豪華アーティストが「おとぎ話×音楽」を実現
2020年10月12日、突如としてYoutubeに現れた男性グループ「Honey Bee」。深くフードをかぶり、顔を隠した謎の集団であったにも関わらず、彼らが配信した『狼青年』のMVは凄まじい勢いで拡散されました。
2ヶ月後の12月15日には、再生数1000万回を突破しました。
その後、彼らの正体がジャニーズのHey!Say!JUMPだったことが発表され、さらなる話題を呼びました。
『狼青年』は、2020年12月16日に発売されたアルバム『Fab!-Music speaks.-』に収録されています。
アルバム名の「Fab!」とは「Fabulous」の略。
「信じがたいほどの、素晴らしい」や「寓話上の、伝説的な」といった意味を持っています。
そのためアルバムに収録されている全ての楽曲が童話を基に題材を得ています。
それらを清水翔太や岡崎体育など、豪華アーティストが楽曲制作し、非常に斬新的な作品が出来上がりました。
『狼青年』にも「赤ずきん」「3匹の子豚」など、いくつかの寓話が取り入れられています。
中でもメインのモチーフとなっているのが、イソップ寓話の「オオカミ少年」です。
簡単なあらすじは以下の通りです。
羊飼いの少年が、退屈しのぎに「オオカミが来た」という嘘を度々吹聴して、大人たちからかっていました。次第に大人たちはこの少年の言うことを信じなくなり、本当にオオカミが来た時には少年が大声で助けを求めても、誰も家から出てきませんでした。
結末は出版社や国によって異なりますが、羊がオオカミに食べられてしまった、もしくは少年がオオカミに襲われてしまったという終わり方が有名です。
この少し残酷な物語をエッセンスに楽曲制作したのが、4人組ロックバンド女王蜂のボーカル、アヴちゃんこと薔薇園アヴです。
女王蜂は、アヴの中性的な魅力や幅広い音域を活かしたダイナミックな楽曲が特徴的なバンドです。『狼青年』でも、その爆発力が存分に発揮されています。
また、振付を担当したのは、独創的な世界観を創り続けるダンスグループ、東京ゲゲゲイのMARIEです。
公式が公開した「狼青年」のMVでは、手元や足元の細部までこだわった振付や、瞬く間に変化していくフォーメーションなど、Hey!Say!JUMPの強みを活かしたダンスで構成されています。
女王蜂のアヴ×東京ゲゲゲイのMARIEで引き起こされた化学反応は、確実にHey!Say!JUMPを新たなステージへと誘いました。
歌詞から読み解く登場人物の関係性
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「僕と俺」とを使い分けて
心ゆくまで嘘を吐く
怖いものを知らない真実が冷たく光る
≪狼青年 歌詞より抜粋≫
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冒頭から「僕と俺」という言葉から、青年の中に全く異なる2面性が存在することが分かります。
「オオカミ少年」のテーマでもある「嘘」の要素が、冒頭から散りばめられています。
異なる人格を都合よく切り替えながら嘘をつき続ける彼。
その心はすでに「恐怖」を超越し、一片の罪悪感すら感じていません。
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臆病なフリしてないで
さぁ 面影重ねて迷い込んで
きみを護る狩人はとっくに美味しく、ね
≪狼青年 歌詞より抜粋≫
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「僕」の甘い言葉に誘われ、知らないうちに彼の手の内へと足を踏み入れてしまった「きみ」。
まるで、言葉巧みに嘘をついて腹ごしらえをしようとたくらむ狼と、まんまと誘われてしまう赤ずきんのようです。
本来の「赤ずきん」のストーリーでは、通りかかった狩人が赤ずきんとおばあさんを助けてくれます。しかし、この楽曲中では、狼青年から「きみ」を助けてくれる存在は既に狼に食べられてしまっているようです。
もはや「きみ」の逃げ場が無くなっていることを暗示しているのではないでしょうか。
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名前なんていいから好きに呼んで忘れて
理由ばかり欲しがるアリバイを壊して
真面目なキス まるで手品のよう
暴くブラウス 床に落ちるベルト
≪狼青年 歌詞より抜粋≫
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名前すらまともに教えてあげないことから、彼にとって「きみ」とは一夜限りの関係のつもりのようです。
「きみ」は、なぜ彼が自分に近づいたのか、自身を納得させられる理由を探しているようですが、ことごとく彼にはぐらかされてしまいます。
彼の真面目なキスに騙された「きみ」は、いとも簡単にその体を相手に委ねてしまうのでした。
