が、サビの最後に入っているんですね。全体を通した上で、この言葉を最後に持って来ていることによって、余韻とか、希望感とかを感じるんです。だから、そこに感情や気持ちが集中しているように思っていて。レコーディングの時も、そこに重点を置いて歌わせていただきました。それで「すごい、気持ちのってるね」とか言っていただいて、ちゃんと伝わってるな、と。自分で歌っていても、気持ちが1番のってくる部分ですね。
──なるほど。この曲のオリジナルは加藤登紀子さんですよね。声といい、歌い方といい、圧倒的な存在感があるアーティストですよね。そこのプレッシャーはなかった?
新井ひとみ:プレッシャーよりも、歌いたいって思いの方が強かったと思います。加藤登紀子さんは、やっぱり大きな存在感のある方。歌にもすごく感情が込められているし、すごく個性的な雰囲気もある。私も最初は、そんな風に歌いたいなと思ったんです。でも、歌詞を繰り返し読んだり、何度も曲を聴いたり、レコーディング前に自分で歌っている中で、そうじゃなく、自分なりにどうやって歌うことが出来るんだろうって考えたんです。
加藤登紀子さんは、絶対的にこう……登紀子さんだからこその芯を持ってる。だったら、私も私なりの芯を持ちたいなと思いました。自分だったらどう伝えるかっていうのを意識しながら、全体像みたいなのを作っていったんです。
広がっていくイメージ
──自分なりの全体像を具体的に教えていただけますか?新井ひとみ:柔らかい感じで、問いかけるような感じで歌おう、と。この曲って、Aメロ、Bメロでは低音が効いてて、でもサビのところでは壮大な感じがある。それから、3番により伝えたいことがぎっしり詰まっていると思ったので、後半に向けて、深みを増したような歌い方をしていこうと思って、そうなるように歌いました。
──グラデーションをつけていったんですね。
新井ひとみ:そうです。3番に向かって、広がっていくような感じです。
──歌の細かいニュアンスの話になるんですけど「時には」の「は」の部分とか、オリジナルと比べると、ちょっとこう……少し前に置くように歌っている気がする。
新井ひとみ:そうです! そうなんです。
――他の部分も、センテンスの最後の一音に、違うアプローチをかけてる。それを聴いて「あぁ、ちゃんと歌詞を自分の中に入れて歌っているんだな」と思いました。原曲にひっぱられてない。
新井ひとみ:あぁ、すごく嬉しいです。
高音より低音が得意
──前回の「少女A」と「時には昔の話を」って、結構、低音がひとつの肝になる曲だと思うんです。80年代の女性アイドルって、中高音から高音にピークやキラキラを持って来る人が多かったんですけど、でも、例えば「少女A」の中森明菜さんは違って、だから無二の存在になったと思うんですけど、低音が肝になる曲が続いたのは偶然?新井ひとみ:偶然ですね。好きな曲を選んだら、そうなっちゃったという(一同笑)。でも私自身、高音よりも低音を得意としているので歌いやすかったです。
──なるほど。えーと……少し意地悪な質問になっちゃうんですけど……。
新井ひとみ:大丈夫です!(笑)
──ありがとうございます。低音の方が得意という言葉が出ましたが、ここは私の見解も入ってくるんですけど、低音でアイドルらしさを出すのって、結構、難しいいんじゃないかと思うんですよ。そこはどう心がけました?
新井ひとみ:前作「少女A」は思い切ってドスのきいた感じで歌ったんですよね。
──そうですね。80年代の言葉で言うならタンカを切る感じ。
新井ひとみ:そうです。でも「時には昔の話を」は、低いんですけど、なるべく明るく出すように心がけました。はっきりと滑舌も意識して、明るく言葉を置きにいく感じにしたんです。やっぱり、伝えるからには、はっきり聴こえないとダメだなとまず思って。さらに変化を付けるために、明るさを加えた感じですね。
──わかりました。新井さんの芯には、まず歌うことがあるんですね。
新井ひとみ:そうですね。まず、歌を伝えたいっていうのがあります。