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嘘吐き呼ばわりする側で指から煙を奪い取って
本音を吐くきみに、僕も種明かしを
≪狼青年 歌詞より抜粋≫
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このパートから物語の風向きが変わっていきます。
嘘で本音を隠す彼を嘘つき呼ばわりする「きみ」。タバコに火をつけると、過去に交際していたある男性を思い出し、本音を話しだします。
彼はその煙を奪うと、今度は自分のターンと言わんばかりに隠していた真実を話し始めます。
明かされる真実と「狼青年」の孤独
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「あいつのキスそっくりでしょう?きみがいつか泣かせた」
さよならは今夜 俺らは街を出るから
怒鳴り声 ドアを背に響く
許さなくていい 窓辺に映る嘘、月
≪狼青年 歌詞より抜粋≫
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このパートでは、彼の人格が優しい「僕」から、凶暴な「俺」へと変化していきます。
「あいつ」とは、ついさっき「きみ」と過去に関係があった男性のことでしょう。
ここで、ある疑問が湧き上がります。それは「あいつ」とはどういった人物なのかということです。この点について、いくつかの可能性を考えてみました。
1つ目は、「あいつ」とは「狼青年」が心を寄せていた存在、もしくは現在の交際相手という可能性です。
狼青年は、過去に大切な人を傷つけた「きみ」のことが許せなかったため、恋人のしぐさや身振りを真似して「きみ」に近づいたのではないでしょうか。
この場合、続く「俺ら」というのは狼青年と「あいつ」、つまり彼の恋人を指すことになり、最終的に2人で逃亡を図ることになります。
2つ目は、「あいつ」と狼青年が同一人物という可能性です。
主人公は、過去に交際していた「きみ」に酷く傷つけられたことから復讐を決意。成長した「青年」の姿で「きみ」の目の前に現れます。
この説では、何故、狼青年が「あいつ」と同じキスの仕方が出来たのか、そして何故この楽曲のタイトルが「オオカミ少年」ではなく『狼青年』なのかを説明することが出来ます。
この場合、後に続く「俺ら」は、狼青年の中の2つの人格である「僕」と「俺」を指すのでしょう。
真実を知り、激怒する「きみ」。その声を扉の向こうで聞きながら、彼はその場を立ち去ります。
そして続く「窓辺に映る嘘、月」という印象的な歌詞。その中に登場するのは、窓に映る虚像、そして太陽の光を反射する月です。
これらの不確かな存在が、嘘という虚像を引き立たせています。
また、月を見ることで人間から獣に豹変する「狼男」の逸話とも絡んでおり、人格の2面性を際立たせます。
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狼少年、もう二度と駆け出したからもう帰れない
たとえ誰の涙が胸に光っても
遮るものなどなにもない 不実な心で眠るまで
このまま彷徨い続けてゆく
出来の悪い夢より嘘で手繰り寄せてゆく安らぎへ
ふたり番う僕ら、狼青年
「俺と僕」との隣り合わせ
さぁ 心ゆくまで嘘を吐いて
≪狼青年 歌詞より抜粋≫
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疾走感溢れるサビ部分は、1番と2番で少しだけ歌詞が変化しています。
1番では「駆け出した”ら”もう帰れない」だったのが、2番では「駆けだした”から”もう帰れない」となっています。
嘘に身を任せて、流れされるままに生きてきた狼青年。そんな彼が、もう2度と帰らないと自ら覚悟を決め、心の赴くままに走り出した瞬間を切り取っています。
「俺」という自我が眠りにつくまで、誰を傷つけようが、狼青年は嘘をつき続けていくのでしょう。
その心の中に「俺と僕」を飼いながら、彼は今日もさまよい続けます。
アーティストとして楽曲を追求するHey!Say!JUMP
『狼青年』は、聴く人にとって何通りもの解釈が出来る魅惑的な楽曲です。その魅力を引き出したのは、まぎれもなく、楽曲の世界観に没頭していったHey!Say!JUMPです。
女王蜂アヴを取り込んだような彼らの歌い方からは、アーティスト女王蜂に対するリスペクトが感じられます。
MVの映像技術とリンクした高度なパフォーマンスからも、彼らが新たな可能性に挑戦し続けていることが分かります。
さらにパワーアップしていくであろう彼らから目が離せません。
TEXT kawer
Hey! Say! JUMPはHey! Say! BESTの薮宏太、高木雄也、八乙女光、伊野尾慧、有岡大貴、Hey! Say! 7の岡本圭人、山田涼介、中島裕翔、知念侑李からなる9人のアイドルグループ。 デビュー当時のメンバーは10人だったが、2011年6月に森本龍太郎がグループを脱退しました。 また岡本圭人は2018年9···